「●●です」
名前を聞いて、即座にピンときた。妻が里親求むの掲示板で、連絡を取りあっている人だった。
「突然なんですけど、今晩、子猫を連れていってもいいでしょうか?」
なるほど、突然だ(笑)。そろそろだとは聞いていたが、妻も今日だとは思っていなかっただろう。
「ええ、いいですけど、まだ妻が帰ってないんですよ。だいたい9時以降だったら帰ってると思います」
簡単な挨拶と、うちまで来る最寄り駅を確認して電話を切った。
さて、来客となると少々部屋の掃除をしなくてはならない(笑)。なにしろ、大所帯の猫家族なので、部屋中に猫の毛やら猫砂が飛び散っているのだ。私はいそいそと掃除機をかけ、散らかっている部屋を片づけた。
部屋の掃除が終わる頃に妻が帰ってきた。
「おーい、ナナちゃん来るってよ」
「ええ!(笑) 今日?」
「そう、9時過ぎくらいになるって」
妻はうれしそうだ。いいまで、メールのやりとりで画像でしか見ていなかったナナちゃんに、やっと会えるからだ。妻は着替えると、部屋の片づけを手伝い始めた。
――ピロロンピロロン。
インタホンが鳴った。すかさず妻が受話器を取る。
「はい、どうぞ」
妻はマンション入口の開錠ボタンを押す。
「お二人到着」妻がいった。
うちのマンションの1Fにあるインタホンには、カメラがついている。相手が誰かがわかるようになっているのだ。
妻はドアを開けて、来客を待つ。ドアの外のチャイムを鳴らすと、猫たちが雲隠れモードにはいってしまうからだ。
ご夫婦が現れ、子猫を手提げバッグの中に大事そうに抱えていた。
子猫とも初対面ならば、譲ってくださる方にも初対面だ。ご夫婦は若い人だった。先方もこちらのことは詳しく知らないと思うが、私たち夫婦よりもずっと若いと思う(^^;)。
怯えた様子のナナちゃんは、初めての場所でおどおどしていた。無理もない。人間でいえば、4〜5歳で親から自立させられるようなものだからだ。
バッグから出てきたナナちゃんは、いそいそと猫のねぐらとして使っているキャリー(カゴ)の中へと隠れる。
うちの猫たちはといえば、来客と知って姿をくらましていた。それでも、嗅ぎ慣れない臭いの猫がいることを、早くも察知していた。
まっさきに様子を見に出てきたのはBチャン。ついで、クリ。しかし、いずれも新入りに対して警戒している。毎度のことで、新入りが来るとしばらくは猫たちの間で、力関係の駆け引きが行われる。
だが、ナナちゃんはけっこう強気な性格であるようだ。早くも先輩猫に威嚇の唸り声をあげている。
掲載した写真は、カゴの中に隠れているナナちゃんである。
ご夫婦は帰り際に、名残惜しそうにナナちゃんを撫でていた。本来なら、自分で育てたいところだろうからだ。里子に出すからには、それなりの事情がある。
部屋の中を自由にはしゃぎまわるまで、しばらくかかるだろうが、遊び相手はたくさんいる。歳の近いタマコは、ナナちゃんに対してもっとも警戒しているようだが、きっと一番の遊び相手になるだろう。
新しい家族が増えたことは、なにはともあれうれしいことである。