宇宙探査機の「かぐや」

 しばらく書き込みが途絶えていた。
 下書きの記事などもあるのだが、公開するに至っていなかった。

 さて、日本が世界に誇れる宇宙探査機の「かぐや」である。
 それが、継続的かつ将来を見据えた計画性のあるものではないことは問題だとはしても、現時点での成果として評価されるものではある。
 現場の科学者や技術者には、未来を見据えた先見性があるだろう。
 だが、現場の人間だけでは、宇宙開発は進まない。映画でいえば、プロデューサーや監督の手腕が、作品の成功に欠かせないように、宇宙開発でもプロデューサー的な役割をする人たちの先見性が重要だ。
 同時期に中国が「嫦娥1号」を飛ばしているが、中国はこの先サンプルリターンや月着陸まで見据えて、計画をシリーズ化している。
 一方「かぐや」に続く、次の探査計画は具体的には決まっていない。今回限りの一発屋なのだ。それも資金的な問題も含めて、遅れに遅れてやっと達成した一発だ。
 「かぐや」のプロデューサー的な立場は、JAXAとNHK、もっといえば文科省だ。NHKは宇宙用ハイビジョンカメラの技術を提供した。かぐやは豊富な観測機器を搭載しているが、一般市民として見ることのできる成果としては、ハイビジョン映像のインパクトに勝るものはない。
 だが、その貴重は映像は、NHKが独占的に権利を持っているという。
 それについての記事が以下。

ハイビジョン月面画像をネット公開しなかったNHK – ビジネススタイル – nikkei BPnet

現状では、「かぐや」が取得した「地球の出」の画像は、「日本の月探査機がアポロ以来の、素晴らしい価値ある画像を取得した」という事実を広く知らせるよりも、NHKの狭量さを全世界にアピールしただけという、残念な結果となっている。特にNASAがずっと以前から“太っ腹”の情報公開を行っているだけに、「自分だけよければ」という態度は目立ってしまう。

 過日、NHKが放送した「かぐや」の番組は見た。
 うちでは40インチのハイビジョンで見ることができるので、その映像は素晴らしいものだった。
 だが、番組そのものは、稚拙だった。
 馬鹿な司会者と、意味のないゲストが、くだらないトークを繰り広げているだけで、中身は軽薄だった。
 そもそも、こういう番組を生放送でする必要があるだろうか?
 行き当たりばったりで、せっかく衛星回線で参加したアポロ宇宙飛行士が、まるで時間の穴埋めのようにあしらわれていた。その程度のことで引っ張り出された氏が、気の毒になった。
 また、司会者とゲストの幼稚な質問にもあきれた。あの程度なら、宇宙に興味のある子どもたちを登場させた方が、よっぽどマシだ。
 そして、肝心のハイビジョン映像は、少ししかなかった。出し惜しみしているのか?
 とにかく、不愉快な番組だった。制作者に、科学的知見がないことが見え見えだ。

 関連して、続報が以下に。

日本ではダメなのに、カナダではネットで観られる「かぐや」ハイビジョン画像 – ビジネススタイル – nikkei BPnet

NHKがネット配信に進出することに対しては、様々な議論が存在する。しかし、すでにニュースなどの一部配信が始まっている現在、国民に還元すべき成果を、そのもっとも有力な方法であるネット配信しない一方で、海外とのビジネスベースでは相手国内のネット配信を認めるというのは、国民に対する背信行為であろう。

かぐやの成果は、当然国内においてネット配信すべきものであり、同時に日本の成果として世界に向けて発信すべきものである。これは著作権以前の、日本の公共放送を担う組織の、矜持(きょうじ)の問題ではないだろうか。

 いったい、「かぐや」は誰のために、月まで行ったのだろう?
 科学者のためであることは当然だとしても、その成果は日本国民だけに限らず、世界で共有すべき財産だろう。
 日本の宇宙開発には、先見性のあるプロデューサーが不在なのだ。

諌山 裕

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