いろんな意味で話題の「機動戦士ガンダム00」
アニメにはその時期の流行があって、あるジャンルのものが多く作られたりするが、この秋はSFものが少なくなっている。
ちなみに、新番組の第1話は、すべてチェックしている。HDDレコーダーのお陰で、新番組は自動的に録画してくれる。その中から、継続して見るかどうかを判断するわけだが、残るのは3分の1くらい。
以前は4台のS-VHSビデオでチェックしていた。時間が重複することが多々あるためだ。HDDレコーダーは2番組同時録画できるから、便利になったものだ。そのHDDレコーダーも、現在は4台(^^)。アナログチューナーだけの古いタイプ、ハイビジョン対応デジタルチューナーのもの(Panasonic DMR-XW51)、そしてブルーレイ対応が2台になる予定(1台は11月発売されたPanasonicの新製品で注文中)。
ブルーレイの1台目は、1世代前のSonyのBDZ-V9。録画メニューの機能的には気に入っていたのだが、最大の欠点は他のHDDレコーダーからのハイビジョン画質でのmoveができないこと!
i-Link端子はあるのに、moveができないという、なんとも間抜けな仕様なのだ。これは新発売の機種でも同様のようで、新しく購入するのにPanasonicのDMR-BW900にするしかなかった。i-Linkは、もともとはAppleが作った規格のIEEE 1394(通称FireWire)のSony独自の呼び名なのだが、Sonyはmoveすることを前提に考えていないのだ。
2番組同時録画が可能でも、たまに3~4番組の時間が重なることがあるため、最低でも2台のHDDレコーダーが必要になるというわけ。
ビデオテープ時代は、頭出しが大変だったが、HDDレコーダーになってそれが容易になったことは重宝する。大部分の作品は見たら消すので、選択が容易なことは、ストレスがなくなって助かる。
さて、本題に入ろう。
「機動戦士ガンダム00」の#5「限界離脱領域」では、本作のSF設定が問われるストーリーになっていた。
宇宙を舞台とし、軌道エレベータが登場し、科学的な背景というか思考と想像力が求められる設定だ。
とはいえ、ガンダムにハードSF並の徹底した科学考証を期待するのは無理かもしれないが、それでも基本的な物理法則は踏まえておかないと、物語の根幹が揺るいで陳腐になってしまう。緊張感のあるドラマが、その科学的な設定から発生しているからだ。
●問題点その1:軌道エレベータ内で無重力になるシーン
そもそも軌道エレベータとはなんぞや?……という話は、脇に置いて。
軌道エレベータで上昇中に、途中から減速したとき、客室内が無重力になったが、これは間違い。
おそらく、シナリオを書いた人の頭には「宇宙=無重力」という先入観があったのだろう。
だが、地球軌道上での無重力は、その高度での速度が軌道を維持するために必要な速度が出ている場合で、重力と遠心力が拮抗している場合にのみ無重力になる。飛行機が飛んでいる速度では、その速度が足りないため重力が相殺されることはない。シャトルが無重力になるのは、高速で飛行しているためだ。
軌道エレベータは、静止軌道に達したときに無重力になる。地球の静止軌道は、赤道上の高度約35786kmである。つまり、それ以下の高度では、軌道速度が下回るため、無重力にはならない。
また、「減速した」というのも、ちょっとおかしい気がする。
エレベーターはかなりの高速で昇らなければならず、終着駅(静止軌道の駅)に着く直前ならともかく、途中で減速することにメリットはない。なにしろ、3万5千キロあまりを昇らなくてはならない。新幹線並みのスピード(時速200km)で昇っても、178時間(7.5日)もかかってしまうのだ。アニメの描写の感覚では、東京-大阪間を行くような時間感覚(軽装で泊まりこみではなかった)のようなので、そのためには時速9000kmくらい出さないといけない。
上昇中は、ある一定のスピードを維持する必要がある。もし、途中で無重力になるとしたら、自由落下状態にならなくてはいけない。これが下降中であるなら、自由落下でもいいわけで、それなら車中が無重力になることは考えられる。
作品中での高度がどのくらいだったのかの具体的な説明はなかったが、あの時点ではまだ普通に重力がかかっていたはずだ。途中駅では「微重力がある」という台詞が出てきていたので、その設定とも矛盾することになる。
●問題点その2:脱落したステーションの救出方法
ストーリーでは、流れ弾に当たった低軌道ステーションの一部が脱落し落ちていく。これを救出するために、ガンダムが落下を止めようとする。
しかし、このとき「下から持ち上げる」というのは間違いだろう。
なぜなら、落下方向……つまり、下から持ち上げるということは、脱落したブロックの軌道速度を殺すことになってしまうからだ。
ゆっくり落ちているように見えて、じつはかなりのスピードで地球を回っている。低軌道ステーションの高度が1万キロという設定になっていたので、軌道速度は秒速0.87kmくらい。これは軌道エレベータの、静止軌道での速度が秒速3.1kmであるのに対して、一体構造物であるエレベータそのものも同期して回っているからだ。そのため、高度1万キロで本来人工衛星として必要な軌道速度である秒速5.6kmを大きく下回っている。それでも時速にすると、3132kmだ。
そんなスピードで落下していく物体を、進行方向の逆から押し返すには、それ以上のスピードが必要になってしまう。ガンダムといえども、単体で地上から宇宙に上がれるようにはなっていないようなので、それだけのパワーはないと推測できる。
この場合の適切な救出方法は、後ろから押して、やや角度を上向きにしつつ、加速してやることなのだ。その方が下から支えるよりもずっと少ない力で足りるし、おそらく人革軍ティエレンの宇宙用機でも、可能だったのではないかと思う。
また、脱落した直後に無重力になったというのも間違い。すぐには自由落下状態にはならないため、地球の重力は相殺されない。そもそも低軌道ステーションは、軌道速度が足りないので、地球の重力はほぼそのままかかっていると考えてもいいだろう。だから、ステーション内で遠心重力は必要ないし、それが止まったからと無重力にはならないのだ。
さらには、飛行物体であるモビルスーツは、落下しないために常に加速していなくてはならない。飛行機が落ちないために飛び続けるのと同じことである。
つまり、随所に無理があるということ。
その無理は、ストーリーそのものが成立しないことになってしまう。
たとえば、ジェット機に乗って飛んでいるときは無重力になる……ということがありえないことを常識として知っているだろう。そんな設定の物語があったら、陳腐だと笑ってしまう。それと同等のレベルなのだ。
●問題点その3:軌道エレベーターの構造物がでかすぎる
いくら未来の物語とはいえ、桁違いに科学が発達した世界にはなっていない。軌道エレベータもその範疇での設定だ。
それにしては、軌道エレベータの構造が、やたらとでかすぎる。
地上側の基地はある程度の大きさがあってもいいだろうが、それも現在でも可能な高層ビルくらいが限度だろう。
その先のエレベーター部分は、細いワイヤー(といっても、全体のスケールからの比較)だけにしないと、構造物の自重で圧壊してしまう。シャフトの内部を客室が昇るというよりは、ワイヤーの外側を客車が昇るというのが現実的な気がする。
まぁ、見た目の問題で、巨大さがあった方がスケール感が出るためだろうが、あれだけの構造を支える素材というのは、なかなか難しいように思う。
余談だが、地上に固定された軌道エレベータは、赤道上にしか設置できない。
過去のアニメ作品(サイレントメビウスなど)では、高緯度地方で地上設置型の軌道エレベータが出てきたりしたが、これは物理的に不可能。
高緯度に軌道エレベータを作る場合には、非接触型軌道エレベータになる。それが登場していたのが、「バブルガムクライシス TOKYO 2040」だった。この作品はなかなか好きだったのだが、それほど高い評価を得ることなく、今ではDVDも手に入れることが困難になっている。バンダイチャンネル等のストーリーミングで見ることは可能なので、興味のある方は探してみるといい。
とまぁ、いろいろとツッコミをしているが、ガンダムは好きなので楽しみにしている。もちっと、SF考証をしっかりして欲しいけどね。
■「ほげ」さんからのコメントについての補足です。
コメントありがとうございます。
さて、ご指摘の件についてですが……
(3)については同感ですが、慣習的に無重力と表現されているので、それでいいのではないでしょうか。 「無」と付く表現は、ゼロの意味というよりは、相殺されて無いに等しいという意味ですから。
(1)(2)については、高度と速度が問題です。
高度による軌道速度は決まっていますから、軌道速度に達していなければ、重力は相殺されません。重力は距離の二乗に反比例しますから、高度が高くなれば重力の影響は小さくなります。しかし、重力の作用する高度で重力を相殺するには、軌道速度が必要になります。
たとえば、軌道エレベーターで高度10kmに達したときに、加速を止めたら無重力になるでしょうか? 高度10kmだと旅客機の飛ぶ高度ですが、無重力にはなりません。加速を止めることが、自由落下を意味するなら、たしかに無重力になりますが、エレベーターは上昇を続けているわけですから、そもそも加速を止めること自体がおかしいことになります。
また、ご指摘の部分にも矛盾があります。
「加速を停止して、重力に引かれるままになれば、速度は低下していくが、」
ということは、重力が相殺されずに引き戻されていることを意味します。つまり、エレベーターの客室は重力が相殺されていないのです。シャトルやISSが無重力環境なのは、軌道速度があり、重力を相殺していて、「落ちてこない」から無重力なのです。
※軌道速度については、Wikipedia「軌道速度」もしくは、JAXA「微少重力」を参照。
(4)については、「ケーブルに余分な張力が加わる」という、その程度の問題ですね。超巨大構造物で余分な張力は避けるべきではないでしょうか。構造疲労の原因になってしまいます。
関連した話題を取り上げているブログがあったので、参考までにご紹介。
『機動戦士ガンダム00』のSFネタ解説その6:低軌道ステーションと軌道リング | Drupal.cre.jp
(2008/01/06追記)