東京五輪プレーブックに米医学誌執筆者が痛烈ダメ出し

「五輪が世界規模のメガ拡散イベントになる可能性」と警鐘を鳴らす、ふたりの博士。
最悪のシナリオを危惧しているわけだが、多くの場合、最悪の事態が起こらないと教訓にはならない。
そして、責任を負うべき人たちは、こういうのだ。
「想定外の事態だった」と。

【東京五輪】米医学誌執筆者がプレーブックに再度痛烈ダメ出し「パラリンピックが始まるころに…」 | 東スポのスポーツ総合に関するニュースを掲載

なぜ分からないのか…。世界で最も権威ある医学誌「ニュー・イングランド・ジャーナル・オブ・メディシン(NEJM)」上で5月、東京五輪の新型コロナウイルス感染防止対策に痛烈なダメ出しをした筆者らが、最新版「プレーブック」についてもバッサリだ。

論文執筆メンバーのアニー・スパロー博士とリサ・ブロッソー博士は16日、米「HILL」に寄稿。博士らは先のNEJMの論文の狙いについて「国際オリンピック委員会(IOC)がリスクに対してより思慮深く細やかなアプローチを取り、活動や場所に合わせてエアロゾル吸入を防ぐことに焦点を当てるよう推奨した」が、新たなプレーブックでも変化がないと指摘。「以前と同様に、エアロゾル吸入を認識していない。プレーブックはパンデミックの初期には感染の主要な手段であると考えられていた飛沫感染と接触感染に焦点を当てている」と、対策が不十分と断言した。

(中略)

さらに「うまくいけば、わずかの中止だけでIOCは五輪を成功させるが、その狭い視点はグローバルな影響を無視する」と非難。大会を終え帰国した選手が、変異株をワクチン接種率が低い自国に持ち込む可能性が高いと指摘。多くの人が休日やイベントのため旅行した数週間後に急増が発生する事例を挙げ「五輪の2~4週間後、ちょうどパラリンピックがスタートするころ、日本だけでなく世界中で急増する可能性がある。最悪の場合、既知および未知の変異株が東京で共有および混合され世界に広がり、ワクチン接種を受けておらず、治療を受けられない人たちに伝わるだろう。五輪が世界規模のメガ拡散イベントになる可能性がある」と、恐ろしい事態を予測した。

この記事が東スポであることで、飛ばし記事扱いにされているようだが、これは真面目な記事だ(^_^)b

……と、このように想定はされているが、権限を持つトップの人たちには馬耳東風なのだ。
博士達の主張の重要なポイントは、「エアロゾル吸入を認識していない」ということ。
これは平たくいえば「空気感染」のことだ。
これについては、過去記事を参照→ 「CDCがようやく空気感染を認めた

アニー・スパロー博士リサ・ブロッソー博士がNEJMに出した論文は以下。
その一節を抽出。

Protecting Olympic Participants from Covid-19 — The Urgent Need for a Risk-Management Approach | NEJM

IOCのプレイブックは、科学的に厳密なリスク評価に基づいて作成されておらず、曝露の発生方法、曝露の要因、どのような参加者が最も高いリスクにさらされる可能性があるかを考慮していません。確かに、ほとんどのアスリートはCovid-19による深刻な健康被害のリスクは低いですが、パラリンピックのアスリートの中には、より高いリスクを抱えている人もいるでしょう。さらに、このような大規模なイベントを成功させるために働くトレーナー、ボランティア、関係者、交通機関やホテルの従業員を含む何千人もの人々を、このプレイブックでは十分に保護できないと考えています。

世界保健機関(WHO)と米国疾病対策センターは、SARS-CoV-2の人から人への感染において、エアロゾルの吸入が重要な役割を果たしていることを認識しています。イベントを計画する際には、まず最初に、曝露の危険性が最も高い人々と、曝露の危険性が最も高い仕事、活動、場所を特定する必要があります。エアロゾルの吸入に関しては、空気中の感染性粒子の濃度と、それらの粒子と接触している時間の長さが、曝露の最も重要な特徴となります。粒子の濃度は、感染者の数、活動の種類(エアロゾルを発生させる度合い)、感染者が特定の空間で過ごす時間、換気の度合いなどに左右されます。密閉された空間では、粒子が空間全体に分散してしまうため、長期間にわたって物理的な距離を置くことはあまり意味がありません。

私たちは、IOCのプレイブックでは、競技内容と開催地に応じて、競技を低リスク、中リスク、高リスクに分類し、これらのカテゴリー間の差異に対応すべきだと考えています。例えば、セーリング、アーチェリー、馬術など、競技者が自然に間隔を空けて行われる屋外競技は低リスクと考えられます。ラグビー、ホッケー(フィールドホッケー)、フットボール(サッカー)のように、密接な接触が避けられないその他の屋外スポーツは、中程度のリスクと考えられます。ボクシングやレスリングなど、屋内の会場で行われ、密接な接触が必要なスポーツは、おそらく高リスクです。屋内で行われるスポーツは、たとえ体操のように選手が個別に競技する場合でも、屋外競技よりもリスクが高くなります。選手や関係者の安全を確保するためのプロトコルは、これらのリスクレベルに応じて異なります。

プレイブックでは、競技場以外のスペースを含む会場ごとの違いにも対応できます。スタジアム、バス、カフェテリアなど、多くのアスリートが集まる小さくて密閉された空間は、屋外よりもリスクが高くなります。ホテルは、相部屋(1部屋に3人のアスリートが標準となる)、ダイニングスペース、その他の共有スペースでの密接な接触や、パンデミック以前に設計された不十分な換気システムを考慮すると、高リスクのエリアとなる可能性が高いです。

Covid-19の感染者は、症状が出る48時間前から感染している可能性があるため(全く症状が出ない場合もある)、体温や症状のスクリーニングを日常的に行っても、発症前の人や無症状の人を特定するには効果的ではありません。ポリメラーゼ連鎖反応法(PCR)による検査は、NFLの経験からもわかるように、少なくとも1日1回(2回でなくても)行うのがベストです。IOCでは、すべてのアスリートに、接触履歴や健康状態を報告するアプリが必須のスマートフォンを支給する予定です。しかし、接触追跡アプリは効果がないことが多く、携帯電話を持って競技するオリンピック選手はほとんどいません。そのようなアプリよりも、近接センサーを搭載したウェアラブルデバイスの方が効果的であるという証拠があります。

私たちは、WHOが直ちに、労働安全衛生、建築・換気工学、感染症疫学の専門家やアスリート代表を含む緊急委員会を招集し、これらの要因を検討し、東京オリンピックのリスク管理アプローチについて助言することを推奨します。このようなアプローチには前例があります。WHOは、2016年のジカウイルス「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」の際に、ブラジルで開催されるオリンピック・パラリンピック競技大会に先立ち、緊急委員会を招集してガイダンスを提供しました。

……と、このように具体的な説明と進言がされている。
ここまで書いてくれているのに、これをベースにした対策をしないのは愚かとしかいいようがない。落とし穴を避ける方法があるのに、無視して落とし穴に落ちてしまうようなものだ。

最悪の事態を回避するためには、空気感染を前提とする必要がある。

このことは、私も当初から何度も口酸っぱく書いてきた。
しかし、日本の専門家たちは、空気感染を否定し続けている。
これまでの感染対策および緊急事態宣言でも十分な感染予防ができていないのは、空気感染が考慮に入っていないからだ。

運良く、たいした問題も起きずに、五輪が終了する可能性はある。
めでたしめでたし、となるかもしれない。
そのときは、菅首相とIOCは、高らかに勝利宣言をするのだろう。

だが、最悪の事態になる可能性もある。
そうなったとき、「想定外だった」という言い訳は通用しない。

五輪はたとえるなら、新型コロナによる津波のようなものだ。
選手と関係者だけとはいえ、世界中から多くの人が東京に押し寄せる。
観客は国内だけとはいえ、日本中から東京に押し寄せる。
しかし、防波堤の高さは十分ではない。
コロナ津波は、五輪と東京の街を飲みこんでしまうかもしれない。
「あのとき、こうしておけばよかった」と後悔することになるのか?

はたして「恐ろしい事態」は起きてしまうのか?
2か月後に答え合わせができると思う。

諌山 裕

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