ウイルス学の専門家が提唱する「1/100作戦」という記事。
興味深いことがいわれているが、盲点もあるのでそこにツッコミ(^_^)

コロナとインフルエンザの防護策を知る|③ウイルス学の観点から | Tarzan Web(ターザンウェブ)

その前に知ってもらいたいのは、ウイルスが1個でもあれば感染が起こるわけではないという事実。新型コロナでどのくらいのウイルス量があれば感染が成立するかは、まだわかっていません。

新型コロナの仲間である“中東呼吸器症候群(MERS)”ではウイルス粒子10万個で1個の細胞にしか感染しないという報告もあります。ウイルスすべてが細胞に感染する能力を持っているわけではないのです。

(中略)

── 空気感染については? 世界保健機関も注意喚起しています。

新型コロナで空気感染が起こるのは、相当“密”な状況に限られます。空気感染とは、呼気で感染するもの。麻疹や水疱瘡、百日咳のように、電車の同じ車両にいるだけで感染が起こります。

空気感染する感染症は、感染者1人が何人にうつすかという基本再生産数が、通常〈8〉を超えます。新型コロナの基本再生産数は〈1.4〜2.5〉、国内では〈1.7〉程度で、インフルよりも低い。もし空気感染するなら、3密になる通勤電車やバスでクラスターが起こってもおかしくありませんが、そうした事例を私は知りません。

換気は必要ですが、新型コロナを怖がるあまり、冬場に換気しすぎて寒くて凍える人が出たら困るので、あえて“空気感染はそれほど心配ない”と言いたいです。

(中略)

── 日本で重症者、死者が少ないのも、知らない間に1/100作戦を実践している人が多いから?

そう思います。未知のファクターXを想定しなくても、日本人の生活習慣が新型コロナの感染を抑えているのです。

たとえば、日本には欧米のようにハグやキスの習慣はありませんし、自宅でも土足で過ごしたりしません。お手拭きの文化もあるし、飛沫が飛ぶほど大声で話す人も少ないですし、マスクで口を覆うことに違和感も抵抗感もありません。

ツッコミどころは3点。

(1)飛沫に含まれる新型コロナのウイルス数は計測されていない。

「“中東呼吸器症候群(MERS)”ではウイルス粒子10万個で1個の細胞にしか感染しないという報告もあります。」
……ということだが、新型コロナについては感染者が排出しているウイルス量は、まだ計測されていない。

過去記事の「やっぱりマスクに感染予防効果はない?」および「「富岳」のシミュレーションで布マスクは7~8割の飛沫を防御」で試算例を挙げたが、マスクをしていても数百万個のウイルスを吸い込む可能性がある。もしそういうことになっていると、10万個に1個は楽々クリアできてしまう。

感染の広がり方や感染者の多さからいえば、MERSよりも感染力が強いことは示唆されているので、感染するのに10万個も必要とせず、1万個でも可能かもしれない。
つまり、この前提条件を厳密に特定しないと、1/100計画はあまり効果的ではなくなる。

(2)通勤電車やバスでクラスターは、起こっていても確認できないだけ。

この点についても前に書いたが、通勤電車やバスでクラスターが起こっていないのではなく、追跡できず確認できないというのが正しい。

たとえば、池袋から渋谷まで山手線で行くと、約16分前後かかる。これは濃厚接触の基準の15分に相当する。
朝の7時〜9時台は、だいたい3分おきに電車は走っている。

▼山手線・池袋発の時刻表

7時30分発の電車で、3号車に発症した人が乗っていたとして、その車両に乗り合わせた人を特定できるだろうか?
乗車した人は、渋谷駅に到着すれば、それぞれの会社に向かって散り散りになる。後日、感染が発覚したとしても、この電車で感染したかどうかなんて追跡しようがない。

すべての人の行動をトラッキングしているのなら、誰が、いつ、どこにいたかは追えるが、現状は調べようがない。参照できる情報がないのに、「通勤電車やバスでクラスターは起きていない」と結論づけるのは根拠がないし、科学的ではない。

空気感染について可能性を言及しているのは評価できる。他の専門家たちは、この点を避けているからだ。

(3)東アジアの感染規模が小さいのは、生活習慣では説明できない。

「未知のファクターXを想定しなくても、日本人の生活習慣が新型コロナの感染を抑えているのです。」
……というが、それは日本に限ったことであって、日本と同様に感染規模の小さい東アジアの他の国には当てはまらない。
世界地図で感染者数の違いを表したデータは以下。

人口あたりの新型コロナウイルス感染者数の推移【世界・国別】

色が濃いほど、人口100万人当たりの感染者が多い国だ。
見てのとおり、東アジアは少ない。アフリカも少ないが、これはちゃんとしたデータが取れていない事情もありそうだ。

オーストラリアやニュージーランドは、ヨーロッパ系の文化圏であり、ハグやキスの習慣がある国だ。それでも少ないのは、政府の対策が功を奏しているともいえるが、人的交流としてはアジア圏の人々と接触する機会が多いことで、生態的に東アジア圏と近いともいえる。これはファクターX候補のひとつ、交差免疫説を示唆しているように思う。

つまり、生活習慣説では日本以外を説明できないことになる。


「1/100作戦」はユニークだとは思うが、その立脚点となる前提条件には疑問が残る。
指摘した3つの問題点をクリアしないと、効果のほどはあまり期待できないのでは?
まぁ、なにもしないよりはいいとは思うけど。

諌山 裕

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