中古車と「合成の誤謬(ごびゅう)」の関係

He says that if everyone thinks that “used cars are good enough.” …… the economy will get worse and worse.

「中古車で十分」……誰もがそう思ってしまうと、経済がますます悪化してしまうという。
「風が吹けば桶屋が儲かる」の逆で、「風が吹かないと桶屋がつぶれる」みたいな話。

池田直渡「週刊モータージャーナル」:「中古車で十分」の先に起こる日本の不幸化 (1/4) – ITmedia ビジネスオンライン

 「新車なんて買えない。中古車で十分だ」

それは、日々生きていく中で、高いリアリティを持つ言葉だと思う。正直な話、筆者も個人的に同感なのだ。中古車で十分。というより、それがベターな選択肢だと思う。何よりもない袖は振れない。選択肢がないのだから仕方がない。

(中略)

しかし、実態としてその成功率がどんなものかと言えば、起業1年後の生存率が40%。5年後は15%。10年後は6%。20年後になるとわずか0.3%に過ぎないと言われている。実はこの数字、国税庁の2005年調査だということであちこちで引用されているが、元ソースがどうやっても見つからない。筆者も散々探したが、同じように困っている人が見つかるのみだ。

記事の筆者がソースを辿れなかったという「企業生存率」の数字だが、引用されているブログ等を辿ると、広く引用されるようになったのは以下の記事が2次ソースになっているようだ。

【図解】人生の大問題:あなたの人生にかかわる衝撃的事実リスト【お金と資産運用編】 – ITmedia エンタープライズ

 国税庁(2005年調べ)によれば、日本の全法人数約255万社のうち、設立5年で約85%の企業が消え、10年以上存続できる企業は6.3%。設立20年続く会社は0.3%だそうです。

この記事が、2012年01月06日付。
ここに出ているのは、書籍の「人生の大問題を図解する! 永田 豊志 (著)」(2011年12月刊)からの引用となっている。この書籍のデータそのものも、どこかからの引用のようだ。
もっと古い引用を辿ると……

2008年01月15日のアーカイブ | ディマージシェア 大内慎の社長ブログ

国税庁(2005年)によれば日本の全法人数約255万社の内、
設立5年で約85%の企業が消え、
10年以上存続出来る企業は、6.3%になるそうです。。。

こちらの記事は、2008年01月15日付で、現在調べられる限りでは、もっとも古そう。
大内氏のブログと、冒頭記事の池田氏の記事とでは、10年後の数字が微妙に違う。他のブログで、別の引用元へのリンクもあったが、すでにサーバーが存在していなかったりする。
引用を繰り返しているうちに、内容が脱落したり数字が変わったりしていると思われる。
国税庁にそのようなデータが見当たらないことから、すでに削除されたか、最初に引用した人が間違ったのか、データを読み違えたのか……ちょっとしたミステリーだね。

別のデータでこんなのもある。調査年は同じ2005年だが、製造業に限定したデータ。

第2節 事業の存続・倒産と再生

第1-2-22図 開業後の経過年数と事業所の生存率
~バブル崩壊以降低下してきた生存率も、2002年を底に上昇する兆しも見られる~

事業の存続・倒産と再生

ちなみに、最新版(2015年)の「中小企業白書」では、企業生存率についてのデータはなかった。

一言に法人といってもピンキリで、個人商店でも法人化しているところもあるし、従業員が数百人~数万人の企業もある。「起業1年後の生存率が40%」というのも、従業員が5人以下のような零細法人であればありうるかもしれない。
ひところブーム的な現象となったベンチャー企業は、2000年前後にたくさん出現していたので、調査年が2005年であれば、ベンチャー企業ブームの影響で潰れた法人が多かったとも想像できる。
ここ最近は起業の件数がそれほど多くないと思われるので、生存率は上がっているようにも思う。

池田直渡「週刊モータージャーナル」:「中古車で十分」の先に起こる日本の不幸化 (2/4) – ITmedia ビジネスオンライン

 さて、節約は堅実な戦法であるとして、皆でやるとどうなるだろうか? 経済の世界には「合成の誤謬(ごうせいのごびゅう)」という言葉がある。部分の最適化が全体最適と相容れないケースの話だ。

(中略)

財の生産装置としての自動車メーカーを健全に維持していくためにはコンスタントな需要があることが理想なのだ。働いている人だって「来年給料を倍払うから今年は無給で働いてくれ」と言われたら干上がってしまう。企業も同じだ。

合成の誤謬(ごうせいのごびゅう)」という言葉は知らなかった。勉強になるなー。
似たような記事があった。

お店が無くなる理由|ワイングラスのむこう側|林伸次|cakes(ケイクス)

「老舗の○○がついに閉店」とかいう報道があると、必ずツイッターやフェイスブックで「え? すごく残念! あの名店がなくなるなんて!」なんて言う人が出てくるんですね。

そういう人たちを見ると、「それはあなたがそのお店に行かないからです」といつも伝えたくなります。本当にそのお店が魅力的なお店で、みんなが普通に利用していたら、そのお店は閉店するはずがないんです。

これも合成の誤謬の一例なんだろう。一度だけ行って、リピートしなければ客足は減るばかり。
うちの近所でも、飲食店は入れ替わりが早い。新しい店ができると、たいてい一度は足を運ぶ。満足感の得られる料理であれば、リピーターとして何度も行くが、可もなく不可もなくだと二度目はない。
一度目に食べに行ったとき、
「この店、1年、もたないな」
と直感することがある。リピートしたいと思えない味だったからだ。そういう店は、案の定、長続きしない。
飲食店は固定客がつかないと難しいね。

自動車に関していえば、売りっぱなしで終わる販売方法に問題があるように思う。
製造者から消費者への一方通行だけで終わっているため、常に新車を売らないといけない。高価な買い物である自動車は、そうそう何度も買い換えられるものでもない。地方では「足」としての車は必需品だが、「足」になれば中古車でもいいわけで、新車である必然性は乏しい。
中古車が流通していても、自動車メーカーには1銭も入らないわけで、機会損失をしていることになる。
新車でも中古車でも、自動車メーカーに継続的な利益が出るようなエコシステムを作る必要があるのではないか?

たとえば、Apple。
iMacやiPhoneのハードは売りっぱなしだが、App StoreやiTunes Storeでアプリや音楽などを売ることで継続的な利益を生んでいる。iMacやiPhoneを中古で買っても、アプリストアでAppleには収益がもたらされる。じつにいいシステムだ。ハードを売るだけのPCメーカーだったら、Appleは生き残っていなかったと思う。

ひとつの方法としては、自動車をデバイスと考え、そこを起点としたサービスを提供するエコシステムを構築する。中古車として売られても、メーカーからのサービスを受けられるような契約を用意すればいい。どういうサービスが可能なのかは、メーカーが考えて欲しい(^_^)。
いっそのこと、販売ではなくリース中心でもいいのでは?
車をキャッシュで買う人は少ないと思うが、ローンを組むにしてもけっこうな負担だ。現在でもリースはあるのだが、ファイナンス会社が主導しているケースが多く、メーカーが積極的に取り組んでいるところは少ない。そのリース料は、ローンよりも多少は安くはなるが、格段に安いわけでもない。
このリースとメーカーならではのサービスを合わせれば、既存のリース会社との差別化もできる。
飛行機に乗るとマイルが貯まるが、車も走れば走るだけマイルのようなポイントが貯まって、メーカーサービスやなにかの商品と交換できるとか、そういうのがあってもいいのでは?
車を売るだけのビジネスは、そろそろ限界だと思うよ。

近い将来の車の技術といえば、「自動運転」だ。
この分野では、自動車メーカーではなくGoogleが数歩先を行っている。自動運転のソフトウエアをGoogleが自動車メーカーに提供するとなると、Googleは車を売らなくても車で収益を上げられることになる。中古車でも自動運転のためのアタッチメントをつけることで、自動運転が可能になれば、中古車でもGoogleは収益を見込める。
Googleのことだから、ただ単に自動運転させるのではなく、車を媒体として付加価値のあるサービスを提供するのだろう。
スマホの次に来るデバイスとして、メガネ型、腕時計型、指輪型などのウェアラブルデバイスが話題になったりするが、どれも決め手を欠いている。
身につけられるものとして、小さなものをデバイス化しようとしているのだが、逆に大きなものとして車はアリかもね。
スマートカーだから、「スマカ」とでもいわれるのだろうか。
近未来の自動車を革新するのは、Googleなのかもしれない。

諌山 裕