失恋もしくは片思いの処方箋

一昨日のエントリーに関連して。

私も、人並みに何度か恋をして、悩み、焦り、辛さ、空しさ、失望、困惑、堂々巡り、勇気を出して……と、経験した(^^;)。

片思いのまま、想いを打ち明けられずに終わったこともあれば、勇気を出して告白しても振られてしまったり、告白する前に挫折してしまったり……、成就しなかった恋もあった。
最終的には妻と出会って、両思いになったわけだが、実らなかった恋は辛かったものだ。

片思いは辛い。
出口のない、迷路に迷い込んだのと同じだからだ。
出口は2つしかない。

1つは、想いが通じて、相思相愛になること。
もう1つは、失恋すること。だが、失恋の出口は、本当の出口ではなくて、もっと辛い暗闇の迷路でもあって、救いにはならない。

悶々と考える日々が続く……

相手は、身近にいる人。
同級生だったり、会社の同僚だったりするが、会う機会が多い人だ。
ただすれ違うだけや、遠くから目にするだけであっても、彼女の存在を意識できる距離だ。
ふと気がつくと、彼女のことを考えている。

彼女に対する想い、彼女とどんな話をするかといったシミュレーション、どうやって自分の想いを伝えようか、いろいろなシチュエーションを想定する……。
頭の中は、彼女のことで埋め尽くされる。

それは、まるで水の中で溺れているような感覚。

息をするために水面に出ようと、もがいている自分がいる。
考えても、考えても、考えても……、結論なんて出はしない。
恋の方程式は、ひとりでは解くことはできない。

答えは、彼女が持っているからだ。
それがわかっていても、悶々と考えてしまう。

勇気を出して告白すればいいのだが、自分なりに成功率を上げたいと思うから、そのための方法を考える。
こうやって、ああやって、こうすれば……と、想定問題を解こうとする。

だが、彼女のことをすべて知っているわけではない。
片思いの段階では、彼女についての情報量が乏しく、大部分は勝手に想像した彼女のイメージから作られている。

 片思いは90%が妄想だからだ。

ある彼女を好きになったときのこと。
彼女のことは、一目惚れに近かった。
初めて会ったときから、気になった人だった。
人並み以上に美人で、笑顔が素敵で、やや低めの声がセクシーだった(^^)。
誰にでも好かれる、いわゆる「もてるタイプ」だ。

おそらく、彼女は恋愛で苦労することがない人。黙っていても、男の方から寄ってくるような女性だ。それだけの魅力を放っていた。
……というのも、私の想像でしかないが。

挨拶をすると、セクシーな笑顔を返してくれた。
それは誰に対してもそうなのだが、自分に向けられると、特別なことのように錯覚してしまう(^^;)。
それが「片思い」の思いこみだ。

挨拶をするだけの関係だったが、彼女の顔を見るたびに、「好きだ」という想いが増幅していった。
妄想の上に妄想を重ねて、彼女への想いは強くなっていった。

救いようのない「片思い」だ。

やがて、少しずつ会話をするようになった。
ほんのささやかな世間話だ。
何時間も話し込むというような会話ではなく、二言三言の時間にして数十秒の会話だ。

それでも、直接コミュニケーションを取ると、遠くから見ていたときよりも、彼女のことが少しわかってくるものだ。
ますます彼女のことが好きになる。

彼女のことをもっと知りたい。

そういう欲求が強くなる。
だが、彼女の周りには、ほかの男性もいる。
より親しい男たちだ。

彼女はその男性と、よく行動をともにしていた。
立場的には、私は極めて弱く、関係性も薄い。
太刀打ちできない……と思った。
そのことが、さらに辛い片思いになった。

望みは薄い……

それは明らかだったが、好きになってしまった想いは、簡単には捨てられない。
片思いは、時間の経過とともに、どんどん肥大していった。

そんな日々が過ぎているとき、ある事件が起こった。
事件……といっても、私にとっての事件でしかないが。

彼女との短い会話をしているとき、思わぬ言葉を返された。
それは、私を打ちのめした。

「すごく嫌い」

私はショックで青ざめた。
それは会話の中での、私の発言が「嫌い」といったのか、私のことが「嫌い」といったのかは、今となってはわからない。
ショックのあまり、確認することができなかったからだ。

いずれにしても、彼女から「嫌い」という言葉が、私に向けられたことだけは事実だった。
どういう文脈だったのかはともかく、「嫌い」という言葉が発せられたことは「拒絶」の意図があるのだろうと解釈した。

それ以来、私は彼女に話しかけることはもとより、近づくことも、顔を見ることもできなくなった。
彼女の姿を遠くから見ることはあった。

しかし、彼女を見るたびに、彼女の頭上に「すごく嫌い」という言葉が浮かんだ。
それが辛かった。

私は彼女の顔が見られなくなった。
彼女を見ると、「すごく嫌い」という言葉が襲ってくる。
私の自尊心はズタズタにされる。

私は彼女を避けるようになった。
彼女は、私が急に避けるようになって、不思議に思ったかもしれない。
おそらく、彼女はなぜそうなったのか、気がついていない。

いや、それすらも、私の妄想でしかない。
気がついていない……と、思い込みたいだけだったのだ。

事実上、振られた(^^;)。
まだ好きだともいってないし、つきあいなんてしていなかったが、親しくなる前に振られた……と、思った。

しかし、それでもなお、好きだった。
振られても好きな人……だったのだ。

片思いは、出口を完全にふさがれた。

彼女を「好き」だという想いを、どうにかしないといけない。

方法は3つ。
●好きという想いを捨てる。
●彼女のことは忘れる。
●彼女への想いを封印する。

しかしながら、どれも難しい。
そんなに簡単に処理できるのなら、恋する気持ちが希薄だったということになる。想いが強いほどに、後始末ができなくなってしまう。
悶々と悩む日々が続いた。

いっそのこと、彼女から物理的にも離れてしまった方が、忘れることはできたかもしれない。
避けてはいても、同じ会社にいれば、見える距離にいることになる。
見えてはいても、彼女は別世界の人だった。
姿は見える。声も聞こえる。

でも、話しかけることも、触れることもできない。
彼女はゴースト(幽霊)のような存在になった。
分厚いガラスの壁に仕切られた、向こう側の人。

好きだけれども、手も足も出せない。
私は彼女への想いで、押しつぶされそうだった。
夜、寝るときに、彼女のことを想うと、堂々巡りの考えで眠れなくなった。

この気持ちを、なんとかしないと……。
しかし、解決方法はない。
唯一の解決方法……出口は、彼女に想いが伝わることだからだ。

それでも、この辛さを和らげる術が必要だった。
それで辿り着いた方法は……

●彼女への想いを「切り離す」

ということだった。
捨てるのでなく、忘れるのでもなく、封印するのでもない。
「切り離す」ことで、脇に置くのだ。

「好き」という想いを、一時的に切り離し、心の中から取りだし、脇に置いておく。
捨てられない想いだし、大切な想いだから、消すことはできない。

だが、ちょっと脇に置いておくことはできる。
気になったら、いつでも取り出せるし、想いはそこにある。

コンピュータに例えれば、内部のハードディスクに保存するのではなく、USBメモリに保存して、カバンの中に入れておくようなものだ。普段はアクセスできないが、必要なときには取り出せる。

「恋する気持ちを切り離す」という、心の整理方法に辿り着いて、ずいぶん楽になった。
「オレの気持ちは、今はこっちにあるから」と思うことで、圧迫感が薄れた。
根本的な解決にはならないが、眠れない夜に苦しむことはなくなった。

恋は成就すればハッピーだが、片思いや失恋は、あとあとまで尾を引く。
その気持ちの整理は、時間が解決してくれる場合もあるが、その真っ最中には苦しく、悩ましいものだ。
そんなとき、「恋する気持ちを切り離す」というのは、ひとつの方法ではないかと思う。

諌山 裕

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