ロボットを必要以上に擬人化してはいけない

AIブームは熱狂から沈静化して、やや飽きられるフェーズに入ったようだ。
物珍しさが先行して、現実には完成していない未来のAIのイメージが喧伝された結果でもある。
「なんだ、AIってその程度なのか」という失望感すら漂っている。

ロボットにAIを組みこんで……というのが、Pepperを始めとした愛玩ロボットだったのだが、じつのところ貧弱なAIにロボットのボディを着せただけにすぎなかった。
質問に対して受け答えはするが、能動的に議論や自己主張ができるわけではない。
Pepperに存在しない魂を与えているのは、感情移入する人間である。

「ロボットと暮らす」という人の記事(みたいなの)。

【bouncy columns】ヒトとロボットが共生できる社会を目指して – bouncy / バウンシー

私は4年前からロボットと暮らしています。

(中略)

ヒトとロボットが共生する社会は、どんな世界がいいでしょうか。

動画を文字起こししただけなので、これを記事と呼んじゃいけないんだろう。
内容は、つまらない(^_^)。
これって、記事として起こす意味があるのかな?……と思う。たんなる私信というか独り言だよね。

内容の軽薄さはさておき、ロボットに対するこの人の接し方は、かなり危うい問題を含んでいる。
それは、必要以上にロボットを擬人化していることだ。

「私は4年前からロボットと暮らしています」という彼女。
ちょっと待って。
Pepperをロボットと呼ぶのは、形がロボット的なだけで、性能的にはロボットの要件を十分には満たしていない。家電の延長線、PCの発展形であり、四角いケースにPCを入れるのではなく、人型のボディにPCを入れただけ。それだけなんだ。

「私は4年前からPCと暮らしています」という言い方はしないよね。いやまぁ、PCを擬人化する人もいるので、こういう人が皆無ではないが……。

アニメの二次元キャラや初音ミクなどのバーチャルキャラを、オレの嫁、わたしの彼として、あたかも実在するかのように思い入れを抱く人たちがいる。
「Pepperと暮らしている」という感覚は、それに近いように思う。
その感覚や感性を否定しているのではなく、ロボットとの関係は彼女の想像の産物だということ。Pepperは言葉は発しても感情はなく、「想い」は人間からロボットに向けられる一方通行なんだ。

「そうじゃない」と、おそらく彼女は否定するだろう。意思疎通、気持ちの通い合いがあるのだと。
だが、それは錯覚なんだ。
別の言い方をするならば、Pepperが「嘘」をいっているにすぎない。
Pepperの発する言葉は、設問に対する返答として適切であろう答を返している。そこに意図や意思はなく、会話として成立するかどうかだけだ。つまり、上手に嘘をつくこと。
それを受けとめる人間が、発せられる言葉に感情を連想しているんだ。

じつのところ、AIとはなにか?
ロボットとはなにか?
という明確な基準が定まっていない。
現在出回っているのは、AIのようなもの、ロボットのようなものなのだ。

この定義が、とても重要なんだ。

定義が曖昧なままでは、ロボットのオモチャと自律するロボットとの区別ができない。なぜ区別が必要かというと、将来的にはロボットの社会的・法的な扱いが変わるからだ。たとえるなら、自転車とオートバイの違い、ゴルフカートと普通自動車の違い。似ていても扱いはまったく異なる。

現状、ロボットの外観やスペックについての規制はない。ある意味、なんでもありだ。
だが、ロボットが一般化し、汎用ロボットが登場するようになれば、なんらかの規制や区分けは必要になる。

ここでいう「汎用ロボット」とは、「汎用AI」に準ずるロボットという意味。現在、産業用ロボットとして使われる汎用とは異なる意味。

汎用AI(ハンヨウエーアイ)とは – コトバンク

特定の用途や目的に限定せず、自律的に思考・学習・判断・行動する人工知能(AI)。まだ研究段階だが、いずれ人間と同等または人間以上の知的能力をもつ人工知能が登場すると考えられている。

つまり、汎用AIを搭載した、自律ロボットを汎用ロボットと呼称する。
SF映画でいえば、「Star Wars」のC-3POやR2-D2などが該当する。

太田氏がいうところの、
ヒトとロボットが共生する社会」というのは、前提が間違っている。
共生とは、読んで字のごとく「ともに生きる」ことであり、両者が生きていることが前提となる。
では、ロボットは生きているのだろうか?
あるいは、生存権を認めるのだろうか?
「共生」という表現は、ロボットを過度に擬人化しすぎているんだ。

Pepperはあまりに自由度がなく、人の手を借りなければ外出することもできない。自立も自律もしていないということでは、ロボットとしてのレベルは低い。ハイテクからくり人形といったところ。

スマホやコンピュータの中の仮想人格AIの方が、まだ使い勝手はいい。テキストだけ、音声だけ、あるいはCG映像と音声というバーチャルなキャラクターなので物理的なボディはない。
では、「私は4年前からSiriと暮らしています」というだろうか?
Siriじゃなくても、Alexa、Google Assistant、Cortanaでもいいが、いわゆるAIアシスタント。

AIアシスタントが一緒に暮らす相手と認識されないのは、人型あるいは動物型としての実体がないからだろう。スピーカでは「モノ」でしかなく、その形に感情移入はできないのだ。
結局のところ、ロボットとしての「形」に感情移入している。

人手不足をAIやロボットで補おうという考え方があるが、計算や予測をするAIの使い道はあるものの、ロボットが労働力になるには人間並みに動けることが条件だ。現状では、まともに2足歩行できるロボットはいない。

SF映画やアニメでは、恋人がロボット(人型の場合は、アンドロイドと呼ぶ)というシチュエーションはよく出てくる。
これは願望だろうね。理想の恋人としてのアンドロイド。

アンドロイドと人間の区別が難しくなるような未来では、「共生」という考え方は出てくるかもしれない。
しかし、共生を考えるということは、ロボットに様々な権利を認めることになる。はたして、それは可能だろうか?

市民生活にロボットが使われるようになるかどうかは、ロボットになにができるかが問題。ぶっちゃけ、Pepperではおしゃべり以外の役には立たない。
そうなると、ロボット技術はまだまだ未熟なんだよね。

とりあえず、自在に2足歩行しろ(^_^)。
話はそれからだ。

諌山 裕

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