「嫌酒権」が叫ばれる日は、まだ来そうにない

GerhardによるPixabayからの画像

感染対策として、飲食店が標的にされ、酒の提供が制限あるいは禁止されたりしている。
酒は一気に悪者にされている感があるが、じつのところ飲酒と感染リスクの因果関係は、ごく少数のアンケート調査が根拠とされているが、感染のメカニズムとして科学的エビデンスが出ているわけではない。

ようするに換気の悪い部屋で、長時間の会食をしていると感染リスクが高まり、そこに酒が提供されている……という図式だ。
酒は会食のお供にされているだけで、感染とは直接の因果関係はない。
会食のお供ということであれば、「枝豆」や「ウーロン茶」や「焼き鳥」だって共犯になりえる。だが、枝豆禁止とかウーロン茶禁止とか焼き鳥禁止にはならない。
それを考えると「酒」は不憫ではある。

で、今週の小田嶋氏のコラムは「嫌酒」についてだった。

いつか「嫌酒権」が叫ばれる日:日経ビジネス電子版

現時点では、アルコール関連の産業が、タバコ関連の商売より大きいのと、飲酒者の人口が、喫煙者に比べて多いことが、迫害の歯止めになってはいる。

とはいえ、こんなものはいつでもひっくり返る。
いずれ、一世を風靡した「嫌煙権」とそんなに変わらない規模で「嫌酒権」が叫ばれるようになるはずだ。私はそう思っている。

「嫌酒」については、私のブログでずいぶん昔に書いている。
嫌煙は盛んだが、なぜ嫌酒はないのか?(2006年9月22日付)
と、15年前だが、いまだに「嫌酒」にはなっていない。

嫌酒運動は起こるか?
受動喫煙のリスクをいうなら、飲酒のリスクも同列に
飲酒による社会的損失は4兆円以上、タバコは半分の2兆円

などと関連記事も書いているが、飲酒に対しては世間はかなり甘々である。
「嫌酒」は簡単には起こりそうにない。

「酒は文化だ」なんていう言葉も聞かれるが、それをいうなら「タバコは文化だ」ともいえるわけで、酒が特別扱いなのは多数派だからにすぎない。
健康の問題からいえば、飲酒は量の多少にかかわらず脳細胞を破壊することは、科学的に突きとめられている。酒は麻薬などの薬物と同様の害をもたらす。

とはいえ、ヘビースモーカーで酒豪の人でも、80〜90歳くらいまで生きた人はいる。
タバコと酒が健康によくなくても長生きする人はいるわけで、タバコも酒もやらない人が短命な場合もある。
人の寿命を決めるのは、タバコでも酒でもないのかもしれない。

酒が叩かれるのは、「健康にはよくない」と誰もが気がついているからなのだろう。
スケープゴートが必要だから、それが今回は酒になっている。
新型コロナの真の感染経路は「空気感染」であり、酒は濡れ衣を着せられているだけだ。目に見えない空気感染は制御できないが、酒は制御できる。それが理由だ。

タバコはゆくゆくは駆逐されてしまいそうだが、酒は生き残るだろう。
ガソリン車が絶滅しても酒が消えることは考えにくい。
ゆえに「嫌酒」は一部では話題になっても、「嫌煙」のように市民権を得ることはなさそうだ。

諌山 裕

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