いまだに新型コロナ等での感染症対策として、マスクの効果を過大・過信する人たちが少なくない。その科学的根拠として、挙げられる事例や専門家の発言は、一見、科学的なようで穴だらけの根拠だったりする。
 そんなツイートがリツイートされて、私のタイムラインに流れてきた。

 感染症、特に呼吸器系で感染する感染症についての、マスクの予防・防御効果については、過去記事でいろいろと取り上げた。新型コロナが発生する以前の、インフルエンザの流行期にもマスクの予防効果についての問題を取り上げてきた。

 以下、参照。

 列挙すると、くどいくらい書いてるな(^_^)b

 富岳のシミュレーションや個別のマスクの実験で、防御率が何%という結果を、あたかも予防・防御効果があると喧伝しているのが、誤解の元になっている。
 日本でのマスク着用率は、たぶん世界一だと思うが、それでも第8波までの感染拡大を招いている。欧米に比べて感染者数や死者数が少なくなっているが、それをもってマスクが感染規模を少なくしたと結論づけるには、根拠が乏しい。

 なぜなら、対策としてマスク着用だけを実施したわけではなく、緊急事態宣言や飲食店の閉鎖、人と人の距離を開けるソーシャルディスタンシング、外出自粛、集会やコンサートの禁止、そしてワクチン接種など、さまざまなことをやってきたので、どれがもっとも効果を上げたのかの検証はできていないからだ。
 マスクの効果を証明するには、他の要因を排除した実験をしなければならず、現実的にそういう実験をするのは不可能だ。
 結果としていえることは、さまざまな対策をしてきて、マスク着用率が99%になっていたのにも関わらず、感染拡大は止められなかったということ。そして、感染者のほとんどがマスクを着用していたという事実。マスクの効果は、極めて限定的だったともいえる。

 マスクの目の粗さよりも小さい飛沫核はすり抜ける……という指摘に対して、「静電気やブラウン運動によって吸着される」という論理を展開している人もいたが、それでも完封ではないわけで、すり抜ける飛沫核があれば感染リスクは生じる。
 過去記事にも書いたが、周囲に漂う100万個のウイルスを帯びた飛沫核を、90%防御できたとしても10万個は吸い込まれる。その10万個で感染が成立するのなら、マスクの防御効果は不十分だということになる。
 飛沫核を何%防御できるかが問題なのではなく、通過するウイルスで感染がどれだけ成立するかが問題なんだ。

 引用ツイートの中に、

マスク、手洗い、黙食などの新しい生活様式で、RS、溶連菌、マイコプラズマ肺炎、手足口病、ウイルス性胃腸炎、等々の感染症は激減したし、死者数も激減しました。

 とあるが、それらの感染症がマスクによって防げたという証拠はない。
 手足口病は主に接触感染だし、ウイルス性胃腸炎は主に食べものからの経口感染なので、マスク着用はほぼ関係ない。一緒くたにするのはどうかと思う。
 挙げられた感染症に感染する人が減ったとするなら、それはマスクよりも人と人との接触機会が減ったことが要因だろう。どんな感染症でも同様だが、他人と接触しなければ感染機会はほぼなくなる。そこは単純な話なんだ。
 ただ、誰とも接触しない生活というのは、普通は無理なので、感染機会がゼロになることはない。

 別のツイートで見かけたが、欧米と日本の感染者数の推移のグラフを示して、流行初期に日本の感染者数が少なかったのは、マスク着用を積極的に進めたからだ……というのがあった。

 このツイートに返信をつけたが、少なかったとする流行当初は、日本のPCR検査数が極端に少なく、検査数が少なければ確認できる感染者数も少なくなる。欧米が数十万件/日の検査をしているのに、日本では5000件/日にも満たなかった時期がある。検査できるキャパが少なかったから、数字としては少なくなっただけなんだ。そこを勘違いしている。

 最近になって、日本の感染者数が欧米に比べて多くなっているのは、立場が逆転しているからだ。欧米はウイズコロナに舵を切ったため、検査を積極的にしなくなったが、日本は全数把握をやめたのにも関わらず、自主的も含めてせっせと検査をしている。その差は、単純に検査数の違いに過ぎない。

 アメリカの死者数が多いのには、貧富の格差や医療保険制度の問題も関係している。

RIETI – 米国、コロナ死亡者50万人突破…平均治療費370万円、経済的弱者切り捨ての医療制度

医療費が高い米国では、新型コロナウイルス感染症の治療のために一人当たり平均約370万円の費用がかかるといわれている。その結果、2800万人以上の無保険者はもちろん、いわゆる低保険(保険料は安いが窓口負担が高い保険)に加入している者は検査や治療を控える。この医療格差のラインが、テレワークができるかどうかの境界と重なっており、経済的弱者の感染リスクが増すとの結果を招いている。この格差が人種間で顕著なのはいうまでもない。

 というように、条件が日本とは異なるので比較は難しい。

 また、NHKのドキュメンタリーで見たように思うが、ネアンデルタール人由来の遺伝子を持つ人々は、特定の感染症にかかりやすいというのがあり、その中に新型コロナも含まれる可能性を示唆していた。これに該当するのが、ヨーロッパにルーツを持つ人々だ。

 結論として、「マスクに予防・防御効果があるとするには、決定的な根拠が乏しい」ということになる。

【追記】
 書き忘れたので追記しておく。

 新型コロナが流行した、この2年あまり間、インフルエンザの感染例が極端に少なかった。
 このことを挙げて、マスク効果だと主張する人がいた。

 これも視点というか根拠が違っていて、新型コロナが大流行したために、同じような感染経路と感染対象であるインフルエンザは「ウイルス干渉」によって、生存が阻害されたとの説がある。

「ウイルス干渉」はコロナとインフルエンザでも起こる:日経メディカル

ウイルス干渉は細胞レベル、個体レベル、集団レベルの3段階で考える必要があります。細胞レベルでの干渉は、あるウイルスが1個の細胞に感染すると、他のウイルスには感染しにくくなるという現象です。具体的な反応の1つが、細胞にウイルスが感染すると、防御反応としてインターフェロンを産生するというものです。インターフェロンは他の細胞が抗ウイルス状態になるように誘導する作用があるため、他のウイルスには感染しにくくなるのです。また、細胞レベルでウイルス干渉が起きると、個体としても他のウイルス感染症に感染しづらくなります。このように、ウイルスは宿主を奪い合うのです。

さらに、ヒト-ヒト感染により1つのウイルス感染症が流行すると、多くの人で抗ウイルス作用が誘導され、防御反応が高まるため、他の感染症の流行は小さくなります。これが集団レベルでの干渉です。例えば、RSウイルスは夏から秋にかけて流行し、インフルエンザの流行期には流行が収束しますが、これは集団レベルでのウイルス同士の干渉作用によるものであることが知られています。

 コロナとインフルの同時流行が心配されたりしているが、現状、どちらも感染者が出ていて、両方に同時感染している人も出ているが、大きな流行にはなっていない。
 ある意味、どっちが優勢になるかの、ウイルス同士の勢力争いが展開されているようなものだろう。
 インフルの流行が優勢になると、コロナの感染者は減っていくと予想される。

 繰り返しになるが、マスク効果を説明するためには、他の要因を排除して、根拠の優位性を説明しなくてはならない。
 安易に「これが根拠だ」と飛びつくのは、墓穴を掘ることになる。

諌山 裕

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