近年で最大ともいわれる台風19号が接近している。
沖縄近海をノロノロと進んでいるうちに、少々勢力は弱まってきているようだが、大型台風であることには変わりはない。
先週の台風18号では、大型台風ということで日本各地で最悪の被害想定をして、気象庁も各自治体も最悪を想定した対応をしていた。
天災に備えることは必要なのだが、適切かどうかの見極めはむずかしい。
「特別警報」や「避難勧告」が乱発されるニュースを見ていて、妻と話した。
「これじゃ、狼少年だろう」
「これだけ乱発したら、またかって危機感なくなるよね」
「よく誤作動していた火災報知器の非常ベルと同じだな。最初のうちは、どこだ?と確認しに行ったが、何度も鳴って誤作動だと、何度目かには確認しに行かなくなった」
特別とか非常というのは、切迫した危機感をあおることなので、それが度重なると感覚が鈍くなる。
私が感じたことを、コラムニストの小田嶋氏も書いていた。
今年にはいってから、「特別警報」というワンランク上のスーパーグローバル警報が設定されたこともその気象関連用語誇大化傾向のあらわれだと言えば言えるし、今年になって気象情報の中に突如として登場するようになった「これまでに経験したことのないような大雨」という表現も、20世紀の天気予報では聞かれなかったタイプのフレーズだ。
個人的には、「これまでに経験したことのないような」という言い回しの周囲に漂う文芸臭が気になっている。
「気象ポエム」という感じがする。(中略)
ただ、形容詞にしても副詞にしても、程度や強さをあらわす表現は、人それぞれで、解釈のバラつきが生じる。それを避けるためには、受け手の感受性に委ねるような表現は控えて、なにかの「度合い」や「程度」をあらわす指標は、地震における「震度」みたいに、シンプルに数値化してしまった方が良いのかもしれない。
(中略)
もうひとつ、先週の台風情報を眺めていて感じたのは、「避難勧告」が乱発されていたことだ。 …..
《静岡市の30万4000世帯、71万人余り、千葉県松戸市のおよそ21万世帯48万人余りなど、最大で12の都と県の合わせて122万世帯290万人余りに出されました。》
てなことになっている(ソースはこちら)。290万人といえば、茨城県の全人口(←296万9770人:2010年:全国11位)に近い。
いくらなんでも、この数字はどうかしている。
大まじめに実行したら、民族大移動になる。
まったく同感。
地震の震度もそうだが、竜巻にはF(藤田)スケールというのがあるのに、台風に数値化した指標がないのはなぜなのだろう?
台風だから「Tスケール」とかで、強度スケールを作ってもいいように思う。
竜巻と違って、風だけでなく大雨をともない、広範囲に影響が及ぶから単純でないことはわかるが、なにがしかの客観的な物差しは必要な気がする。
たとえば、先週の台風18号が、10段階のスケールで最大勢力時は「T7」だったとしよう。
で、今度の台風19号は、最大時で「T9」であるとすれば、「過去に経験のない……」とポエム化するよりも大きさをイメージしやすい。
台風は北上すれば勢力は衰えていくから、九州に最接近した時に「T5」とか、関東に最接近したときには「T4」になった……とか。
地震の震度は、その数値が3か4か5で大きさのイメージがだいたいできる。東日本大震災のとき、私は渋谷区の会社にいたが、5弱の揺れを経験した。それまでは震度5というのを経験したことがなかったが、今では震度5がどれほどのものなのか実感できる。
台風にもそういう数値化があれば、危険度を実感できるのではないだろうか?
ハリケーンには「サファ・シンプソン・ハリケーン・スケール」というのが、あるにはあるのだが一般的ではない。
「避難勧告」はめったに出ないもの……というのがこれまでだったから、避難勧告が出るときはかなり危険な状態というイメージだった。そのため、各自治体も勧告を出すのをためらっていたのだろう。
しかし、勧告を出さなかったことが被害の拡大につながってしまったために、空振りでもいいから勧告を出す方向に舵が切られた。
その結果が、台風18号での避難勧告乱発だった。
勧告を出すのはいいが、乱発は感覚を鈍らせる。前述した火災報知器と同じことだ。警報や勧告に危機感を持たなくなってしまう。
避難場所として学校や公民館などが割り振られているのだが、そこが災害に対して安全である保証はない。そもそも災害時の避難場所を想定して、大人数が集まれる公共の場所を作っている例は少数だろう。避難場所として多くの人を収容できる場所として、避難場所が設定されているだけだと思う。
しかし、それも小さな街ならともかく、何千人、何万人、何十万人もの街に避難勧告を出しても、少ない避難場所に収容できるキャパを超えてしまうのではないだろうか?
台風が来るたびに避難勧告が乱発されるようになると、その意味や価値が希薄になってしまう。空振りでもいいから勧告を出すという自治体の姿勢はしかたないとしても、空振りでもいいから避難する人というのは減っていくように思う。
マスコミは、なにかと危機感をあおるから、余計に始末が悪い。相変わらず、暴風雨が荒れ狂う現場にレポーターを派遣して、恐怖感を演出してるしなー。あれって、必要ないことのひとつだね。危険だから沿岸には近づくな……といいつつ、自分たちは迫真のレポートをするために近づいているという矛盾。
結局のところ、自己判断、自衛策を講じるしかないのかな……。