大涌谷周辺の火山活動は長期化の様相だが、その地域の呼び方に「箱根山」を使うなという要請がされている。
気持ちはわからないでもないのだが、疑問も感じる。
「箱根山」表記、報道も変更を 黒岩知事が呼び掛け|カナロコ|神奈川新聞ニュース
箱根町の大涌谷周辺で活発化している火山活動に関連し、黒岩祐治知事は27日の定例会見で、気象庁が火山情報で用いている「箱根山」の表記を「大涌谷周辺」といった表現に変更して報じるよう報道機関に協力を呼び掛けた。
「箱根山」の表記をめぐっては、山口昇士箱根町長が菅義偉官房長官(衆院2区)に対し、風評被害防止の面から変更を検討するよう要望。県も気象庁に同様の申し入れを行った。
ここで押さえておきたいのは、「風評被害」という言葉の定義だ。
ふうひょうひがい【風評被害】の意味 – 国語辞書 – goo辞書
根拠のない噂のために受ける被害。特に、事件や事故が発生した際、不適切な報道がなされたために、本来は無関係であるはずの人々や団体までもが損害を受けること。例えば、ある会社の食品が原因で食中毒が発生した場合、その食品そのものが危険であるかのような報道のために、他社の売れ行きにも影響が及ぶことなど。
厳密にいえば、火山活動が活発化していて、噴火の可能性が低いとはされているものの、噴火しないと断言はできない状況だ。
つまり、「根拠のない噂」にはあたらない。
この場合、「風評被害」というのは適切ではないと思う。
そもそも論だが、箱根山一帯は、本来、遠い遠い昔(約40万年前)に、3000m級の富士山に匹敵する火山があって、それが大爆発で吹き飛んだあとにできた、外輪山の中にある。
箱根は、火口の中にある街なんだ。
地形図で見ると全体像がわかる。
▼箱根山の外輪山。Googleマップの地形図より
規模としては、阿蘇山の外輪山よりは小さいが、火山の中に街があることでは共通している。阿蘇山の中岳も噴火しているが、「噴火しているのは中岳だから、阿蘇山とはいわないでくれ」などというと、「中岳ってどこ?」なんて話になってしまう。
▼阿蘇山の外輪山
「危険なのは、大涌谷周辺だけなので、ほかは安全」
……という根拠の保証は、誰もしていない。歴史上、人間が残した記録に例がないというだけでしかない。もともとあった元祖箱根山の大噴火を、人間は目撃していない。
危機感をあおるわけではないが、絶対安全などということは、誰も保証できないんだ。
大災害は想定外だから起こる。予想できるのなら、災害は未然に防げる。楽観的予想では、噴火は起きないだろうという前提で、立ち入り禁止区域が設定されているにすぎない。
「大涌谷周辺以外は安全だから、どんどん観光に来てください」
……というのはいいが、では、万が一大噴火したら、誰が責任を取るのか明確になっていない。
黒岩知事が全責任を負うのかい?
噴火の可能性は、4%という数字が出ていたが……
箱根山、噴火せず沈静化の可能性96% 静岡大が推定:朝日新聞デジタル
現在起きているような噴気の異常や地殻変動をともなう群発地震は20年に1回程度と想定した。この場合は噴火せず終息するケースが96%で、噴火するケースが4%と見積もられた。噴火した場合は、気象庁が注意を呼びかけている水蒸気噴火になるのが83%、溶岩ドームや溶岩流が生じる噴火は16%、大規模な噴煙や火砕流を伴う「プリニー式噴火」は1%だった。
この4%を低いと見るか、高いと見るか。
交通事故に遭う確率、0.9%よりは高い。
一生のうち交通事故に遭う確率は何%? | 交通事故全般 | 交通事故慰謝料協会
年間の交通事故死傷者数(118万人)を日本の総人口(1億2692万人)で割った「1年間で事故にあう確率」を0.9%と算出。
リスクの確率なんて、数字遊びみたいなもので、たいしてあてにならないし気休めでしかない。
多くの被害者を出した御嶽山は、警戒すらされていなかったし、噴火リスクの確率は発表されていなかった。
繰り返すが、災害は想定外だから起こる。
東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)以降、日本列島の地下のバランスは変わったという。最悪のケースを想定する火山学者は、近傍で大きな火山噴火が起きると予測している。
それが箱根なのか、富士山なのか、それとも別の場所か。
誰にも予測できない、想定できないから、未来のある日に「ついに来たか」という災害に遭遇するんだ。
富士山が噴火したら、東京オリンピックどころじゃなくなるけどね。