クリ、12歳、永眠…

在りし日のクリ

 もたなかった……

 酸素室を設置して、クリを迎えにタクシーで行った。
 病院を出るとき、家に帰り着いたときには、まだ鳴けるだけの気力があった。

 しかし……

 嘔吐していて、血が混じっていた。
 酸素室に入れて、しばらくすると咳きこみ始めて、全身から力が抜けた。

 呼びかけても、反応はない。

 家に帰るのを、待っていたのだろうか?
 私たちが迎えに行くのを、待っていたのだろうか?

 もっと、待っていて欲しかった……

20時15分。
息を引き取った。

 いつか、この日が来ることはわかっていた。
 クリを飼い始めたときから。
 やんちゃ坊主だった、クリ……
 うちで、一番のおバカキャラで、楽しいヤツだった。

 甘えんぼうで、私たちが寝るときに、枕元に来ていた。
 愛想がよくて、お客さんが来ても、逃げもせず愛嬌を振りまいていた。
 食い意地が張っていて、なんでもおねだりしていた。
 好物は、マグロの刺身。
 欲しいものがあると、2本足で立ち上がって、自分の頭を撫でるように手を振り、「ちょうだいちょうだい」とでもいうような、ダンスをしていた。

 ああ……
 もう、おまえの鳴き声を聞けない……
 もう、おまえのふかふかの毛皮に、触れられない……
 もう、もう二度と、おまえを抱っこできない……

 辛い……
 いつだって、猫たちを看取るのは、辛い。
 楽しい時間、幸せだった時間が長ければ長いほど、辛い。

 せめてもの救いは、私たちが一緒に育った家に帰ってきてから、旅立っていったことだ。

 クリ、いま、どのへんにいるのかな?
 迷わずに、猫の天国に行けるかな?
 おまえは猫の本能に乏しかったから、心配だよ。

 迷子になってるような気がする。

 迷子になってるのなら……

帰っておいで!

 帰ってきてくれよ……
 美味しいマグロを用意しておくからさ。

クリ!
帰ってこい!

 涙が……
 止まらない……

諌山 裕

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