もたなかった……
酸素室を設置して、クリを迎えにタクシーで行った。
病院を出るとき、家に帰り着いたときには、まだ鳴けるだけの気力があった。
しかし……
嘔吐していて、血が混じっていた。
酸素室に入れて、しばらくすると咳きこみ始めて、全身から力が抜けた。
呼びかけても、反応はない。
家に帰るのを、待っていたのだろうか?
私たちが迎えに行くのを、待っていたのだろうか?
もっと、待っていて欲しかった……
20時15分。
息を引き取った。
いつか、この日が来ることはわかっていた。
クリを飼い始めたときから。
やんちゃ坊主だった、クリ……
うちで、一番のおバカキャラで、楽しいヤツだった。
甘えんぼうで、私たちが寝るときに、枕元に来ていた。
愛想がよくて、お客さんが来ても、逃げもせず愛嬌を振りまいていた。
食い意地が張っていて、なんでもおねだりしていた。
好物は、マグロの刺身。
欲しいものがあると、2本足で立ち上がって、自分の頭を撫でるように手を振り、「ちょうだいちょうだい」とでもいうような、ダンスをしていた。
ああ……
もう、おまえの鳴き声を聞けない……
もう、おまえのふかふかの毛皮に、触れられない……
もう、もう二度と、おまえを抱っこできない……
辛い……
いつだって、猫たちを看取るのは、辛い。
楽しい時間、幸せだった時間が長ければ長いほど、辛い。
せめてもの救いは、私たちが一緒に育った家に帰ってきてから、旅立っていったことだ。
クリ、いま、どのへんにいるのかな?
迷わずに、猫の天国に行けるかな?
おまえは猫の本能に乏しかったから、心配だよ。
迷子になってるような気がする。
迷子になってるのなら……
帰っておいで!
帰ってきてくれよ……
美味しいマグロを用意しておくからさ。
クリ!
帰ってこい!
涙が……
止まらない……