朝ドラ『なつぞら』東京編は、ちょっとつまらない

朝ドラ『なつぞら』WEBサイトより。

なにげに見ている朝ドラ。
ちょうど出勤前の朝食を食べているときに、放送しているからだ(^_^)。
『なつぞら』は北海道編から東京編になって、ちょっと面白くなくなった。

妹思いの行動が裏目に…… 『なつぞら』岡田将生は広瀬すずを支えることができるのか|Real Sound|リアルサウンド 映画部

大切な妹のなつ(広瀬すず)が、憧れの東洋動画の試験に落ちてしまった。NHKの連続テレビ小説『なつぞら』第51話では、妹が落ちたことに納得のいかない兄・咲太郎(岡田将生)が、「あいつには実力がないのか」と仲(井浦新)に詰め寄るところからスタート。

(中略)

そこへ、仲と陽平(犬飼貴丈)が現れる。なつが落ちたことを不満に思っていた二人は、独自にその理由を探っていたのだ。そこで発覚したのが、なつ不合格は社長(角野卓造)の判断であること、咲太郎が社長に直談判した経緯があること、そして、その社長が咲太郎のことを快く思っていないということだ。社長は咲太郎を“愚連隊だか太陽族だか分からない存在”として危惧しているようなのだ。

ドラマの骨子として、アニメーターになることが始めに明かされているので、東京に出てくることは必然ではあった。ただ、なつがアニメーターを目指す動機が弱い気がするし、入社試験でつまづくという展開も、ややこじつけに感じてしまった。

この業界(アニメ業界)は、昔からコネの世界でもあって、他社からの引き抜きとか、後輩を連れて来るというのはよくあった話。
なつはすでに仲と陽平とコネを持っていたのだから、試験なしでも入社させることは可能だったはず。形式上、試験を受けさせるのであれば、仲が「この子は、ぜったい採ってください」と人事部に申し入れするのではないか?

私がアニメーターになったときは、試験なんてなくて、簡単な面接だけだった。多少の絵心があれば採用された。その時代は、すでにアニメーターは使い捨ての手足でしかなかったからだ。中途採用は頻繁に行われていた。ただし、名目社員の完全歩合給としての採用だ。

このドラマの当時(1956年〜)。
日本のアニメ業界は黎明期だが、東洋動画のモデルである東映動画に集まった人たちは、アニメをやりたくて入社した人たちばかりではなく、絵を描くことの仕事がなくてアニメ業界に入った人たちも多かったという。

『なつぞら』アニメ時代考証・小田部羊一氏と東映動画のスゴい人々 | FRIDAYデジタル

小田部:当時、僕が通っていた東京藝術大学の日本画科って、ほとんど就職先がなかったんですよ。それがたまたま動画スタジオから募集があって。でも日本画科の人たちは基本的に絵描きを目指してる人が多いから、漫画やアニメなんか見たこともない。

僕は子供のころから漫画やアニメーションが好きで『白蛇伝』も観ていたんですよ。だからアニメーションといったら絵を描いて動かすもんだと思っていたので、当然のようにアニメーター志望で。

「東映動画から募集が来てるから受けようよ」と誘っても、ほとんど反応がなかったんですが、同級生の女性2人だけが受けてみようかしらって。日本画ですから筆で絵を描きます。アニメーションの背景画なら筆で描く仕事ですから。美術(背景画を描く職種)希望のその2人と一緒に受けに行きました。

この当時はまだテレビアニメが始まっていない時期なので、アニメ映画の制作がおもな仕事だった。
そして、現在のアニメ業界と大きく違うのは、社員としての雇用だったということ。当然、給料制だし、9時〜5時で仕事は終わり、残業すれば残業代も出ていた。つまり、まっとうな労働者として扱われていた時代でもあった。

この社員雇用の形態が崩れるのは、日本初のテレビアニメとして「鉄腕アトム」が放送されるようになってからだ。次々とテレビアニメが作られるようになると、制作スケジュールがタイトになり、制作に関わる人数も増えるから、人件費も高くつく。しかし、制作費が多く出るわけではない。

じゃ、どうするかというと、人件費を削るために、固定給ではなく歩合制にした。最初は部分的な歩合給だったのが、完全歩合制になった。その歩合の単価がおそろしく安かったために、アニメーターの年収は著しく低下した。
アニメ業界そのものが、ブラック業界に変貌することになったのだ。

詳しい経緯を知りたい方は→ 『アニメーションという原罪

『なつぞら』で描かれるアニメーターの世界は、まだ平穏で恵まれていた時代の話となる。
そう、地獄の世界になる前の、天国だった時代だ(^_^)。

それはさておき。
朝ドラは、東京放送局の作るシリーズと、大阪放送局の作るシリーズが、交互に制作されている。
『なつぞら』は前者。

東京放送局のシリーズは、東京を舞台にしたいらしく、田舎から東京に上京してくる……という展開になる。
大阪放送局の場合は、大阪が舞台になる。

『半分、青い。』と『ひよっこ』も、田舎から上京してくる話。
動機は違えど、若い娘が東京を目指すことに変わりはない。

で、3つの作品に共通しているのは、田舎編と東京編で、ドラマのテイストがガラッと変わってしまうことだ。まるで別のドラマのように。
そりゃ、環境が変わるからといわれればそうなのだが、あまりにギャップが大きすぎる。

そこまで変わるのであれば、最初から東京編でいいんじゃね?……といいたくなってしまう。
田舎編は、回想シーンにしてしまえばいい。
『なつぞら』は、特にギャップというか落差が大きい。

あの、北海道の牧場生活はなんだったんだ〜?(^_^)b

少女よ、東京を目指せ!」的なドラマは、そろそろ卒業してもいいのでは?
いつまで、東京・イズ・ベストを謳うつもり?
田舎で地道に夢を実現する朝ドラがあってもいい気がする。

また、アニメーター経験者からいわせてもらえば、アニメーターの仕事や日々の生活に、たいしたドラマはないからね。
あるのは、机に向かって鉛筆を走らせ続けることと、貧乏でひもじい思いをする日々。

たしかに、日本のアニメの黎明期を支えた先人たちはすごかったと思う。
だが、それとは別に、仕事として、労働として、アニメーターの地位向上をしなかったのも、先人たちである。

夢のために、相応の対価を求めなかったんだ。
言い換えれば、夢を安売りしてしまった。

そのツケが、現在のアニメ業界を疲弊させているのも事実。
『なつぞら』でアニメーターの夢を、ただの美談に終わらせてほしくないとも思う。

諌山 裕

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