電子ブック普及のひとつとして経済産業省が進めていた「コンテンツ緊急電子化事業」、通称「緊デジ」がお粗末な結果に終わっているという。
官が主導すると、こうなるのは必然なのかな?
予算を消化することだけが目的化して、本来の趣旨はどこかえ消えてしまったらしい。
東京新聞:被災地支援 書籍のデジタル化 復興予算 無理やり消化:社会(TOKYO Web)
経済産業省が中小出版社や東北の被災地への支援を掲げ、復興予算を投じた書籍の緊急電子化事業で、電子化された書籍の六割近くが出版大手五社の作品だったことが本紙の調べで分かった。中小からの申請が少ないため、大手に頼んで予算を消化していた。25%は東北と関係なく使われており、復興予算のずさんな使い方に疑問の声が上がっている。
(中略)
それでも昨年十二月の締め切り直前までに集まった点数は予定の三割。大手に協力してもらい、やっと六万五千点を確保した。この結果、中小のための予算だったのに全体の六割、三万八千点が大手の作品となった。全体のうち二万点は、既に流通しているデータのファイル形式を変換しただけのものだった。
(中略)
経産省文化情報関連産業課の担当者は「(大手も含め)出版社は全部中小企業。全作業を東北でできるとは、もともと想定していない。被災地に電子書籍が産業として根付くことが重要で、すばらしい事業だった。出版社が面倒くさがって進めてこなかった電子化が急速に進んだのも、この事業のおかげ」と成果を強調した。
こういうのを見ると、「クールジャパン」としての政府主導の施策も、結局はかけ声だけで予算が関係ないところに流れていくんだろうなー、と思う。
年度末になると、予算消化のために道路をほじくりかえす土木工事と一緒だ。
政府や行政は、お金(予算)がないないといいながらも、無駄遣いはする。財政赤字が増え続けるのは無理もない。
記事中の下線を引いた部分の、経産省の言い分にはあきれる。ものはいいようというか、詭弁だね。お金を出してくれるなら、そりゃ出版社にとっても都合がいいわな。
しかし、「被災地に電子書籍が産業として根付くこと」というが、どこに根付いたんだろう?
「出版社が面倒くさがって進めてこなかった電子化が急速に進んだ」というのも、面倒くさがっていたのではなく、電子ブックの市場が小さいから二の足を踏んでいたのであって、因果関係が逆。
電子ブックが普及の兆しを見せているのも、iPadやkindleなどのタブレット端末が登場したからであって、緊デジの成果じゃないだろう。
楽天koboが蔵書点数目標を大きく掲げていたのは、この緊デジを当てにしていたからだろうが、ぜんぜん当てにならずに狼少年になってしまった。そういう意味では、楽天koboは緊デジの被害者ともいえる。
官主導ということでは、出版デジタル機構が電子ブック事業を後押ししようとしている。しかし、こちらも当初の想定通りにはことは進んでいないようだ。
昨年(2012年)11月15日付けの記事では……
出版デジタル機構がようやく配信 電子書籍の品不足解消へ一歩 :日本経済新聞
ようやく始動した電子書籍充実に向けた取り組みだが、課題も残っている。1つは電子化のスケジュールだ。同機構によれば、電子化の作業は全般に遅れ気味。ここへきて出版社からの申請数が急増しているものの、紙から電子への変換に時間がかかる高度なデータ形式での電子化を希望する出版社も多く、「6万冊より少なくなる可能性はある」(同機構)。
……と、春までに6万冊を目標としていたものの、達成したという発表はないので未達だ。これじゃ、楽天koboと一緒じゃないか(笑)。
今現在、どのくらい電子化が進んでいるのか、総数は公表されていないようなのだが……
……として、逐次の配信情報から察すると、かなり少ない。
ここに出ているものがすべてだとすると、ざっくり計算したら500点(シリーズものは1点として計算)くらいしかない。
予算として最高150億円が認められ、現状35億円が投じられているとのことだ。
出版デジタル機構の電子書籍取次買収は最悪の愚策繰り返される「JAL再生での失敗」|岸博幸のクリエイティブ国富論|ダイヤモンド・オンライン ※リンク先は登録制サイト
出版デジタル機構は、イノベーションを創出する企業への公的資金による投資を行なう官製投資ファンドである産業革新機構から、150億円を上限とする投資を受けました(現状では約30億円。それに加え民間企業から約5億の出資)。産革が投資を決定した理由も、「新会社では、書籍や出版物の電子化、電子化したデータの保存、電子書店・電子取次に対する配信、プロモーション、収益分配等の管理まで、電子出版に必要な機能・サービスを包括的に提供」とHPに記載されています。
35億円かけて、まだ500点くらいしか配信できていないのか?……と、唖然としてしまう。1冊のコストが700万円だぜ! スゲェ高価な電子ブックだ(笑)。
もしかしたら、もっと点数はあるのかもしれないが、出版デジタル機構のサイトでは公表されいない。電子化できたものと、配信が可能になったものの数は当然違うわけだが、配信されてはじめて価値があるのだから、そのへんの情報は公開した方がいい。また、自社で配信するものと、電子化だけして出版社に納品したものもあるのだろう。それらの情報は、公的な投資でもあるのだから、進捗状況はもっと厳密に公開することを勧める。
今後の電子ブック市場の予測としては……
電子書籍ビジネス調査報告書2013:2012年度の電子書籍市場全体は729億円――2017年度に2400億円規模 – ITmedia eBook USER
2013年度以降もこの傾向のまま拡大し、2017年度には2390億円程度まで拡大、電子雑誌やマイクロコンテンツなどの市場規模予測(2017年度で330億円程度)とあわせた電子出版市場は2720億円程度と予想している。
(中略)
なお、出版科学研究所が1月に発表している2012年度の書籍・雑誌の推定販売金額は1兆7398億円。
……ということなのだが、4年後でも出版全体の市場規模の約6分の1にしかならないのでは、出版社も二の足を踏むわけだ。
この市場予測も、電子ブックの価格破壊が起きた場合には、下方修正されるだろう。現状、紙の書籍と電子ブックの価格差は少ないが、平均価格500円だったものが100円とかになったら、売上げ数が5倍にならないと売上金額を維持できない。
なかなか厳しいことは想像できる。
官主導のコンテンツ事業がまったくの無駄だとはいわないまでも、効果はあまり期待できないとはいえそうだ。