サッカーでチャンスにゴールを決めきれないことで、「決定力がない」とよくいわれる。
そこに枕詞がつく。
「日本人選手は決定力がない」と。
その理由を分析した記事なのだが、ちょっと細かいツッコミを(笑)。
「落ち着け」では解消しない! 日本人選手に決定力がない本当の理由 | フットボールチャンネル
Jリーグでも日本人選手の得点は少ない
「決定力不足」。
もはや日本サッカーに未来永劫つきまとうであろう言葉であり、現代における生活習慣病のように、サッカーというスポーツが存在する限り一生付き合っていかねばならない問題だろう。
ビッグチャンスを決めきれずに終盤までもつれ込み、相手のカウンター一発で勝ち星を逃す。そんな場面は、国内外を問わず、多くのサッカーシーンで目撃することができる。
「日本人には決定力がない」と言われて久しい。Jリーグの歴代得点王を眺めると、昨季と今季は日本人が奮闘しているものの、そこにはケネディ、マルキーニョス、ジュニーニョ、ワシントン、マグノ・アウベス、アラウージョ、等々、外国人選手の名前がずらりと並ぶ。
いわんとすることに一理あるのは確かだが、気になった点を挙げていく。
「決定力」を有する選手として、やはり名前をあげなければならないのは、アルゼンチン代表FWリオネル・メッシとポルトガル代表FWクリスティアーノ・ロナウドだろう。
ここ数年、世界最高の選手との呼び声をほしいままにしているこの二人は、本稿執筆時点で前者がリーグ戦31試合出場46ゴール、後者が33試合出場34ゴールと、圧倒的な数字を残している。
んん?
ちょっと待った。
メッシはアルゼンチン人、C・ロナウドはポルトガル人だ。そして、リーガ・エスパニョーラはスペインのリーグである。つまり、メッシとC・ロナウドはスペインから見れば「外国人」だ。Jリーグで外国人選手の得点数が多いのと同じ理屈ではないか?
日本人の決定力不足を論じるのなら、スペイン人の決定力不足も論じないと公平じゃない。実際、スペイン代表はFIFAのランキングでは1位になっているが、最近は決定力不足が問題にされている。
王者スペインが直面する深刻な問題|コラム|サッカー|スポーツナビ
4-0と大勝したイタリアとの決勝にかき消されてしまった感があるが、“ラ・ロハ”(スペイン代表の愛称)が抱えるゴール不足という問題はすでに昨年のユーロ2012から存在していた。しかもその問題はチャンスを決められない決定力不足ではなく、チャンス自体を作ることができないという、より深刻なレベルに至っている。その問題は先週のフィンランド戦のように、相手にゴール前の守備を固められた際にはっきりと現れる傾向がある。
レベルが違うから単純な比較はできないが、タレント揃いのスペインですら決定力不足といわれる。バルセロナのシステムをベースにしているスペイン代表だが、そこにメッシがいないために機能しないともいわれている。
レベルの違いを別にすれば、日本と構造的には似ている。
リーガ・エスパニョーラとJリーグのチーム別得点を見比べてみると。
海外サッカー – リーガ・エスパニョーラ順位表 – Yahoo!スポーツ
FCバルセロナとレアル・マドリッドがずば抜けているのは、メッシとC・ロナウドがいるからだというのは明白だが、ヨーロッパのリーグは38試合であるのに対してJリーグは34試合で、4試合少ない。
そこで、1試合のチーム平均得点を出してみると……
チーム名 | 1試合平均得点 |
FCバルセロナ | 3.02点 |
レアル・マドリッド | 2.7点 |
アトレチコ・マドリッド | 1.7点 |
レアル・ソシエダ | 1.8点 |
チーム名 | 1試合平均得点 |
サンフレッチェ広島 | 1.85点 |
ベガルタ仙台 | 1.74点 |
浦和レッズ | 1.38点 |
横浜F・マリノス | 1.29点 |
ということで、1試合当たりの得点は、リーガ・エスパニョーラの3位とJリーグの1位がほぼ同等。繰り返すが、レベルが違うからあくまで数字上の問題だ。
Jリーグの得点の多くを外国人が取っているにしても、それはリーガ・エスパニョーラにも同じことがいえる。
サッカーの試合は、1~2点で試合が決することが多いが、そのことは平均得点数にも表れている。決定力が決定的に違うのであれば、平均得点も4点とか5点とかになっていそうなものだが、FCバルセロナがダントツではあっても平均は3点。つまり、4点以上取ることはまれだということ。
メッシとC・ロナウドに決定力があることは周知のことだが、彼らは卓越した天才だ。しかし、代表チームでのふたりはチームの要ではあっても、必ずしも得点を量産しているわけではない。ふたりの決定力を活かすも殺すも、チームしだい。決定力を発揮できる状況に、チームが攻めなければ決めようがない。メッシやC・ロナウドでも、いつも百発百中のシュートを放っているわけでもない。
野球では、3割バッターは強打者といわれるが、10打席中3発打つだけだ。サッカーでは打率のような統計は取られていないが、シュート成功率というのもデータ分析してみてはどうだろう?
シュート成功率はないが、枠内シュート率というのはあった。
サッカーコラム J3 Plus+ 意外と高かったJリーグの枠内シュート率
今度は、5大リーグ(プレミア、セリエA、リーガ・エスパニョーラ、ブンデスリーガ、リーグアン)の枠内シュート率を調べてみた。(数字は2010-2011年シーズンの途中までの数字である。リーグやクラブによって試合数が異なるため、総数についてははあまり意味がない。)
※ リーグごとの比較
シュート数 SOG 率 J1 7619 2775 36.42% スペイン 4201 1529 36.40% J2 7334 2662 36.30% ブンデスリーガ 3977 1422 35.76% リーグアン 4093 1357 33.15% セリエA 4539 1469 32.36% プレミア 4990 1542 30.90%
枠内シュート率に限っていえば、Jリーグとリーガ・エスパニョーラは大差ないようだ。くどいようだが、レベル違いは無視だ(笑)。
……とまぁ、記事の筆者の中村氏が、数字をもとに決定力の違いを検証しているので、数字を比べると数字にはあまり違いが出てこない部分もあるということ。
ようするに、「本当の理由」には説得力が乏しい。
勝敗を決するのが試合だから、ようするに1-0で勝てばよい。
その1点をいかに決めるかだろう。6発快勝などというのが、いつも求められていることではない。
つまりは、いかに勝つか。
FIFAランキングの上位にいるチームは、勝率が高いということ。勝率の高いチームは決定力が高いともいえるが、スペインの現状を見れば、必ずしもそうではない。得点はFWやMFだけが決めるものではないし、フリーキックやコーナーキックから得点したっていいわけだ。
どういう形であれ、1点取ったら、あとは死守して1-0で勝ちきればいい。
決定力も大切であることは間違いないが、失点しないで勝ちきることの方が重要な気がする。日本チームに期待することは、失点しないでとにかく1点取ること。それが現実的な気がする。