皆瀬氏の日記で「トースト」のことに関して連日書かれていた。
食生活というのは、その家庭の様子がもっとも反映される一面だろうと思う。
私の母はなかなかの料理名人である。日常的な食卓のメニューから、お菓子やお菓子作りに使う材料までを自作する。材料とは、たとえばリンゴジャムを使ったパイをつくるとすれば、リンゴジャムも生のリンゴから作るのである。市販品のジャムを使うわけではないのだ。
私の料理好きは母の影響だ。小さい頃から、母が料理するそばで、作り方を見よう見まねで憶え、手伝ってきた。
上京してひとり暮らしを始めても、ごく自然に自炊を始めた。母の作っていたあれが食べたい……と思ったら、母に電話してレシピを聞き、あとは母のやっていた手順を思いだしながら料理をするのだ。
TVの「ニュースステーション」に、不定期の特集として「最後の晩餐」というのがある。生涯の最後になにを食べたいか? この質問をゲストにするものだ。
私だったら、母の作ったシュークリーム、と答える。これは絶品である。美味いケーキ屋さんのシュークリームが話題になり、食べてみたこともあるが、母のそれにはかなわない。母のシュークリームは材料を贅沢に使い、甘さ加減も私好みで控えめ、ほどよい大きさと皮の焼き加減で、いくつでも食べられるのだ。
母の作ったケーキ類も捨てがたい。とくにチーズケーキはシュークリームの次に好きなものだ。このチーズケーキも、そんじょそこらの美味いケーキ屋さんよりも、ずっと美味しいものである。仮に母がケーキ屋さんを開けば、評判になることは間違いないと、私は太鼓判を押せる。
さて、皆瀬氏のトースト問題である。
食パンをトーストするのは邪道である(笑)。トーストするのは、食パン本来のうま味のなさを、焦げ目をつけることで誤魔化しているのだ。
「美味い食パンは焼きたてに限る」
というのは、パンを生地から焼いた状態を意味している。トーストで二重に焼くことではない。
母はパンも焼いていた。小麦粉をこね、イースト菌を添加して発酵させ、オーブンで焼くのだ。この焼きたてがたまらなく美味いのだ。パンの耳までおいしい。(ちなみに、西洋では“パンの踵〈かかと〉”という)
あつあつでふっくらとした焼きたてのパンは、そのまま食べるのがもっとも美味しい食べ方だ。それに較べると、市販品の食パンは恐ろしくまずい。
さすがの私も、パンやシュークリームは作れない。第一に料理のための機材……攪拌機や温度調節のできるオーブン、パンの型など……がない。
では、どうするかといえば、美味しい食パンを作っているパン屋を近所で探すのだ。うちの近所(といって、徒歩30分以内の半径)に、美味しいパン屋が2軒ある。パン屋そのものは7〜8軒あるが、私が合格点を出したのは2軒である。
食パンの美味さは、食パンの耳で決まる。耳が硬すぎて厚く、パサパサしているものはだめだ。耳まで美味しいのが、食パンの鉄則である。そして、なるべくなら焼きたてを買うこと。いつも通っているパン屋なら、パンを焼く時間もだいたい見当がつくようになる。その時間を見計らって、買いに行くのだ。2軒のうちの1軒は、焼きたてをカットする前の状態で、冷ましている。このタイミングならベスト。その場でカットしてもらって、温もりのある食パンを入手できる。
この状態の食パンは、冷めないうちに食べるのがよい。バターやマーガリンはつけなくても、十分に香ばしくて美味いのだ。ちなみに、硬いバターをパンに塗りやすくするためには、小皿にバターを適量取って、電子レンジでチンしてやわらかくすればいい。ただし、あまり溶かしすぎると風味が飛んでしまうので注意。
残った食パンは、密封して冷凍する。鮮度を保てるし、パサパサになることもない。冷凍した食パンは、食べるためには温めなくてはならない。このとき、初めてトーストするのだ。
以上が、我が家のトースト事情である(笑)。