フォトグラファーとしての私は、撮影対象としていくつかのテーマを持っている。
そのひとつが「苔(コケ)
地味で日陰者のコケだ(^_^)。
世界には約18000種、日本では1670種あまりがあるとされるが、日常的な環境で目にできるのは数十種くらい。湿潤な環境の日本には、世界の1割近くの種類があることになる。
似た形態のコケも多いため、種を同定するのが難しい場合もある。
そんなコケの中でも、「ゼニゴケ」は特徴的な姿をしている。
そのゼニゴケが、モデル生物になったというニュース。

ゼニゴケが研究の最前線に 京大で技術確立、モデル生物に : 京都新聞

 中学の教科書にも登場する植物「ゼニゴケ」。200年以上前から観察されてきた植物が、近年、再び注目を集めている。京都大のグループが中心になり繁殖や遺伝子操作の技術を確立し、植物に普遍的な生態を調べる「モデル生物」としての条件が整ったからだ。

(中略)

被子植物のシロイヌナズナや裸子植物のイネなどは、既にモデル生物として使われている。その中に加わる意義について河内教授は、「植物が陸上で生活し始めた4億5千万年前の原始的な特徴を残しており、植物全体に共通する性質の研究に役立つ」と解説する。

▼私が撮影したゼニゴケ ※クリックで拡大表示

私が撮影したゼニゴケ



コケは原始的な植物だが、生態系の底辺で重要な役割も担っている。
コケの著書も出している大石善隆氏によれば……

研究の概要 | コケの生態学(大石善隆)

コケは他の植物と異なる体制をもつために環境の変化を受けやすく、また、水や栄養塩類を効率よく吸収するため、生態系の物質循環に大きく寄与してます。

……ということだ。
▼この本はオススメ



火星のテラフォーミングの方法として、酸素生成のための緑化の候補として、コケ類が適しているという実験報告もある。

キノコと苔類が火星と同じ環境下で18ヶ月生存、テラフォーミングにも可能性? | BUZZAP!(バザップ!)

火星を地球化させるテラフォーミングが少しずつ現実的になってきました。詳細は以下から。

地球に生きる生命体は地球外でも生き続けることができるのか?人類の地球外進出を考えると極めて重要な問題ですが、なんとキノコや苔類はで18ヶ月に渡って火星に酷似した環境で生存していたことが明らかになりました。

コケの生息のためにはある程度の水が必要ではあるが、火星の地面の下には氷があるだろうことはわかっている。極寒の地で生息するコケもあるので、火星への移植は可能だろう。
逆にいうと、火星産のコケが生息していても不思議はないということになる。
ただ、かつての火星で液体の水が豊富に存在していた時期に、生命が誕生していたとして、それがコケ類にまで進化する時間があったかどうかだ。少なくとも、葉緑素を持つコケ類は火星には存在していないと思われる。地面が緑で覆われているという様子は、これまで発見されていないからだ。
火星の表面をコケが覆うと、酸素を生み出し、土壌を改良し、湿潤な環境の土台を作れる。
マンガ・アニメ・映画の「テラフォーマーズ」は、コケと昆虫のゴキブリを火星に送りこんで、テラフォーミングするというのが、物語の背景になっていた。

細谷佳正
ワーナー・ブラザース・ホームエンターテイメント
2014-12-19



ゴキブリがマッチョな人型に進化する必然性はないのだが、それはまた別の話(^_^)。
ただ、火星の重力は地球の3分の1なので、大型化することは可能だ。地球の恐竜時代には30mを越す巨大恐竜もいたので、火星で巨大化可能な環境……つまり、豊かな生態系(食物連鎖)が整っていれば、100m級のゴキブリが存在していてもおかしくはない。

話をゼニゴケに戻して。
ゼニゴケは特異な形状をしているため、駆除の対象となる雑草扱いにされる。見栄えのいいコケは、園芸用に重宝されたり、苔むした庭園が人気の寺もある。
ゼニゴケは不遇な扱いを受けていたわけだ(^_^)。
うちのマンションでも、北側の日陰にはコケがところどころ生えている。大部分はギンゴケもしくはハマキゴケなのだが、一部にゼニゴケの仲間のジャゴケがある。住人からは、そのコケが「汚い」と苦情が出て、駆除するように要望してくる。
それは大きな間違い。
殺伐とした地面をコケで覆い、潤いを与え、土壌を守っているのだ。
「自然を大切にしよう」というスローガンに賛成する人は多いと思うが、コケはその底辺を支えていることを知らない人も多い。
雑草を駆除してチューリップを植えることが、自然を大切にすることではない。
俗に雑草とひとくくりにされる植物の写真を撮るのも、私のテーマのひとつ。雑草にもそれぞれ名前があり、可憐な花を咲かせるものがある。
あまり見向きもされないマイナーな植物たちに、私はカメラを向ける。
そこには小さな自然が息づいているからだ。

ゼニゴケの生殖は独特で、植物と動物のルーツにもなっている。
雄株と雌株に分かれていて、雄株は精子を、雌株は卵子を作る。雨が降ったりして、コケが水で覆われると、雄器托から精子が水の中を移動して、卵子のある雌器托に辿り着いて受精する。この仕組みは、人間の精子と卵子の受精と似ている。
また、自家クローンによる繁殖も可能で、無性芽器と呼ばれる器官も持っている。
以下の写真には、雌器托・雄器托・無性芽器が入り乱れていて、ちょっと珍しい様子になっている。たいていは、雄株と雌株は分かれていることが多い。

▼ゼニゴケの雌器托・雄器托・無性芽器 ※クリックで拡大表示
円盤状のものが雄器托、*(アスタリスク)状のものが雌器托、カップ状のものが無性芽器である。

ゼニゴケの雌器托・雄器托・無性芽器



コケの世界は、ミリ単位の小さな世界だ。
雄器托の直径は5~8mm前後、無性芽器の直径は2~3mmという大きさ。撮影するときは、等倍のマクロでも、あまり大きくは撮れない。アップで撮ろうと思ったら、2倍~5倍マクロで撮る必要がある。それを可能とする撮影機材を用意して、撮影に出かける。

暖かくなって、コケにとってもいい季節になった。
これから梅雨時に向けて、コケのシーズンなのだ(^_^)。

諌山 裕

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