当たり前の日常も、見方を変えると違ったものに見えることがある。
心がほっこりする、そんなエピソード。
キーワードは「傘」

「アメリカでは失われた芸術形式」五輪取材の米女性キャスター、意外な日本文化に感銘 | ENCOUNT

街角や寺で色とりどりの傘や日傘を差す人々を捉えた。

「傘を持ったときの美しさと謎にとても興味をそそられました。優雅に通りを渡ったり、買い物をしたり、傘を差して歩き回ったりする日本人女性の姿に感謝するために、私はしばしば立ち止まっていた。非常に多くのパターン、色、サイズ…一部の人にとっては素敵な服をドレスアップするために選んだ傘…おそらく、私たちにとってのハンドバッグのようであると思います」

日本人にとっては何げない光景でも、ノエルさんは心を動かされた様子。「東京の傘が恋しい」と結んだ。

 

第一に、この方の写真センスが素晴らしい。
なにげない情景を、アーティスティックに切り取っている。
そこに想像力を掻き立てる物語が浮かぶ。
その感性が素敵だ。

この記事がYahoo!ニュースに転載されていて、そこに付けられたコメントにほっこりした。

10年ほど前、妻から誕生日に5万円の傘を強請ねだられたことがある。ブランドバッグと比べれば安いけど、傘に5万?と一瞬渋ってしまった。だけど彼女は「これがあると雨の日が楽しみになるから」と言った。女性は日常を鮮やかに彩る工夫が上手いと思ったね。彼女は未だにその傘を失くさずに使ってくれてるから、俺も雨の日は嬉しい気分になる。

 

その日、外は雨だった。

たまたま席が近く一緒に談笑した女性の傘が帰り際無くなっていたので、都合ウーロン茶だけを飲んでいた自分が帰り道が同じ方向だったこともあり、家まで車で送り届けた。

お礼の挨拶を兼ねてライン交換し、後日、食事に行くことになった。

ラインのIDに4桁の数字が入っていて食事の約束日が同じ数字だったので、あてずっぽで誕生日かもしれないと思い、少し高価だったがその人に似合いそうな傘を当日プレゼントしたら、やはり誕生日だったらしく驚かれた。

紆余曲折有り、その女性は妻となり、今は家族4人幸せに暮らしている。

Yahoo!ニュースは消えるのが早いので、ここに残しておこう。
荒れることの多いヤフコメだが、こんなにほのぼのしたコメントがあると救われる。

誰しも、それぞれに人生がありドラマがある。
喜び、悲しみ、後悔、達成感、寂しさ、迷い、辛さ、愛情……等々、生きた年月の物語がある。
名も知らぬコメ主のドラマの断片が、ささやかな感動をもたらすことができる。
ネットの暗黒面ばかりが話題になるが、こうした良い面が話題になることは少ない。

私自身のほろ苦い傘のエピソードをひとつ。

中3のときの話。

その日は小雨が降っていた。
傘は持っていなかった。
学校からの帰り道を、傘をささずに歩いていた。

ふと前を見ると、傘を差した女子がいた。
後ろ姿でも、誰だかわかった。
同級生の彼女だ。
ボクが片思いをしていた、幼なじみの彼女。

幼なじみといっても、無邪気に遊んでいたのは小学生までだった。中学生になると男女を意識するようになり、顔を合わせるのが照れくさくなった。彼女のことを“女性”として見るようになっていたからだ。

初恋だった。

中1〜中2はクラスが違ったから、ときどき廊下ですれ違うだけだったが、互いに目を合わせると、どこが気まずかった。
中3で同じクラスになった。
お互いに相手のことは小さい頃から知っているのに、話をすることはなかった。
幼なじみであることは、周りの級友達は知らない。
ほかの女子とは話ができるのに、彼女とは話ができなかった。
彼女のことが好きすぎて、近づく勇気もなかった。
意識過剰だったんだ。

その彼女が、雨の降る通学路の目の前を歩いていた。
ボクは足早に彼女を追い抜いた。一言も声をかけずに。
このバカ! 絶好のチャンスじゃないか!
勇気のない自分を、心の中で罵った。

情けない自分に自己嫌悪しながら歩いていると、声をかけられた。
「諌山君」
振り返ると、彼女がいた。
歩くのが早いボクを、追いかけてきてくれていた。
彼女は傘を差しだしていった。
「一緒に帰ろう」

相合い傘だ。
中3の少年少女にとって、夢のようなシチュエーション。
通学路だから、ほかの生徒たちも歩いている。ボクと彼女は注目の的だ。
当時としては珍しいから、恋人のように見えたのだろう。

久しぶりに彼女と話をした。
小学生の頃は、互いのお誕生日会に呼ぶほどの仲だったから、3年ぶりの会話だ。
話の内容はたわいのないことだ。
だが、肝心なことはいえなかった。

「好きだ」と、告白はできなかった。

それはお互い様だったのかもしれない。
ゆっくり歩いていたが、帰り道の分岐点が近づいても、ボクは告白する勇気が出なかった。
分岐点で立ち止まった。
「ボク、こっちだから」
「うん、じゃ、またね」
「傘、ありがとう。じゃあ」

結局、いえなかった。
その後、互いをより意識するようにはなったが、片思いが両思いにになることはなかった。
後悔とともに中学を卒業した。
進学する高校が違ったために、それっきり彼女と会うことはなくなった。

私にとって、傘は失恋の象徴だ。
あの雨の日は、人生の大きな分岐点になった。
告白して交際が始まっていたら、彼女と結婚にまで至ったかもしれない。
しかし、そうはならなかったから、私は今ここにいて、現在の妻といる。

記憶の中の彼女は、セーラー服姿のままだ。
もし、彼女と再会することがあったら、あの日、いえなかった気持ちを伝えて、昔話ができたらいいなと思う。

諌山 裕

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