Nattanan KanchanapratによるPixabayからの画像

 給与格差なんてのがいわれているが、格差は昔からあった。
 いわゆる金持ちと貧乏人。
 有史以来、経済というものが発生してから格差はあった。それが階級や身分を生み出すことにもなったが、富というパイには限りがあり、それを取り合うのが社会でもある。
 資本主義だから格差が生じるわけでもなく、共産主義社会にも格差はあった。平等の概念が生まれて、格差が問題になってきたが、共産主義が目指したものは、実質的には「みんなで貧乏しましょう」……だったから破綻してしまったともいえる。

 水は高いところから低いところに流れる。
 しかし、人材は低いところから高いところに流れるようだ。
 そんな記事。
なぜなら、給料が安いから – 思索の副作用 – Tech-On!

 この、少なくとも80年代から続く「同業他社より給料が安い」ということが、会社にじわじわとダメージを与えてきたのではないかと私は思う。一般に、業績が悪くなれば給料を抑える。それが一時的なものであればいいけれど、給料格差がいつまでも埋まらなければ、優秀な人材は来なくなる。現にいる社員も、腕に覚えのある人から歯が抜けるようにいなくなっていくだろう。この結果、さらに業績は悪くなり、経営者はさらなる給与抑制に走る。まさに悪循環である。

 ふと思う。業績が給与を決めるのではなく、逆に給与が業績を決めるのではないかと。この疑問をあるベンチャー企業の創業社長にぶつけてみると「うーん、そうかもしれない。確かに、給料を抑えすぎたから会社が潰れたって話はよく聞くけど、給料が高すぎて潰れたっていう話は聞かないもんなぁ」などとおっしゃる。

 私は何度か転職してきたが、選択肢がいくつかあるときには、やはり給料のいい方を選ぶ。
 アニメ業界を去ることになったのも、食えないことが原因だった。アニメーターになる前は、普通の会社に勤めていたから、その貧乏さ加減にかなり落ち込んだものだ。
 それは屈辱的であり、あまりに惨めだった。
 「私はここでなにをしているのだ」と、何度も自分に問いかけたものだった。
 普通に生活がしたい。
 当時、つきあい始めていた妻のためにも、当たり前の収入が必要だった。

 どんな会社であっても、優秀な人材を求める。
 しかし、その代価としての給与には差がある。出せる出せないといった問題もあるだろうが、会社の考える優秀な人材に対するスタンスがどうなのか、というのが給与に現れているともいえる。
 デザイン業界でも、給与はピンキリだ。
 それは業界の中で、会社がどういう位置づけにあるかの反映でもある。
 電通のような広告代理店の元締めであれば、給与は破格だ。一方、下請けや孫請けのデザイン会社では、格段に給与は下がる。その格差は、3倍~5倍にもなる。やっている仕事の規模も違う。
 優秀な人材は高いところに流れる。
 私を含めて、それほど優秀ではない人材は、安い給与の会社で働くことになる。給与が安くても、レベルの高い仕事をする……というのは理想論であって、現実には勝負にはならない。
 なぜなら、普段から高いレベルで、高いクオリティを求められる仕事をする機会がないから、腕を磨くことにもならない。いいアイデアを思いついたとしても、「予算がないから」という理由から、金がかかる仕事は成立しない。結局、低予算でお茶を濁した仕事しかできないのだ。
 デザインセンスを磨くにも、貧乏性では発想も貧困になってしまう。
 格差は、給与だけではなく、創造性にも影響するのが現実なのだ。

諌山 裕

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