ハッブル定数の謎と原始銀河団の謎

このところ宇宙の新たな謎が次々と発見されている。
それぞれは別々の観測や研究だが、根っこでは関連している。
それは、宇宙の真の姿が、いまだ確かなものとして見えていないことからきている。

そんな新たな謎の記事を2つ。

ケフェイド変光星の距離改良で導かれたハッブル定数の不一致 – アストロアーツ

距離の改良を重ねたRiessさんたちの研究から導かれたハッブル定数は73.45 ± 1.66 km/s/Mpcという値になった。つまり、マイクロ波背景放射の観測から得られた値よりも速い速度で銀河が後退していることになる。両者の値の違いはおよそ9%に達し、この食い違いが偶然に生じる確率は5000分の1程度にすぎないと見積もられている。

「どちらの結果も複数の方法でチェックされているので、まだ気づいていない間違いがどこかにあるのでなければ、この不一致はバグではなく、宇宙自体の特徴であるという可能性が大きくなってきます」(Riessさん)。

不一致の原因はいくつか考えられる。一つは、宇宙膨張を加速させているダークエネルギーの寄与が現在の見積もりよりも強いか、または時間とともに強まっているという考え方だ。つまり、膨張の加速度自体が一定の値ではなく、時間とともに変化しているというアイディアである。また、光速に近い速度を持つ未知の粒子が宇宙に存在するために差が生じているというアイディアもある。こうした粒子はまとめて「暗黒放射(dark radiation)」とも呼ばれ、重力でしか相互作用をしない「ステライル・ニュートリノ」などが候補として挙げられている。さらに、重力しか及ぼさないと考えられているダークマターが通常の物質や電磁波と強く相互作用をしているためではないかという見方もある。

いずれの説も、もし正しければ初期宇宙の組成が変わることになり、現在の宇宙論モデルとは辻褄が合わなくなる。そうなれば、従来の宇宙論モデルを前提としてCMBの観測から導かれたハッブル定数も間違った値になりうるため、今回HSTの観測から導いた値とは食い違ってもおかしくはない。

研究チームの次の目標は、HSTとESAの位置天文衛星「ガイア」のデータを使うことでハッブル定数の精度をさらに上げることだ。ガイアが測定した視差のデータを使えば、星までの距離と位置をかつてない精度で決めることができる。「今回の不一致の原因を調べるには、ガイアの高い観測精度が必要となるでしょう」(宇宙望遠鏡科学研究所および米・ジョンズ・ホプキンズ大学 Stefano Casertanoさんさん)。

宇宙は原始銀河団であふれている – アストロアーツ

その結果、研究グループは約120億年前の宇宙に原始銀河団を200個近く発見し、それらが不均一に分布することを明らかにした。この発見数は従来の約10倍で、遠方宇宙における原始銀河団の統計的な研究を初めて可能にさせる画期的な成果である。原始銀河団の分布の解析から、原始銀河団を包み込む暗黒物質の塊「ダークマターハロー」の質量が太陽質量の10兆倍以上と初めて推定された。これらの領域がいずれ銀河団(太陽質量の100兆倍)に成長することを強く示唆するものである。

(中略)

研究グループが、HSCによって得られた原始銀河団と同じ時代に見つかっている明るい151個の遠方のクエーサーを利用して両者の位置関係を調べたところ、原始銀河団に属する明るいクエーサーはほとんどないことがわかった。さらに、最も明るいクエーサーは原始銀河団を避けるように分布することも初めて明らかになった。この結果は、従来の予想とは異なり、銀河の衝突を原因としない別のクエーサー発現メカニズムが必要である可能性を示唆するものだ。一方、クエーサーからの明るい放射によって周囲の銀河成長が抑制されたために周囲に銀河が観測されなかった可能性も考えられ、今後のさらなる議論が待たれる。

いずれも、初期宇宙に関連した観測と研究だが、どちらもダークマターやダークエネルギーが関与しているようだ。
つまりは、正しい宇宙論を導き出すには、ダークマターとダークエネルギーの正体をつきとめないと、正解は出てこない。

難問だよね。
見えない物質、直接的には観測できていない物質やエネルギーなので、推測や仮定でしか語れない。それは、幽霊をつかまえるようなもの。

一連の研究や仮説を見ていくと、どうやらダークマターは、通常物質に対して、まったく相互作用しないのではなく、ある条件下では相互作用しているらしいということ。
われわれ人類は、マイノリティの通常物質世界で起きることしか検知できないので、相互作用があるのならダークマターの尻尾は踏めるかもしれない。

宇宙の成り立ちを解明することは、人類の叡智の証でもある。
そして、その先には、恒星間宇宙に旅立つためのヒントがある。Star Trekの世界のように。
数百年〜数千年のスケールで考えたとき、人類が地球外の星に移民できないと、衰退または滅亡の道をたどる可能性が高い。地球上の資源はいずれ食いつぶしてしまうからだ。

活路は宇宙にしかない。
しかし、太陽系内でも他の惑星に行くのはやさしくない。ノロノロのロケットでは、宇宙の大航海時代とはならない。
火星をテラフォーミングするアイデアはあるが、数世紀に及ぶ大事業だ。それを可能にする、持続性のある経済というのが、あるのかどうかも疑問だ。

生物の生存に適した地球型惑星は、天の川銀河系の中でもたくさんある。
問題は、光年単位の距離を移動できないこと。
ワープエンジンが必要なのだ(笑)。
宇宙の仕組みを解明することが、ワープエンジンの基礎になる。そこに、光速の制約を迂回する方法が、隠されているかもしれない。
空間に穴を開けるとか、空間をねじ曲げるとか、次元の隙間を抜けるとか、空間をジャンプするとか……、SF的なワープのアイデアはいろいろあるが、それらを可能とするには宇宙を解明しないといけない。宇宙の大部分を占めている、ダークマターとダークエネルギーが重要なカギになるはずだからだ。

……と、宇宙にはロマンがあるのだが、地球に降り、世界を見渡すと、国際紛争は絶えないし、国会では誰が嘘つきかの押し問答。
叡智のかけらも見えないのが悲しい。

諌山 裕

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