気候変動問題から脱炭素の旗頭として、ガソリン車およびディーゼル車を撤廃させるために、EV車の普及が推し進められている。
 そのために投じられているのが、購入する際の国からの補助金。
 しかし、補助金が削られることで、EV車の売れ行きが落ち込んでいるという。EV先進国のドイツでの話。

【社説】ドイツ国民、EV購入に二の足 – WSJ

ドイツでは、二酸化炭素(CO2)排出量実質ゼロの目標は、信仰の対象のようなものだ。しかし、その信仰心にも限界があったようだ。政府が負担の大きい補助金を削減・廃止した後の、電気自動車(EV)の販売台数の落ち込みを見ればそれが分かる。

 ドイツ連邦自動車局(KBA)によると、完全電動のEVの今年1月の販売台数は、前年同月比13.2%減少した。ハイブリッド車の販売台数は同6.2%減だった。これに対し、ガソリン車の新車販売台数は3.5%増加し、ディーゼル車の販売台数の減少幅は1.2%と小幅にとどまった。

 こうした状況をもたらした主因は、ドイツ政府が年初にEV・ハイブリッド車の補助金を削減・廃止したことだ。昨年12月までは、メーカー希望の純小売価格が4万ユーロ(約560万円)未満のEVには、消費者分とメーカー分を合わせて最大9000ユーロの補助金が支給されていた。同じ価格帯のハイブリッド車への補助金は6750ユーロだった。政府は今回、ハイブリッド車への補助金を全廃し、4万ユーロ未満のEVへの補助金を4500ユーロに削減した。来年にかけて補助金額と支給対象がさらに絞り込まれる予定だ。

(中略)

 従って今年は、気候変動対策の信仰の中心であるドイツにおけるEV需要が市場で試される年になるだろう。西側諸国の政治家は、宣伝されているほど環境に配慮したものでないにもかかわらず、EVの販売を促進するために補助金を利用し、制度面で義務付けてきた。EVの環境負荷は、EVにエネルギーを供給する電力網と同程度にすぎない。また、原子力発電の利用を拒否しているドイツは、ロシアからの天然ガス輸入停止分を賄うため、石炭の利用を増やしていることになる。さらに、EVとそのバッテリーを使用する際には、コバルトや銅、リチウムの採掘に伴う環境面のコストが生じる。

 「気候変動対策の信仰の中心であるドイツ」というのに、苦笑してしまった。
 そうかー、気候変動問題は信仰なのか。

 また、「EVとそのバッテリーを使用する際には、コバルトや銅、リチウムの採掘に伴う環境面のコストが生じる」というのは、以下の過去記事を参照。

 EV車やバッテリーなどに必要な、リチウムや銅が足りないという問題だ。その足りないものをどうやって確保するかが不透明なため、脱炭素が実現できそうにないという話。

 EV車のバッテリー交換にかかるコストも問題になっているね。
 どんな部品でも経年劣化するものだが、バッテリーは劣化が早く、カタログ寿命が8年でも、3年〜5年で交換が必要なくらいの劣化が進む場合があるという。寒冷地では、バッテリーの劣化が早いともいわれる。ただし、保証期間内で無料交換の対象になっていれば、交換費用の心配はない。
 現状では、バッテリーの交換が必要になったら、新車を買った方がいいらしい。ただし、EV車の中古は、バッテリー劣化のために買い取り価格が安くなるというデメリットはあるようだ。

 電気があってのEV車なので、電気の供給が逼迫したり、電気料金の高騰が続くようだと、EV車が環境に優しいとはいえなくなる。その発電方法が火力発電であれば、間接的に石油・石炭を燃やすことになってしまう。

 ブログ記事としては書いてないが、資源としての「」も少なくなっていて、半導体の原料となる砂(ケイ砂と呼ばれる二酸化ケイ素濃度95%の特別な砂)の確保が難しくなっているという。
 詳しくは、以下の番組を参照。

SAND IS THE NEW GOLD 〜世界を巻き込む砂の争奪戦〜|NHK BS1 スペシャル

 このケイ砂の不足も、ITやEV、再生可能エネルギーの進歩に暗い陰を落とす。砂の確保を巡って争奪戦が繰り広げられ、新たな砂の採掘のために環境破壊が進行している地域もある。環境少女のグレタさんが望む世界の実現は、脱炭素の代償として他の環境破壊をもたらし、容易ではないということ。

 世界の流れを見ていると、EV車に一辺倒なのが気がかりだ。ドイツがEV車普及に力を入れたのは、ロシアからの天然ガスを当てにしていたからでもある。その当てが外されてしまったために、電力の確保が難しくなっている。
 それは日本も同様で、電力をどうやって安定供給するのかが、EV車普及の鍵でもある。

 未来を見据えると、水素エンジンの方が有望なのかもしれない。
 問題は、水素をどうやって低コストで生産するかだ。
 たとえば、水素分離膜(水素だけを通す特殊な金属膜)の基礎技術はあるので、それを商業ベースで採算の取れるシステムにできるかどうかだ。

 EV車は、普及すればするほど、資源の不足問題が重しになっていくように思う。
 ある時期を境に、ガソリン車に回帰するかもしれないね。

諌山 裕

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