「ダイヤラッシュ」じつは水晶だった

ダイアモンドの原石を、手に取って見たことのある人は少ないだろう。
同様に水晶の原石を目にすることも少ないと思う。
両者の区別がつかないことで、勘違いから「ダイヤラッシュ」が起きてしまったというニュース。

「ダイヤラッシュ」引き起こした謎の原石、正体は水晶 南ア 写真9枚 国際ニュース:AFPBB News

【6月21日 AFP】南アフリカで20日、先週「ダイヤモンドラッシュ」を引き起こした謎の原石の正体が、ただの水晶(石英)であることが予備調査で明らかになった。

最大都市ヨハネスブルクから南東に300キロ以上離れた、クワズールー・ナタール(KwaZulu-Natal)州クワフラティ(KwaHlathi)には、村外れで牛飼いがダイヤモンドとみられる原石を掘り当てて以来、何千もの人が殺到していた。

(中略)

現地当局は専門家チームの報告書に言及し、「分析の結果、この地域で見つかった原石は、ダイヤモンドではないことが確定した」と発表した。「原石の正体は、水晶だった」

原石の価値は未確定だが、ダイヤモンドと比べて「非常に低い」とみられるという。

この写真を見ただけで、水晶またはカルサイトであることがすぐにわかる(^_^)
鉱物には特定の結晶形があるので、この形状から推察できるんだ。

私の鉱物コレクションから、ダイアモンドの原石を紹介しよう。

▼母岩付のダイアモンドの結晶

南アフリカのダイアモンド鉱山として有名なキンバリー産だ。
結晶の大きさは3mmほど。
ダイアモンドは完璧な結晶形で産出することは珍しく、やや型崩れした丸っこい形で出てくる。これをカットして宝石にするわけだ。
この標本は母岩付なので、どういう岩石にダイアモンドが入っているのかがわかる。

水晶は世界各地で産出するが、産地によって含有物の違いなどの特徴はあるものの、結晶形は同じだ。

▼水晶と黄鉄鉱〈ペルー産〉

金色に見えるのは、金(ゴールド)ではなく黄鉄鉱。
黄鉄鉱は鉄と硫黄の化合物なのだが、光沢や色がゴールドで似ているため、古くはゴールドと間違われたりした。
水晶は岩石中の空洞(晶洞という)に結晶として成長するので、このように先端が尖った角柱状になる。

▼ハーキマーダイアモンド(Harkimer diamond)(母岩付)

名前にハーキマーダイアモンドと付いているが、これは正式名称ではなくこの産地特有の通称だ。ダイアモンドのように見える水晶である。

似ている結晶形としてカルサイトがある。

▼カルサイト(calcite)〈アメリカ・テネシー州・エルムウッド産〉

カルサイトもありふれているが、白濁しているものが多いので、水晶とは区別しやすい。

記事中に、『原石の価値は未確定だが、ダイヤモンドと比べて「非常に低い」』とあるが、写真の水晶であれば、せいぜい数百円だろう。
完璧な結晶で、傷のないノーダメージであれば数万円にはなるが、一攫千金にはほど遠い。

そもそもダイアモンドが産出する地の条件が限られている。
ダイアモンドは、マントルの高温・高圧の中で生成される。それが地上に出てくるためには、マグマ噴火で音速に近いスピードで地上に出て急冷される必要がある。ゆっくりと時間をかけて上がってくると、結晶が崩壊してただの炭素(黒鉛つまり墨)に戻ってしまう。

このような条件を備えた場所は、世界にわずかしかない。そのためダイアモンド鉱山は少ない。
今回の「ダイヤラッシュ」は、人間の欲望が先走った結果だが、水晶では今晩の飯代にもならなかったね。

諌山 裕

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