苦境のシャープに関連した、2つの記事。
「復活」と「活路」は見いだせるのだろうか?
「家電屋」から「部品屋」になったシャープの未来は明るいのか IGZO“賞味期限”の新たなリスク (1/3) – ITmedia ニュース
液晶への過剰投資の影響で、2年連続で巨額の赤字を計上した経営再建中のシャープが、立ち直りつつある。平成25年4~12月期の連結決算では本業のもうけを示す営業利益が814億円で、1662億円の赤字だった昨年同期から驚異的な回復を見せた。だが、実はこの“復活”に最も寄与したのはリストラ。「再建の要」である液晶パネル販売は確かに好調だが、「家電屋」から「部品屋」で活路を模索し始めたシャープの未来は、果たして明るいのだろうか。
リストラはコスト削減では短期的に効果の出る手段だが、貴重な人材を手放しているわけで、企業としての将来性を手放したことにもなる。リストラされた人たちが、同業他社に転職すれば、シャープで得たスキルや知識を移植することにもなり、新たな脅威になる。
日本の電機メーカーの凋落は、技術者の海外流出が端緒だったはずだ。
窮地に陥った会社を存続させるために、人材を切り捨てる。一時的にはコスト削減になり、赤字を縮小できるが、自分の手足を切り捨てているから、だんだんと動けなくなり、ゆるやかな死に向かう。
優秀な技術者は残っているのかもしれないが、どんなに優秀であっても、ひとりの技術者にできることには限度がある。少数精鋭……というと聞こえはいいが、ずば抜けた天才でもいない限りは、少数で革新的な技術開発は難しい。
持っている技術を継承して、製品を作るだけなら、それほど難しくはない。製造方法と製造ラインは確立されているわけだがら、それを動かせればいい。しかし、それだけではやがて売るものがなくなる。
新たな技術で、新たな製品を作り、新たな市場を開拓しないと、成長は望めない。
これはシャープに限ったことではなく、ソニーでもアップルでも直面する問題だ。
「家電屋」から「部品屋」になることで、短期的な活路は見いだせると思うが、表舞台からは退くことになるのではないか。部品メーカーとしては、日本の中小企業が頑張ってはいるが、シャープは黒子に徹することができるだろうか?
シャープの技術者は、頑張っているぞ……という記事が以下。
滝田勝紀の「白物家電、スゴイ技術」:家電が驚くべき進化を遂げる! シャープの「生態模倣技術」とは? (1/3) – ITmedia LifeStyle
「生態模倣技術」という言葉をご存知だろうか? 自然界に生息する生き物の機能や仕組みを参考にして、新たな技術の開発や性能向上に結びつける技術のことだ。そしてここ数年、「生態模倣技術」を家電分野に積極的に取り入れているのがシャープである。
(中略)
いままでどれだけ「航空工学」を応用しても、風効率を1%上げるのに何カ月も掛かっていたものが、アホウドリの羽根を真似て作ったプロトタイプは、いきなり20%も効率を高めることに成功したのだ。
こういう技術者が残っていることは、心強い気がする。
ただ、この技術は技術革新というよりは、既存製品の「改良」なので、シャープの窮地を救う救世主になるかどうかはちょっと疑問。
特許は取っているだろうが、真似することが容易でもあるから、シャープにしかできない技術とはならない。白物家電は競合他社が多いから、「アサギマダラ羽根扇風機」だから売れる、とはいかなそさう。付加価値として、高効率で省エネは歓迎されるが、最終的には価格次第になる。
価格.com – 扇風機・サーキュレーター | 通販・価格比較・製品情報
満足度ランキングで1位になっているのが、「アサギマダラ羽根扇風機」なのだが、売れ筋安価機種の4~10倍の価格だ。要は、「扇風機として風が吹けばいい」というのが扇風機に求められていることなので、風が快適かどうかはあまり考慮されない。
省エネ性能はたしかに高いし、ユーザーレビューの満足度も高いのだが、扇風機を頻繁に使うのは夏場の2~3ヵ月だろうし、しかも四六時中回しているものでもない。ちょっとつけるためだけに、この扇風機を買う理由にはならない。貧乏人のサガで、「扇風機に1万7千円?……それはちょっと……」と考えてしまう(笑)。
着眼点と技術としては面白いのだが、大ヒット商品にはなりにくい。
「扇風機はシャープでなくちゃ」……という必然性が乏しいからだ。
余談だが、シャープ製品では苦い経験がある。
10年は保つ……といわれるLED電球で、シャープのLED電球を使っていたのだが、10年どころか1年半で使いものにならなくなったことがある。
参考記事→ LED電球のカバーが脱落した(^^;)
このページは、検索でよく参照されている。「シャープ,LED電球,脱落」というキーワードで検索されているので、同様の事態に遭遇した人が多いのだと思われる。
製品としてはまったく違うものだし、製造している工場も違うのだろうが、メーカーとしての信頼性は薄れる。同時期に購入した東芝のLED電球は問題なく使用できているので、他の製品で価格と性能がほぼ同等であれば、シャープではなく東芝を選ぶ。消費者心理とは、そういうものだと思う。
蛇足ついでに書いておくと、長年愛用しているシャープの製品もある。それは「両開き冷蔵庫」だ。以前住んでいたマンションの頃から使っているから、たぶん14~15年くらい前の製品。これは今でも現役だ。一度も故障していないし、使い勝手も良い。新しい製品であれば、省エネで効率も良くなっていることは承知しているが、必要十分に使えているのに買い換えるのはもったいない。古い冷蔵庫ではあるのだが、現在市場に出回っている製品にはない個性的なデザインであることも、愛着がある一因だ。
冷蔵庫に限らず、最近の白物家電はデザインや色が無難というか、類型的で個性が乏しい。地味な方が万人受けするからだろうが、とんがったデザインは、ときに愛着を感じるようになることもある。
性能の向上、機能の向上、新しい技術の導入も必要なことではあるが……
「シャープの製品がいい」
「シャープの製品は信頼できる」
……ということも大切だ。
IGZO製品や「生態模倣技術」は素晴らしいと思うが、「LED電球はダメ」だと評価は落ちる。白物家電は、生活に密着した製品でもあるので、高付加価値の製品だけでなく、廉価な製品でも他社に負けない品質を維持してほしいと思う。
かつて、シャープはロゴマークの上にスローガンを掲げていた。
「目の付けどころがシャープでしょ。」
のちに、
「目指してる、未来がちがう。」
結果論として、「目指してる、未来が違ってしまった」になってしまった。
「目の付けどころがシャープでしょ。」の時代は、勢いがあったと思う。「目指してる、未来がちがう。」になってから、やや天狗になってしまったというか、自信があいまって傲慢になったようにも感じられる。
「生態模倣技術」は 「目の付けどころがシャープでしょ。」ともいえる取り組みだ。
初心に返って、目の付けどころがいいシャープを取り戻してくれることを期待する。