日経ビジネス電子版の小田嶋氏のコラムは、わりと好きで読んでいる。
氏の独断と偏見と強引な論理が面白いからだ。
今週も、その典型的な展開だった。

宣言解除に神風は吹くのだろうか:日経ビジネス電子版

 東京でも桜が咲き始めた。

(中略)

そして、花が一斉に咲き始めると、私たちは、必ずや落ち着きを失うことになっている。
今回は、日本人の季節感を振り返りつつ、そのわれわれの季節感の特別さと新型コロナウイルス対策の関係について、いささか勝手な見立てをご紹介するつもりでいる。

(中略)

私個人は、緊急事態宣言が効果を発揮していなかったとは思っていない。この10日ほど、リバウンドの兆候があらわれていたのは、宣言が「無駄」(あるいは「効果ゼロ」)だったからではなくて、「効力を発揮しにくくなってきた」からだと考えるのが普通だろう。
だとすれば、何が足りなかったのかを検討して、その分の対策をあらためて追加するのが正しい話の筋道であるはずだ。

(中略)

もうひとつ見逃せないのは、政府の人々が、何かを「空頼み」している可能性だ。
これは、昔からわが国のリーダーが窮地に陥ると非常に高い確率で陥るトラップで、なんというのか、われわれは
「超自然的な僥倖」

「神風」
を期待して、そこに賭けてしまいがちな人々なのである。

ツッコミどころが一杯のコラムだ(^_^)

私は小田嶋氏とは世代としては近いので、20代の若者ほど世代観の違いはないと思う。
しかし、毎度思うのは、私の生きてきた時代の感覚や価値観と、かなりギャップがある。東京と地方出身者の違いなのかもしれないが、「えー? そうなのか?」と思うことが多い。

「桜が咲くと……私たちは、必ずや落ち着きを失う」という、その必然性が私には理解できない(^_^)b
私はそんな経験をしたことがない。いったい、そういう経験のある日本人は、どのくらいいるのだろうか?
謎だ。

桜で花見をする人が多数派なのかというと、それも疑問だ。上野公園に集まる花見客は、2017年で358万人だったという。ほかにも花見の名所はあるが、都内では最大級の花見スポットだろう。
それでも、都民1400万人に対して、約26%、4分の1であって多数派ではない。都外からの来園者もいるだろうから、実際の割合はもっと少ないと思う。

そもそも桜を見に来ているか、酒を飲みに来ているのか、どっちが「主」なのかという問題もある。酒を飲む口実にしているだけの気もする。
あるいは、若い男女であれば、デートコースのひとつにすぎないだろう。実際、私は彼女とデートで新宿御苑の桜を見に行ったことはある。この場合、桜は口実で、デートが主目的だ(^^)。

ようするに、数ある年間イベントのひとつであって、桜が咲いたから落ち着きを失ったわけでも、「同期の桜」を歌いたいわけでもなかろう。
因果関係の論理がこじつけなんだなー(^_^)b

「春になると人々が落ち着きを失う」というエビデンスがあるとするなら、その原因は桜ではなく、気温の上昇で多くの植物が花を咲かせ、過ごしやすい季節になったから……というのが科学的な根拠になりうる。また、多くの動物が春になると発情期を迎えるのも、暖かい季節になるからだ。人間には明確な発情期はないが、まったく無関係というわけでもない。

つまり、春の季節の現象のひとつが桜であって、桜が咲くから人々の落ち着きがなくなるわけではない……と推論できる。
小田嶋氏の論法は、たぶんに情緒的な表現だといえる。ありていにいえば、桜をこじつけているだけ。

「緊急事態宣言が効果を発揮していなかったとは思っていない」というのも、根拠が明確ではない。
思うのは勝手だが、アバウトな感覚で物事を判断してはいけない。それこそ、小田嶋氏の嫌うマッチョな人たちと同じ発想だ。

私の過去記事で書いているが、2019年以前のインフルエンザの流行パターンと新型コロナの2020年12月〜2021年3月までを比べると、驚くほど近似的な流行パターンになっている。
例年のインフルエンザでは、これといった大々的な感染対策はやってこなかった。それに対して、徹底を呼びかけられた新型コロナでも、増減のカーブは近似的だった。宣言が効果を発揮したといえるような経過にはならなかったのだ。

これについては海外でも検証されていて、強制力の強いロックダウンをした地域と、そうではない近隣の地域で、感染の上昇と下降の傾向に有意な差は見られなかったと結論づけられている。マスク着用についても同様で、義務化して強制したところと、マスク着用を強制しなかったところで、感染の広がりに大きな差はなかった。

「「効力を発揮しにくくなってきた」からだと考えるのが普通だろう。」……ではなくて、元々効果が薄い対策しかしていないのが原因。マスクは効果の乏しいウレタンマスクでもOK、電車は満員でもOK、飲食店は自粛要請されるけど普通の会社は通常通りでOK……と、これで対策になるわけがない。

「何が足りなかったのかを検討して、その分の対策をあらためて追加するのが正しい話の筋道であるはずだ。」……というのも違っていて、足りないことはわかっているが、やれない、あるいはやりたくない、が行政や政府の本音だろう。

効果的な方法は単純明快で、人と人が接触しなければ感染しないわけで、外出禁止にすればよい。みんなが家に引きこもるのが、もっとも効果的なはずだ。ただ、それをやったイギリスやフランスでも、感染拡大は防げなかった。

なぜか?
ひとつ考えられるのは、空気感染を考慮していないことだ。
咳などの飛沫ではなく、呼吸の呼気にウイルスが含まれていれば、マスクをしていても、ソーシャルディスタンシングで2メートル離れていても、ウイルスは人から人に移ることが可能だ。実験では微細なエアロゾルは、10メートル先まで届くという。
感染のメカニズムそのものを勘違いしているのかもしれない。

そして「神風」についてだが、じつはすでに神風は吹いていた。
それは日本では、欧米に比べて桁違いに感染規模が小さいことだ。それがファクターXではあるのだが、神風という言い方もできる。

日本には神風が吹いている。
だから安心しろというわけではないが、第4波が来るとしても、欧米のように数万人単位の規模にはなりにくいと思われる。

諌山 裕

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