「犬を射殺した事件記事で使われた銃のイメージ写真は正しくない」の続き。
上記エントリを書いた時点では、13発発砲した経緯がよくわからなかったのだが、以下の記事でもう少し詳しく取材されている。
犬に13発、千葉県警に意見600件 射撃の腕の問題?:朝日新聞デジタル
「犬から離れて下さい。射殺します」。4時間半前にも、近くで「犬にかまれた」との通報があり、すでにけが人は3人。もう被害者を増やせないと、警部補はその場で飼い主から射殺の許可を得ると、続けざまに5発撃った。犬との距離は3~4メートル。だが、犬は倒れず、後ずさりした警部補が路上で転倒。後ろにいた巡査部長(47)と巡査(27)が交互に計8発撃った。犬がやっと倒れたのは約2メートルの距離から巡査部長が撃った最後の13発目。約5分の出来事だった。
解剖の結果、当たったのは13発中6発。顔面1発、肩付近3発、後ろ脚2発。心臓を貫いた最後の13発目が致命傷になったようだ。「1、2発で急所に当てられれば良かったが、暗闇で動き回られて難しかったのではないか」と捜査関係者は語る。
(中略)
なぜ、なかなか当たらなかったのか。「そもそも拳銃は動物を撃つには不向きです」。猟友会に所属するハンターの一人(64)はそう指摘する。獣を狙う散弾銃なら50メートル先でも狙えるが、拳銃は飛距離も威力も劣る。「当たったとしても動物はすぐには倒れず、動き回る習性がある。動物に不慣れで動かなくなるまで撃ち込んだら、13発になったのでは」という。
この記事でも、使われた銃の種類が書かれていない(^_^)b
そこ、重要だと思うのだが……。
拳銃には違いないものの、銃の種類によって弾の口径や威力は違ってくるわけで、5発くらっても動きを止められなかったのは、射撃の腕なのか銃の威力のなさなのかの判断材料に乏しい。
肩や足では致命傷にはなりにくいから、口径の小さい銃では止められなかったのは想像できる。
仮に、「スミス&ウェッソンM360J”サクラ”」だとすれば、38口径(約9mm)で弾は「.38スペシャル弾」かと思われる。この弾は発射時の圧力の低い火薬を使用しているため、弾の初速が遅く、破壊力も小さい。対象を一発で仕留めるというよりは、威嚇もしくは行動不能にするのが主眼ともいえる。ただし、獰猛な動物を想定しているわけではない。
使用する銃が「H&K USP」だった場合は、口径は9mm(10mm、11.4mmのバリエーションもある)でほぼ同じだが、「9x19mmパラベラム弾」を使用すると、弾頭重量はいくぶん軽いものの、初速は速く、S&W M360よりも破壊力は上回る。また、装弾数は、S&W M360が5~6発なのに対して、H&K USPは15発と多く、連射性能も高い。
今回のケースでは、たまたま3人の警察官がいたから13発撃てたわけだが、1人だったら凶暴な犬は仕留められなかったことになる。もっとも、まさか撃ち殺すことになるとは当の警察官も思っていなかっただろうが。
仕留めるつもりで撃つのなら、心臓ではなく頭(脳)だけどね。おそらく、体のどこかに当たれば動きを止められると思ったのではないかな。何発か当たっても止まらなかったので、心臓に当たるまで撃ち続けることになったと思われる。
動物は痛みに強いからね。人間だったら、致命傷でなくても手足に当たったら動けなくなる。そのへんの違いの認識も甘かったとはいえる。
記事中にもあるが、散弾銃(ショットガン)も必要かもね。海外の警察用として使われている、「レミントンM870」あたりが候補だろう。
犬は犬でも野犬化した犬だと、もっと手強いだろうし、クマだったらさらに手強い。S&W M360では、よほどの射撃の名手じゃないと、頭を一発でヒットさせるのは難しい。
獰猛な動物と対峙することがわかっているときは、ショットガンを持っていくべきだろうね。話し合いや説得で解決できる相手ではないので、確実に対抗できる手段は必要だ。
銃に不慣れな日本なので、13発撃っただけでも批判されたりするが、じゃあどうすればよかったのか?……というのは、難しい問題。
麻酔銃なんて拳銃よりも命中させるのが難しいし、そう簡単に用意できるものでもない。かといって、生け捕りにするための網とか罠とかは、確実性に乏しい。動物と会話できる霊能者がいるのなら、説得してもらう手もあるが、そんな人がどこにいる?(^_^)
そもそも論でいえば、手がつけられないくらい凶暴になるまで、ほったらかしにしていた飼い主の飼い方に問題がある。
動物愛護は必要なことなのだが、動物と人の両方は救えないとき、どちらを救うかだ。
それも、緊急時のとっさの判断をしなくてはいけない。
警察官が発砲したことは最善の選択だったと思うが、数発で仕留められるのが理想的だったとはいえる。そのためには、日頃から実弾射撃の練習を積んでいないといけない。動かない標的だけでなく、動く標的に対しても経験が必要だろう。1年に1回の射撃練習では、たいした練習にはならないだろうね。車の運転でも、1年に1回しか乗らなかったら、ぜんぜん上達しないのと同じ。
実弾射撃はコストもかかるだろうから、サバゲーのようにエアガンで練習するのもいいかもしれない。射撃の練習というよりは、動体標的に対する体と銃の使い方の訓練にはなる気がする。エアガンは軽いから、実銃に近くなるように重りをつけて。
いずれにしても、警察官の射撃能力と経験値は上げることは必要だ。万が一のときに、有効な手段とならなければ宝の持ち腐れなのだから。
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boogieさんへ
補足説明をありがとうございました。
勉強になります。
記事を拝読。いい指摘なのに惜しいと思うのですが「13発」の主たる原因は銃ではなく弾だと思います。日本の警察官に支給されているのは表面をコーティングされた完全被甲弾で、貫通しやすく変形しにくいものです。これは標的の行動能力を奪いつつも無用な殺傷は避けたいという軍用の概念に基づいています。対して狩猟用の弾は中心部を外しても標的を止めることに主眼があるので、柔らかくてつぶれやすい素材が使われます。同じ銃でも狩猟用の弾なら、おそらく3~4発の命中弾で終わっていたことでしょう。日本の、一般の警察官の発砲事例として考えれば、訓練の成果は及第点だと感じます。ちなみにアメリカの警察官などは、確実に標的を止めるため、軍用ではなく狩猟用に近い弾を使います。