無重力は脳を劣化させる?

宇宙旅行は、体にダメージを受けることを覚悟して行かなくてはならない旅行のようだ。
日帰りだったら問題なさそうだが、長期の宇宙旅行はいろいろと問題がありそう。
問題の原因で重要なのは、無重力と宇宙線(放射線)だが、無重力で顕著なダメージを受けるのが「脳」だという研究の記事。

宇宙旅行、脳に永続的な影響か 最新研究 | ナショナルジオグラフィック日本版サイト

 新たな研究によって、宇宙に滞在した宇宙飛行士の体を調査した結果、特に重要な臓器に影響が見られるという懸念が報告された。脳である。この研究結果により、無重力状態で長期間滞在すると、地球に帰還して7カ月が経過しても、脳に影響が残りうることが明らかになった。

(中略)

宇宙から帰った直後は、脳の「灰白質(主に神経細胞の細胞体が集まる組織)」の体積が最大で3.3%減っていた。宇宙に滞在中に、過剰な脳脊髄液が圧迫していたためと考えられる。そのときに減った分は、しばらくすると回復したものの、数カ月経つと今度は別の場所の灰白質が減っていた。宇宙に行く前と比べると、灰白質は全体で計1.2%ほど減っていた。

(中略)

宇宙滞在は、とりわけ免疫系、DNAの修復、骨の成長に関する遺伝子の発現に影響を与えるようだ。

この研究では、無重力環境で半年を過ごした宇宙飛行士が対象になっている。
脳の一部の体積が減るというのは、脳細胞が死滅するということだと思うので、認知症やアルツハイマーで脳細胞が死滅するのと同じようなことなのかもしれない。

前エントリの「人類は火星適応のために遺伝子改変で“進化”するのか?」に通じる話だが、人間の体は1Gの重力があることを前提で作られているから、無重力にはそのままでは適応できない。そのため、脳を始めとして細胞レベルでダメージを受ける。

無重力に適応するためには、無重力に最適化された体にしないといけない。
その方法のひとつが、遺伝子改変となる。
もっとも、どうやったら無重力に対応できるような体を作れるのか、現時点では不明だ。なぜなら、無重力に適応した脊椎動物がいないからだ。

無重力が原因なら、人工重力を作ればいいというのが、テクノロジーの選択肢としてはある。
回転による遠心力で重力を作る方法なら、21世紀の技術でも可能だ。ただし、回転させる部分がある程度大きくなってしまう。1Gを作り出すためには、回転の半径に応じて回転スピードが決まるので、小さな回転半径だと速く回転させないといけなくなる。

【参考】
半径5mのリングまたは円筒を回転させて、1Gを作り出すためには、毎分14回転させる必要がある。
半径を10倍の50mにすると、毎分4.4回転となる。

Star TrekやStar Warsの世界では、人工重力発生装置が登場する。
それがあれば、無重力問題は解決(^_^)。
だが、そんな夢のような装置は、まだまだ夢でしかない。理論的に可能とすらいえない。

現状のロケットと宇宙船で火星に行くためには、最接近時のタイミングを狙ったとしても、ホーマン軌道を使えば約8か月かかる。
火星に着いた時点で、すでに低重力脳容積減少症(←私が勝手に命名)になってしまう。
火星に着陸してからも、重力は地球の3分の1なので、無重力よりはマシとはいえ、脳脊髄液は過剰気味になるような気がする。

火星に人間が降り立つのを、生きているうちに見るのが夢なのだが、宇宙飛行士には過酷な火星への旅となる。
往復の燃料を持って行けるほど巨大な宇宙船は計画されていないので、どうやって帰ってくるかという問題もあり、火星に人間を送りこむのは一筋縄ではいかない。

遺伝子改変や人工重力発生装置は、現時点では不可能。
ならば、脳圧を下げるための別の方法を探すしかない。薬剤で脳脊髄液の分泌を減らせるか、あるいは耐Gスーツの逆で、脳圧を下げるための装置。耐Gスーツは下半身に下がってしまう血流を、圧をかけることで頭の方に押し上げる。無重力でやるのは、この逆。

いずれにしても、人類が宇宙に進出していくためには、無重力適応は必須の課題だね。

諌山 裕

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