医学は科学の一分野だが、科学的常識は新しい発見や研究によって、常に書き換えられていく。
かつては科学的だった説が、いまでは否定されて「エセ科学」になった例も多い。
「男性脳・女性脳」という脳の性差で、男女の思考や行動を説明する説は、現在ではほぼ「ウソ」だとされている。血液型の性格診断と同等レベルの、根拠が乏しい考え方なのだ。
だが、この「男性脳・女性脳の神話」を、マジで信じている医師がいるようだ。
夫婦の会話はかみ合わないのが当たり前!? 妻の逆鱗に触れず、自分も疲れない会話法教えます : yomiDr. / ヨミドクター(読売新聞)
男女が同じ人間の形をしているから分かり合える、と思うことが大きな勘違いです。姿は似ていても、脳の機能はかなり違います。男性の脳は問題解決型。一つのことに集中することが得意で、猪突猛進的に目標に向かいます。一方、女性の脳は一度にいろいろなことを処理して、なんとなく目標に向かいます。そのために、男性と女性の会話はかみ合わないと考えたほうが良いでしょう。
現役の医師でも、こんなことをいってる人がいるんだね(^_^)。
男女の思考と行動の違いは、後天的な環境(育てられ方、育ち方、家族関係)による違いが大きな要因になっている。「女の子だから」「男の子だから」と条件付けで育てるから、その色に染まっていく。
「男性脳・女性脳の神話」が生じた経緯と、差はないとする検証については、以下の2つの記事を参照。
第5回 「男脳」「女脳」のウソはなぜ、どのように拡散するのか | ナショナルジオグラフィック日本版サイト
「間違った心理学で、男性がこう、女性がこうとか、世の中ではよく言われていますね。例えば、男女の脳の違いとして、男性の方が左右の脳の連携がよくないとか。これには、元になった論文がありまして、1982年に『サイエンス』誌で発表されています(※)。男女それぞれ、脳梁の太さを測ったら、女性のほうが太かったと。でも、この論文のデータは男性9人、女性5人からしかとってないんです。それだけで、女性のほうが左右の脳の連絡がよくできてるっていう結果にしている。そもそも信頼性がないし、その後、いろいろな研究者が再現しようとしたんだけど、結局できてません。今さすがにこれを信じている脳科学者はあんまりいないんですよ」
「男性脳」「女性脳」は存在しない?:英国の研究結果|WIRED.jp
6,000件を超えるsMRI画像をメタ分析した結果、海馬や脳梁の大きさ、言語処理の方法など、これまで「男性脳」「女性脳」の根拠とされてきた脳の性差は実際には存在しないことが判明した。
ベストセラーになったという『妻のトリセツ/黒川伊保子 著』は、古い「脳の性差説」に基づいていて、脳科学の専門家から批判されていた。
「脳の性差」語る本が人気 その科学的な根拠は?:朝日新聞デジタル
『トリセツ』で女性の「理不尽な不機嫌」を「生まれつき女性脳に備わっている」母性本能に求めたり、「男性脳に、女性脳が求めるレベルの家事を要求すると、女性脳の約3倍のストレスがかかる」として、男性でもできそうな家事として「米を切らさない」「肉を焼く」などごく簡単な仕事だけをリストアップしたりする記述は、「ニューロセクシズム的」とも指摘する。
ニューロセクシズムとは2000年代に現れた言葉で、男女の行動や思考の違いのほとんどが、脳の性差によるかのように説明すること。四本さんによると「男女の行動の差は生得的な脳のせいで、解消できない」という考えを招く恐れがあるして、近年学術界で問題視されているという。
読売新聞の記事は、『妻のトリセツ』と大差ない根拠と主張だと思う。
そんな神経神話を信じている医師は、最新医学を、最新科学を勉強しているのか?……と問いたくなる。錆びた脳みそでは、ヤブ医者確定だぞ(^_^)。
そもそも論として、夫婦に限らず、友人や職場の同僚、あるいは上司・部下たちと、会話がどれだけ噛み合っているか?
噛み合わないことは、多いと思うぞ。
人間は他人の脳にはアクセスできない仕様(心は読めない)になっているのだから、完璧に相手のことを理解できない。言葉を駆使して意思を伝えようとするが、往々にして気持ちを言葉にするのは難しく、うまく表現できなくて誤解や勘違いは常に生じる。
夫婦だから、男女だから、なのではなく、他人だから会話は噛み合わないのだ。
根本的な条件設定が間違っているよ。
「女性はおしゃべり」というのが、女性だからおしゃべりなのかを証明するためには、従来の環境から隔離して、周囲の人間の影響を受けずに赤ちゃんから育てるような実験が必要だろう。
だが、そんなことはできない。動物実験のようにはいかないのだから。
女の子は母親の影響を強く受けるだろうし、男の子は父親の影響を受けるだろう。母親がおしゃべりであれば、母を見て真似る女の子もおしゃべりになると想像できる。
技術屋の父親の息子は、父に影響されてメカに興味を持つ。私がそうだった(^_^)。
子供は、もっとも身近な親を模範とするから、親子は似る。
夫婦間のコミュニケーションは、会話が噛み合うかどうかの問題だけじゃないよ。
長年のつきあいであれば、相手の考え方というか「癖」は把握しているもの。それがわかっていれば、どういう反応をするか、行動をするかは想定できる。
それすらできないとしたら、夫婦として関係性が希薄だってこと。
それとスキンシップも大切。
ハグするとか、手をつなぐとか、相手とじかに接することは、言葉を並べ立てるよりも有効なコミュニケーションになる。(小声で、セックスも含む)
とりあえず、男性脳・女性脳なんて話をする医師のいうことは、信用しないこと(^_^)。