【レビュー】映画『サカサマのパテマ』

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アニメ映画『サカサマのパテマ』を、公開初日の本日、鑑賞してきた。
映画館は、池袋の「シネ・リーブル池袋
上映されている映画館が少なく、東京都内では3カ所しかなく、全国でも15カ所にすぎない(2013年11月9日現在)。
だが、これは超オススメだ!

久々に感動する映画を観た。
本作は、良質なファンタジーであり、新たな視点を気づかせてくれる。

最近観た映画としては、「風立ちぬ」よりも面白いし、完成度も高い。
参照→【レビュー】宮崎駿監督作品『風立ちぬ』

「サカサマのパテマ」は、ストーリーがよく練られているし、意外性もあり、どんでん返しが2度ある。そこはネタバレになるから書かないが、私の予測を超える展開だった。

映画を観るときというのは、ストーリーを追いながらも、その先を予測しながら観るものだが、予測通りの展開になるとあまり面白くない。観客が予測できない展開にできるかどうかが、作り手の力量になる。

吉浦監督は、見事に観客の裏をかいた。
そこには、緻密な計算があると思う。
ここまで練られたストーリーは、いろいろ観てきた映画の中でも秀逸だ。

作風として、宮崎駿監督の影響も見られるが、それは若手監督としては無理からぬこと。
ジブリ・ブランドの映画は、影響力や興行的にも強みではあるが、作品の良さからいえば「サカサマのパテマ」はすでに超えているといってもいい。
願わくば、口コミなどでこの作品の評価が高まり、より多くの映画館で上映されて、多くの人に観てもらえればと思う。
その価値がある作品だ。

テレビCMも流れてはいるが、露出度は低い。
興行的に「風立ちぬ」に遠く及ばないのはしかたないとしても、もっともっと評価されていい映画だ。

人が空に落ちていくというアイデア自体も面白いが、それが「世界がどう見えているか? どう見ているか?」という問いかけにもなっている。
世界観の異なる者同士が、理解しあえるのか、共感しあえるのか、愛しあえるのか……。

ファンタジーの設定を借りて、現実世界の矛盾や社会問題を鏡として写しているように思える。
画面が上下逆さまに変わるシーンがたびたびあるのだが、そこで観客として見ている視点も変わる。
逆の立場になったら、どう見えていて、どう考えているのだろう?
そんなことを気づかされる。

宮崎作品では、監督の主義主張がキャラクターのセリフとして説明されるが、「サカサマのパテマ」では説明はあまりなく、観客に考えさせる。
説教臭くなくていい(笑)。

親子で観る映画、恋人同士で観る映画としても、本作はオススメだ。ただし、親子といっても、小学校高学年以上じゃないと、感覚的にはわからないと思う。

ラスト。
不覚にも、涙ぐんでしまった(笑)。
ハッピーエンドの物語ではあるが、「いい物語をありがとう」という感動の涙だ。
やっぱり、映画はこうでなくちゃ!

*****************注意*******************

以下、細かいツッコミとネタバレなので、観ていない人は読まない方がいいよ。

物語の設定として、「空に向かって落ちる人々」が出てくるが、これは重力が逆に働くためだとされている。そうなった原因として、過去に反重力の実験が失敗したため……と説明される。

反重力が働くのは、その実験によって影響を受けた人々だけでなく、周囲の環境も影響を受けている。だから、反重力世界で生きる人々とそこにある物質までもが、空に落ちる。
まぁ、それはそれでアリではあるのだが、重力が逆に働いていても、物理法則は普通に作用している。違いは、重力が働く向きだけである。

少女パテマと出会った少年エイジが、逆さまに抱きあうことで、上下逆さまに作用する重力によって、若干体重が重いエイジの重さ分だけ、「軽くなる」というシーンがある。

仮に、パテマの体重が45Kgで、エイジが50Kgだとしよう。
体重差が5Kgなので、抱きあったふたりは、エイジ側の地面に向かって落ちることになる。相殺された体重によって、5Kgの体重になっているわけで、月面上をジャンプするように、軽々と高く長い距離を飛ぶ。
そこまでは理にかなっている。
しかし、抱きあったふたりが、高所から「ゆっくりと落ちていく」というのは、間違い(笑)。

サカサマのパテマ 予告編2……から、空中シーン

「サカサマのパテマ」空中シーン

「サカサマのパテマ」空中シーン


相殺で体重5Kgであっても、落下速度は変わらない。
着地時の衝撃は少なくて済むが、5Kgでも50Kgでも落下速度が変わらないのが、万有引力の法則だからだ。

重力に対する斥力としての反重力だと、パテマとエイジにも斥力は働くはずで、2つの磁石のN極とN極が反発し合うように、ふたりは接触することもできなくなってしまう。
物語中では、反重力という言葉を使っていたが、むしろマイナス質量といった方がいいかもしれない。

物語はファンタジーなのだが、その説明のために科学的な表現を用いているので、合理性を与えたつもりが、物理法則に矛盾するという表現になってしまっている。
そこが唯一残念な点だ。
ファンタジーならファンタジーに徹した方がよかった。

ツッコミどころはあるものの、それでも素晴らしい映画である。

私は、この作品を絶賛する!

コメントでいただいた疑問について、補足説明を書きました。
『サカサマのパテマ』についてのSF考証」を参照してください。

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