「混迷の世紀」と「欲望の資本主義2023」(2)の続き。

欲望の資本主義2023 逆転のトライアングルに賭ける時 – BS1スペシャル – NHK』第2章から、主な発言の書き起こし。
 この章で、日本の現状分析が行われている。ヒントはあるが、解決策の決定打はないようだ。問題点はわかっているのに、答えが見つからないという泥沼な気がする。

亀田制作 氏

亀田制作 氏:これからも大きな非線形の変化ってのは経済に起こりうると思ってますので、その意味で変化を追いやすいオルタナティブデータの分析の重要性っていうのはまだ続くと思います。
 一つの背景としては、やはり海外で成功して高収益を上げている企業というのは、まず新しいビジネスのモデルを確立させて、顧客をそこでまず囲い込んでですね、その中で顧客を囲い込んだ後に、値上げもして利益を上げる。
 変化に対するスピードが遅いとですね、そういった新しいビジネスタイにおける先行者利益を獲得しにくいということがやはりあると思います。

ナレーション:非連続な変化が繰り返される世界。それを飛躍のチャンスととらえる企業は、先行者としてのメリットを最大限に生かす。勝者総取りの流れは強まる一方なのか。

亀田制作 氏:なぜ欧米にできて日本にできないのかってのは、難しい点なんですけれども、台風が来て過ぎ去るのを待つ、みたいなメンタリティがどうしても出てきてしまっている。
 むしろコロナであれば、もちろん大きな災いなんですけれども、次の成長とか飛躍のバネにするっていう発想が、どうしても世論形成や、それを踏まえたマクロ政策の決定過程も含めて、なかなかそういう議論にならないなというふうには感じています。

ナレーション:世界中がインフレの嵐に飲み込まれ、対応を模索する中、日本は実は今のところ、不思議なエアポケットにいるかのようだ。

 各国のインフレ率を比較してみる。アメリカとイギリスの高いインフレ率に比べ、日本はここ数年、世界で最低レベルにとどまっている。品目別に見てみる日本ではほとんどの品で、値動きが0%、これが慢性的なデフレの表れだ。
 一方、今年に入るとエネルギー関連物価の上昇が観測され始めた。

ナレーション:この国では、長いデフレのトレンドと、ここにきての急激なインフレが絡み合い、見通しが難しい。同時進行する、慢性デフレと急性インフレ、日本の物価は今後どんな推移をたどるのか。

ナレーション:モノの値段、それは本当に不思議だ。そもそも予測は可能なのだろうか。

渡辺 努 氏

渡辺 努 氏:私は数年単位で終息までかかるというふうに思ってますので、一般的な見方よりもう少し長く続くっていうふうに私は思っています

ナレーション:日銀で調査統計に携わったのち、物価と金融政策をテーマに研究者に転身。人々の心理、社会の空気を読み、インフレの正体に迫る経済学者は……。

渡辺 努 氏:ちょっと不謹慎な言い方かもしれませんけれども、私はインフレにせよデフレにせよ、それはやっぱり人の気持ち次第なんじゃないかと。
 もっと言えば気持ちというより気分ですね。日本はどうかっていうと、日本は実はその気分のコントロールができてないというのが、その最大の問題であります。
 必ず個々の企業、個々の消費者、個々の労働者っていうのは、自分なりの方法論を持って、先々の物価がどうなってるかってことを予想している、そこは間違いないわけです。
 例えば、仮に全員がそう思ったというと、実際にインフレが起きてしまう、というのがこの話のポイントでありまして、不幸にして、やはりインフレの予想が揃ってしまうような局面というのが、いろんな要素の中で出てきてしまいますので、そうすると実際にインフレが起きてしまうとこういうことになってしまうわけなんですね。

ナレーション:個人の気分から、社会の空気が生まれる。その構造は……。

渡辺 努 氏:蚊柱が夏に水辺とかで蚊が集まって、遠くから見ると一つの物体のように、まさに柱のように見えるわけですけども、実際には個々の蚊が集合体として存在しているというわけですね。


 多くの方はしかし、そこはそんなに意識せずに、個別の商品の価格から何かの感覚を得て、物価上がったなとかっていうことを、どうしても言いがちですけれども、その中で、個々の商品の動きってものと、マクロの物価の動きっていうものは、どこが似ていてどこが違うとかってことは、非常に手触り感を持って理解できるようになった、というのが一番大きな部分だと思うんですね。

ナレーション:例えば、アメリカの値上げは、2%の値上がりがほとんどの品目に及ぶ。ところが、日本の物価では一部10%値上がりするものがあったとしても、全体の40%近い品目が、0%近辺にとどまったままだ。

渡辺 努 氏:70年代にインフレが、アメリカでも日本でもヨーロッパでも起きたわけです。今回もよく似てるわけでして、戦争がありましたと、ただ、実際にはしかし、ずいぶんと違ってた面もあるわけです。
 あえて言えば、そういう気分で物価が動いちゃうような状況を防ぐために、人事の知恵として、そういうふうに物価っていうものの価値がフラフラどっか行っちゃわないように、きちんと留めておくんだと、そういうアンカーっていうのをきん(金本位制)という形で、当時は作ったんだと。
 アンカーってのは船を止めるアンカーですけども、一番根源的な理由は、その元々の錨が底にちゃんとくっついてなかったと、なのでもう自由に気分を好きなように動かす、そういう余地を与えてしまったと、ここが最大の失敗だったんですね。

 具体的に今、その錨として選ばれてるのは、インフレターゲティングが選ばれてるわけでありまして、日本も含めてどこの国もそうですけども、消費者物価上昇率を2%にしましょうと、それが実際の制度として日本を含めて今、多くの国採用されているわけです。

ナレーション:かつては、交換比率をきんという実物に固定することでアンカーとしていたが、変動相場制以降はインフレ率がアンカーとなっている。自国のインフレ率を金融政策で制御することが、国際的な慣行となっているというのだが。

渡辺 努 氏:残念ながら、この供給が少なすぎるので、それを直さなきゃいけないってときの、その直し方っていうのについてのノウハウというものはないんですね。研究者も持ってませんし、それから中央銀行や政府の人たちも持っていません。

 需用を落とす、冷やすっていうのは、ノウハウはそれなりにありますので、金利を上げていけば、例えば住宅資金借入は減ってきますし、クルマを買う人も減ってきますしっていうふうにして、需要落ちていくので、それによって少ない供給に見合った、少ない需要っていうふうに持っていくことができると、米欧で今一生懸命やろうとしてることなわけですね。

ナレーション:金利を上げ、お金の市場への供給を減らし、需要を抑え込む。だが、景気減退を招くため、経済だけでなく政治の争点ともなる。

渡辺 努 氏:もらう賃金についても、これも抑え込まなきゃいけないわけです。例えば、組合とかが高めの賃金を要求すると、さらに加速するから、それはやるなみたいなことを政府がいいだす可能性っていうのがあるわけです。
 もちろん、労組は猛反対するわけですけれども、その両面で労働者のところには、しわ寄せが行く、なのでそこで政治的なテンションが高まっていくわけです。

ナレーション:慢性デフレに、急性インフレという症状が加わった日本。過熱を抑えつつ、景気を冷えこませないすべは……。
 ボーナスアップ、賃上げついては、まだ足りないの声があふれていれば、それは需要を喚起し、経済を回す契機となるのだろうか。

 需要と賃金とが、刺激し合って回るのが好循環だという。だが、この数十年、ずっと冷え込み続けたサイクルを逆転させるのは容易ではない。

渡辺 努 氏:この価格で賃金を、それぞれの企業それぞれの業者が全部据え置きですと、こういうことで一応手を打ちましょうっていう、この気分が日本社会を定着してしまった。要は社会として、こんなもんかなっていう相場がいろいろあるじゃないですか、それが暗黙の了解になって、社会としての雰囲気、ノルム、当たり前、気分というものにさせているのです。

 そういうものってのは、急には変わらないわけですよね。ただやっぱりパンデミックとか、あるいは戦争とか、そういう大きなイベント、グローバルに誰もが知ってるようなイベントが起きて、そうするとある意味ウイルスが旗を振ってくれるっていう形で、音頭を取ってくれるっていう形で、人々の行動が変わってくる。それが賃金とか物価の、当たり前を動かしていくってことが、私はあり得るんじゃないかなというふうに思ってます。

ナレーション:供給側の対応は、商品の中身を減らしたり、人件費をカットしたり、価格を据え置くために、あの手この手を取ろうとするのが売り手の心理だ。

渡辺 努 氏:ステルス値上げとか、シュリンクフレーションとか言いますけれども、何をしてるかっていうと、ある意味で商品の質を落としているわけです。もちろん、量も質の一部だと考えれば、悪い質にしてるわけですから、そうすると価格が据え置きだったとしても、十分そこで利益を上げることができると、こういうことが起こるわけです。その価格が動かないっていう当たり前と、自分の経営っていうのを両立させるっていうことをやってきたんだと。

 私は実は、労働者も同じことが起きてると思っていて、賃金が、皆さんも私もそうですけども、毎年毎年据え置きですと、そうすると労働者は質を落とすってことを考えるしかないわけですよね。
 さっきのステルス値上げみたいなものと同じように、賃上げもステルスでやっちゃってると、労働者が。世の中全体の効率性とかやる気とか、インセンティブみたいなそういうものをすごく大きく犠牲にしてるんだと思うんですね。

ナレーション:意識を変え、行動を変える。30年で刻み込まれたノルムが、ついに変わるのか。ノルムは閾値を超えたとき、雪崩のように変わる。飲み込まれるか、乗りこなせるか。

 なかなか興味深い分析。
 ここまで分析できているのに、効果的な解決策が導き出せないというのは、現在の政府には期待できないということか?

 重要なポイントは……

  • 日本人の受け身のメンタリティが障害になっている。
  • ノルム(気分)がインフレを左右する。
  • インフレターゲティングがアンカーとして機能していない。
  • 供給が少ないときのインフレ修正のノウハウがない。
  • 商品も労働者も、質を落とすシュリンクフレーションに陥っている。

 といったところか。
 特に「供給が少ないときのインフレ修正のノウハウがない」というのは、致命的な気がする。誰も解けない問題を、どうやって解くのか?

 イノベーションが求められているが、経済理論のイノベーションが必要だろう。
 当面の問題として、インフレは気分しだいの成り行きまかせってことになりそうだね。

「混迷の世紀」と「欲望の資本主義2023」(4)に続く。

諌山 裕

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