「気候正義」は正義なのか?

環境少女トゥンベリさんの話題が、昨晩のNHKで大きく取り上げられていた。
高校生がひとりで環境問題に対する活動を始めたことで注目を集めているわけだが、その主張や、やっていることにはいささか首をかしげることもある。

関連記事を拾ってみると……

国連気候行動サミット開幕 環境少女トゥンベリさん「失敗すれば決して許さない」と首脳らに訴え:イザ!

グテレス氏は開幕に際し「気候危機を起こした原因は私たちにあるが、解決策を打ち出すのも私たちであるべきだ」と演説。若者による世界規模の抗議活動の火付け役となったスウェーデンの環境活動家、グレタ・トゥンベリさん(16)は「温暖化対策に失敗すれば、あなたたちを決して許さない」と首脳らに訴え、緊急の行動を求めた。

環境少女、米下院で証言 「科学に基づき行動を」(共同通信) – Yahoo!ニュース

【ワシントン共同】地球温暖化対策の強化を訴えるため米国に滞在中のスウェーデンの少女グレタ・トゥンベリさん(16)が18日、米下院委員会の公聴会で証言した。自身の意見の代わりとして、温暖化に警鐘を鳴らすため国連の科学者組織がまとめた報告書を提出。「科学者の声を聞き、科学に基づいて団結し行動してほしい」と呼び掛けた。

「よくもそんなことを」 トゥンベリさん、怒りの国連演説 写真11枚 国際ニュース:AFPBB News

トゥンベリさんは「私はここにいるべきではない。大西洋の向こう側に帰って学校に通っているべきだ」と言明。時に声を震わせながら「あなた方は希望を求めて私たち若者のところにやってくる。よくもそんなことができますね」と批判し、「私たちは大絶滅の始まりにいる。それなのに、あなた方が話すことと言えば、お金や永続的な経済成長というおとぎ話ばかりだ。よくもそんなことを!」と怒りをあらわにした。

「気候変動が続くなら子どもは生まない」と抗議し始めた若者たち | ワールド | 最新記事 | ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト

ニューヨークの国連本部では9月23日、気候変動とその対策について話し合う国連気候行動サミットが開催される。これに合わせて、世界各地で大勢の若者がバース(出産)・ストライキを計画している。9月19日時点で1000人近い若者が、「安全な未来がなければ子どもは持たない」というこの運動に賛同している。

日本人が知らない世界のトレンド「気候正義」とは?約150カ国で同時行動、東京でも決行(志葉玲) – 個人 – Yahoo!ニュース

昨年10月、IPCC(国連の気候変動に関する政府間パネル)は「人間社会の壊滅を回避するためには、より積極的で革新的な社会の変化が必要である」と警鐘を鳴らしている。つまり、「2030年までに全世界の二酸化炭素排出量を2010年の排出量と比べて45%削減し、2050年頃に排出ゼロにすること」が必須だという。ハードルの高い目標ではあるが、自然エネルギーや省エネの推進、化石燃料から電力への転換など既存の技術・対策によって全く不可能なことではない。要は、やるか、やらないかの問題、正に気候正義が問われている。

いやはや、言ってることが極端すぎて、現実を見ていないという気がする。
理想主義を否定するわけではないが、乱暴な物言いはトランプと一緒。
気候正義」などという発想は、危険な臭いしかしないのだが……。

科学者の声を聞き、科学に基づいて団結し行動してほしい」というが、科学は絶対ではないのだ。
まず、そこを勘違いしている。
科学は多数決でもない。多数派の主張が正しいとは限らない。
気候に関する科学的知見は、すべてが解明されたわけではなく、きわめて限定的だ。

将来的な気候予測には、いくつかの方法があるが、どの手法、どのモデルを採用するかによって、未来予測は変わる。
これについて参考になるレポートがあった。
地球温暖化の予測は正しいか?(PDFファイル)または、コチラ

IPCCの予測モデルは、温暖化が大きくなるモデルを採用しているようだ。そのへんは恣意的であり、政治的でもある。科学はときに政治的にも都合良く利用される。

温暖化の原因が人為的で二酸化炭素だとするなら、根源的な問題は人口が多すぎることなんだ。
地球を食べ尽くす日が来たら……」にも書いたが、40年で倍増する世界人口をなんとかしないと、パリ協定を上回る規制をしても、人口が倍になれば元の木阿弥。

国別の人口と各国の二酸化炭素排出量は、相関関係にある。

世界の人口 国別ランキング・推移(国連) – Global Note

世界の人口 国別ランキング

世界の二酸化炭素(CO2)排出量 国別ランキング・推移(BP) – Global Note

世界の二酸化炭素(CO2)排出量 国別ランキング

上位20位までを比べても、人口が多い国が二酸化炭素の排出量も多い傾向にある。パキスタン、ナイジェリア、バングラデシュといった人口の多い途上国は、まだ排出量の多い国にはなっていないが、今後、それらの国の生活水準が上がっていけば、排出国上位になるだろうことは予想できる。

科学的に考察するならば、人口と二酸化炭素排出量は有意な相関関係にあり、排出量を減らすためには人口を減らす必要がある……というエビデンスが示されたら、どうするか?
増えすぎた鹿を間引きするように、人間を間引きするかね?
気候正義」のためには、正しいことだと言いかねない。

正義の味方のヒーローはカッコイイが、正義のためには悪党は殺してもいいという論理でもある。だから「気候正義」という言葉には、危険な臭いがする。

環境少女の母国であるスウェーデンは、「1人当たり電力消費量」では、日本よりも上位の第8位になっている。ちなみに、日本は27位で、省エネ国である。

世界の1人当たり電力消費量 国別ランキング・推移 – Global Note

世界の1人当たり電力消費量 国別ランキング

そのスウェーデンの電力事情はというと……

1. エネルギー政策動向 - スウェーデンの電気事業 | 電気事業連合会

スウェーデンは化石燃料資源に乏しく、国内では、わずかに泥炭などを産出するのみで、石炭や石油、天然ガスの供給は、もっぱら輸入に依存している。一方で、豊富な水力資源や、原子力を利用した発電が行われているほか、森林地帯が広がる国土の特性もあって、木質燃料などのバイオマスによる発電や熱供給も盛んである。このため、化石燃料資源には乏しいものの、スウェーデンの国内エネルギー自給率は2015年には75%に達している。

発電では、化石燃料による火力発電はごくわずかで、水力や原子力のようにCO2を排出しない電源が主力となっている。2015年の国内発電電力量1,621億kWhのうち、水力が47%、原子力が35%と、この2種類の電源で8割以上を占める一方、化石燃料による発電比率は1%にとどまっている。他の電源としては、風力(10%)、バイオマス・廃棄物発電(7%)がある。国土が高緯度に位置することもあって、これまでのところ太陽光発電はごくわずか(2015年実績では0.1%未満)にとどまる。

……ということで、化石燃料は少ないものの原発は多い。
二酸化炭素の排出はダメだけど、放射性廃棄物ならいい……という理屈もおかしな話。将来的には、放射性廃棄物は二酸化炭素以上に大きな問題になるのは確か。スウェーデンで原発事故が起きない保障はないのだし。

私たちは大絶滅の始まりにいる。それなのに、あなた方が話すことと言えば、お金や永続的な経済成長というおとぎ話ばかりだ。よくもそんなことを!」という、環境少女。
しかし、少女が裕福な国と家庭に恵まれているのは、その経済のお陰なのだよ。その日の食べものもない極貧の状態にある国の人たちにしてみれば、「そんなことよりも食べものをくれ」というだろう。

電気自動車に乗るとか、アメリカまでヨットで行ったとか、そんな贅沢ができるのも「お金」があるからだ。経済的に恵まれていることを棚に上げて、経済を批判するのは偽善であり茶番だ。世界が経済で回っている以上、金がなければなにもできない。(内燃機関の)自動車に乗るな、飛行機に乗るな、火力発電を使うな……ということになれば、経済は回らなくなるし、仕事や生活にも支障が出てくる。その苦境を甘受しろというのは、生やさしいことではない。

また、「安全な未来がなければ子どもは持たない」というのは、よい考えだ。
人口が多いことが環境破壊の主因なのだから、人口を減らすのは効果的だろう。ただし、ごく一部の人が実行しても意味がないので、出産可能年齢の世代が同調する必要がある。全世界で50年間、子供を作らなければ、人口は半減するかもしれない。
その考えかたを拡大すれば、長生きも害になる。
人生に定年を設けるかね?
現代版姥捨山だ。そんな近未来SFがあった……手元に本がないのだが、「黄色いバスがくる日」サムナー・L・エリオット著だったと思う。

「黄色いバスがくる日」 サムナー・L・エリオット(新書館)

「黄色いバスがくる日」あらすじ

 テス・ブラッケンは死ななければならない。病気だからではなく、年寄りだからでもない。テス・ブラッケンは65歳だから死ななければならない。そしてテスの住むアメリカは–千年期の最後の10年間–人口過剰の段階に達しており、出生抑制だけでなく65歳の住民の強制「安楽死」によってコントロールしなければならないのである。
 著者は、過去、テスの青春時代(つまり現在の40歳)と対比させ、人間の不完全さとその可能性が、永久的な貧困と組織の壁という現代世界において、とても魅力的に見える世界を、感情的に彩られた記憶の中に呼び起こします。

人類が絶滅するとすれば、それは必然でもある。
地球の歴史上、数億年にわたって君臨した種はいない。人類は、ホモ・エレクトスの時代から数えても、たかだか180万年にすぎない。
人類もいずれ滅びる。それが数千年後か数十万年後かの違い。そのことを悲観することはない。それが生命の宿命なのだよ。

絶滅は再生の始まりでもある。
人類の時代が終わったら、次なる種が食物連鎖の頂点に立つ。
その繰り返しが、太陽が赤色巨星化するまで数十億年続くだろう。
地球の一生の間で、人類の時代はほんのわずかなのだよ。

諌山 裕

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