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【サッカー】日本代表の進歩は、何歩進んだか

サッカー・アジアカップは、グループリーグ無失点3連勝で絶好調とはいえないまでも結果は残し、次なるステップに向かっている。

アギーレ監督の八百長疑惑で、本筋以外の部分が騒がしいが、選手たちは頑張っている。
スポーツ紙は、アギーレ監督の解任が既定路線であるかのように煽っているのだが、ここぞとばかりに横並びに叩くのはどうしたものか。柔和なザッケローニ前監督と違って、強面のアギーレ監督は、就任当初からメディア関係者の不評を買っていたようだ。

疑惑などない方がいいのは確かだが、推定無罪の段階からまるで「黒」確定のような報道は褒められたものではない。今回の問題に限らず、過去にも報道が先走って犯罪者扱いし、のちに無罪だったことが判明した事例はある。捜査や裁判はこれから始まるのだから、漏れ聞こえてくる噂だけで先走らない方がいいと思うのだが……。

アジアカップの、パレスチナ戦、イラク戦、ヨルダン戦と3試合を終えて、サッカー記者や評論家が現在の日本代表について、いろいろと書いている。
評価は二分している。
好意的な評価と批判的な評価が、ほぼ半々。

批判的な発言や記事が十八番のセルジオ氏は、チクリと刺すことは忘れていないが、意外にも好意的な発言をしていたのが面白かった(^^)。
批判的サッカー評論家のもうひとりである、杉山茂樹氏は相変わらずの辛口なのだが……。

「奪う力」の不足。小さくまとまるアギーレジャパン|集英社のスポーツ総合雑誌 スポルティーバ 公式サイト web Sportiva|J Football

 優勝する勢いが感じられない――ヨルダンに2-0で勝利した直後に実感したことだ。3試合を終えて、これだという、残り3試合を勝ち抜くための武器が見えてこないのだ。

失点ゼロ。3試合連続完封勝ちした原因について、アギーレは最終ラインの堅さだけではなく、チーム全体としての守備意識の高さを挙げた。しかし、僕の目にはそう見えなかった。それなりに的確なポジションを取っていたために、穴を作らなかったに過ぎない。

(中略)

アジアカップ用のサッカー。アジアの弱小相手に取りこぼしをしないサッカー。新しいテーマにチャレンジせず、従来通りの戦いをすることに安定を求めようとするサッカーに、アギーレジャパンは成り下がっている。
プラスアルファの要素がない。勢いを感じない、これこそが最大の原因だ。

読んでいて、「はぁ?」「んん?」「なんでそうなる?」と的外れな分析に首をかしげた。
じつは、記者の名前を見ずに読んでいたのだが、名前を見て納得した。
な~んだ、杉山氏か(苦笑)

Yahoo!に転載された記事のコメントに、私が感じたことと同様の意見があり、賛同の票が多く入っていた。
アジアのレベルが、欧州や南米に比べて低いことは事実だ。

それはサッカーの歴史や文化、サッカーに対する価値観が根本的に違うからでもある。また、身体的な特性の違いも関係している。
日本代表が、ブラジルやドイツやスペインのようなサッカーをできるはずもない。かのスペインですら、ブラジル大会ではグループリーグ敗退だったのだ。
杉山氏の理想型のサッカーとは、どんなものなのだろうか?

その理想型が、ブラジルやドイツであるとするなら、おそらく100年経っても到達できない。日本代表は日本人であることを変えられないのだから。
また、杉山氏の悪い癖というか決まり文句なのだが、日本よりも格下とされる国のチームを酷評するのはいかがなものか。「田舎チーム」とか「アジアの弱小」などと、侮辱した表現は日本人としては恥ずかしい。対戦国がどんなチームであれ、リスペクトする気持ちは持ちたいものだ。

ブラジル大会前に親善試合で対戦したコスタリカに対しても、「コスタリカは弱者。よくぞまぁ、ここまで弱い相手を探したものだと逆に感心したくなる」と侮辱的な表現をしていたが、そのコスタリカは決勝トーナメントに進んだ。

強豪、弱小、格上、格下といった呼び方の根拠は、過去の戦績や伝統から格付けされるわけだが、その根拠となっているのはFIFAランキングなのだろう。
ずいぶん昔にFIFAランキングについての考察記事を書いたのだが、FIFAランキングの上位は強さをある程度反映しているものの、30位以下の差は微々たるもので、順位の差ほどには離れてはいない。

※参考↓
FIFAランキングについての考察(みたいなもの)
FIFAランキングについての考察(その2)

上記の記事にも書いたことだが、FIFAランキングの順位は当分で数字が並ぶため、40位と80位だとずいぶん差があるように錯覚する。実際には獲得ポイントでみるとわずかな差なのだ。

直近のFIFAランキングでは、日本は54位(563ポイント)、パレスチナは115位(268ポイント)、イラクは114位(269ポイント)、ヨルダンは93位(346ポイント)となっている。1位のドイツが1725ポイントなので、日本との差が1162ポイントで違いは歴然。しかし、対戦した3チームとの差は、295、294、217ポイントと順位の開きに対してポイント差は小さい。

「FIFAランキングについての考察(その2)」で試行したように、順位よりも偏差値で比べた方が、その時点での実力差を表していると思う。
また、FIFAランキングは大陸間格差が織り込まれているので、サッカーのレベルが高い地域の方が、ポイント獲得で有利な条件になっている。そのため、アジアのチームはもともと不利な立場にある。だから、たとえアジアカップで優勝しても、FIFAランキングはそれほど上がることはない。FIFAランキングを劇的に上げるためには、ヨーロッパや南米のチームに多く勝たなくてはならない。

さて、日本代表の現在地は、どのへんなのだろう?
進歩しているのか?
強くなっているのか?

監督が代わったからといって、日本代表が劇的に変わることはない。それは日本に限ったことではなく、他国のチームでも同じ。ザッケローニ監督からアギーレ監督に代わったからと、戦い方が90度あるいは180度変わるものでもない。新しい監督の新しいチームといいつつも、それは新築ではなく増築か改築だ。前監督からの主要メンバーは残っているのだから、彼らにできることにはおのずと限度がある。まったく新しいチームを作るのなら、メンバーを総入れ替えしなくてはならない。だが、そんなことをやる監督はいないというか、できない相談だろう。

W杯のフランス大会からの日本代表が、どのくらい進歩したのか、私の主観的な判断ではあるが、進歩具合を図にしてみた。

▼日本代表・進歩の歩数 ※クリックで拡大表示

日本代表・進歩の歩数


異論のある人もいるだろうが、まぁ、こんな感じかな……と(^^)

目標を強豪といわれるFIFAランキング10位以内とし、そこまでの歩みに10歩が必要だと仮定している。フランス大会でW杯の1歩を刻んでから、数歩進んでは数歩後退することを繰り返していると思う。その歩みは遅い。現在は3歩半というところだろう。まだまだ目的地は遠い。今後も3歩進んでは2歩下がるというようなことを繰り返していくと思う。一直線に進歩していくわけではないのだ。

アジアカップ後にアギーレ監督が解任されるのだとしたら、ここまで半歩進んだのがまたリセットされることになる。疑惑の真偽はともかく、1年足らずで進歩の成果を出せというのも酷な話だ。そんなに簡単に日本代表を強豪チームにできる監督がいるのなら、大金を積んで連れてくればいいだけの話。しかし、名将といわれる監督を連れてきたとしても、そうそう劇的には変わらないだろう。杉山氏が望むようなチームになるには、10年とか20年とかかかるような気がする。

そう考えたとき、4年周期のW杯ごとに監督を変えるのがいいのかどうかも議論されていいように思う。ドイツのレーヴ監督は、2006年のドイツ大会後から代表監督となり、今年で9年目だ。長い目で代表チームを見ているから、継続的なチーム作りが可能となっている。ドイツの強さはそこにもあるのではないか。

個人的には、ザッケローニ監督の続投でよかったのではと思う。たしかに、代表監督としては初体験のW杯で、うまくいかなかったことは事実だが、その失敗を生かすには次のW杯にも臨むことが必要だったのではないか。岡田監督も二度目のW杯で結果を出したのだから。

アギーレ監督にも、解任されるかもしれないということは、耳に入っているはずだ。だとすれば、「新しいテーマにチャレンジせず、従来通りの戦いをすることに安定を求めようとするサッカーに、アギーレジャパンは成り下がっている。」と批判するのは的外れだ。あとがなく、これが最後かもしれない大会なのに、その先のことまで考えてチーム作りをする必然性がない。アジアカップで優勝して、経歴に花を添えようと考えていたとしても、責められない話だ。

真意はわからないが、少なくとも「勝つため」の試合運びをしていると思う。選手を固定しているのは、残りの試合を考えるとリスクでもあるが、目の前の試合を有利にするためには最善の策だ。ターンオーバーで選手を入れ替えても勝てるほど、選手層が厚くないことも悲しい現実。勝つためのチョイスとして、選べる選択肢が乏しい。

ともあれ、ファンとしては応援するだけだ。
相手が格下だろうと強豪だろうと、勝つ日本代表が見たい。1-0の辛勝でもいいのだ。要は勝つこと。負けて得るものより、勝って得るものの方が何倍も大きい。
常勝チームではない日本は、1つでも多く勝つことが必要だ。その積み重ねが、進歩の歩を進めることになるのだと思う。

諌山 裕

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