SDGsが胡散臭いと過去記事で書いたが、大騒ぎしているのは日本だけのようだ。
 教育現場でも、盛んにSDGsが叫ばれているらしく、子どもの反応に戸惑っている親がいるという。

行き過ぎた「SDGs教育」で子どもが「人間はいらない」 お祭り騒ぎをしているのは日本だけ? (デイリー新潮) – Yahoo!ニュース

 NHKのEテレでは「SDGsのうた」が流れ、書店の「SDGsコーナー」には関連書籍が百花繚乱と、まさに「SDGs祭り」の様相を呈している日本。

 学校教育の現場でもSDGs教育は盛んに行われており、ある小学校3年生の保護者は「子どもが『人間はいらない』『人間のせいで地球が滅びるから、少し死んだ方がいい』と言う」と頭を抱える。

 さらに、取材を進めると、SDGs関連の児童書に携わってきた編集者までもが、「動物がかわいそう、地球が滅んでしまう、と言って豊かな生活を人質にとった上で脅迫のような形でSDGsを正当化することには疑問を感じていました」と複雑な胸の内を明かすのだ。

 ある意味、小三の子どもの言い分は正解のひとつなんだよね。子どもでも辿り着く結論に、大人が言及しない、あるいは不都合な真実から目を背けているともいえる。

 この記事は有料記事なので全文は読めないのだが、だいたい想像はつく。いろいろな取り組みをレポートしつつ、目標の達成には困難がともなう……ということだと思う。画期的な解決策を提示することは不可能だろう。
 そりゃそうだよ、そもそも無理筋の目標を掲げているんだから。

 SDGsの理念は、「産業の共有によって搾取も階級もない社会を目指す」とした共産主義の思想に近い。共産主義を標榜した国は、みんなで豊かになることを目指したものの、結果的には多くの人々が貧乏になり、特権階級だけが裕福になる極端な階級社会を作りだしてしまった。

 SDGsの1番目の目標である「貧困をなくそう」を達成するには、富裕層をなくす必要がある。なぜなら、富の総量は有限なので、貧困層に富を回すためには、富裕層の富を減らす必要があるからだ。しかし、特権階級である富裕層が利権を手放すとは思えない。

 世界の富の量は、ひとつの試算として……

世界の家計の富3170兆円増 20年、金融緩和で膨らむ: 日本経済新聞

金融資産や不動産などの価値から債務を差し引いた純資産で定義する「富」は、20年末時点で418兆3420億ドルとなった。

 となっている。
 この418兆3420億ドルを世界人口(2022年11月に80億人に達する予想)で割ると、

52292.75 ドル≒7,475,588 円(2022年9月18日のレート)

 となる。
 約748万円が、公平に分配した額だ。これを年収とするなら、これより多い年収の人は収入が少なくなり、これより低い人は収入が増える。公平に分配される世界では、富裕層は存在しない。
 理想といえば理想だが、プロ野球選手の年俸は748万円だし、ビル・ゲイツの年収も748万円だ。宝くじで数億円が当たることも御法度になる。働くことで収入を得るのではなく、ベーシックインカムで公平に分配されるような社会システムになる。労働は社会への奉仕という考えかただ。
 これは経済システムが大転換することを意味する。このような世界は、スタートレックの24世紀の社会システムでもある。

 経済成長ありき、競争原理の経済システムは、いずれは破綻する。富の奪い合いでは個人の格差だけでなく、国の格差も解決できないからだ。
 気候変動や環境汚染の問題も、突き詰めると現在の経済システムの欠陥から生じている。儲けるために石炭や石油を採掘して消費し、儲けるためにプラスチックを大量に生産し廃棄してきた。
 すべては経済のため。多くの人が豊かな生活をするため。ただし、全員が豊かになれるわけではない。

 気候変動や環境汚染問題もSDGsに含まれているのだが、貧困の解消をして貧困層が中流層になるとすると、エネルギー、食糧、モノの消費量は増える。そうなると人間が環境に与える負荷が増えて、地球環境は悪化することになりかねない。
 二律背反の問題だ。

City of decaying skyscrapers sunk into the sea

 で、人口問題が出てくる。
 小三の子の意見は、的外れではないんだ。
 SDGsに人口問題を入れていないのは恣意的だろうね。入れるとするなら「少子化を目指して、人口を抑制しよう」となる。

 また、編集者が「豊かな生活を人質にとった上で脅迫のような形でSDGsを正当化」というのも、まっとうな疑問だ。
 そこが共産主義と似ていて、「みんなで貧乏して堪えよう」といってるようなものだからだ。

 レジ袋の有料化とか車のEV化とかが、目立つ対策として取り上げられる。効果のほどはさておき、わかりやすいから「やってる感」を出すことにはなっている。
 もっと身近なことで、たとえば「SDGsのためにスマホの使用時間を1日1時間以内にしましょう」といったらどうだろうか?
 四六時中スマホをいじっていると、ネットワーク関連で電力をガンガン消費しているわけで、再エネが少ない現状では二酸化炭素をどんどん排出しているわけだ。

 以下のようなレポートがある。

How to stop data centres from gobbling up the world’s electricity

すでにデータセンターでは、毎年推定200テラワット時(TWh)の電力を使用しています。これは、イランなど一部の国の国家エネルギー消費量よりも多いものの、世界の輸送に使われる電力の半分であり、世界の電力需要のわずか1%にすぎません。

データセンターの二酸化炭素排出量は全体の約0.3%ですが、情報通信技術(ICT)エコシステム全体(個人のデジタル機器、携帯電話ネットワーク、テレビを含む包括的な定義のもと)では、世界の排出量の2%以上を占めています。これは、ICTの二酸化炭素排出量を、航空業界の燃料による排出量に匹敵させるものです。

将来、何が起こるかを予測するのは難しい。しかし、最も心配なモデルのひとつは、今生まれた子どもが10代になる頃には、ICTによる電力使用量が世界全体の20%を超え、データセンターはその3分の1以上を使用すると予測しています。計算量の多い暗号通貨ビットコインが成長を続ければ、エネルギー需要の急激な高まりが早晩訪れるかもしれない。

 本気でSDGsを実行するつもりなら、スマホの使用時間制限を考える必要があるかもしれない。ひとついえることは、SDGsのためには、なにかを犠牲にする覚悟が必要だろうということ。
 便利さや自分の豊かさを犠牲にできるかどうかだね。

諌山 裕

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