「気候変動サミット」で各国が削減目標を表明した。
がしかし、その目標はあくまで目標であって、達成できなかったとしてもペナルティがあるわけではない。
掲げた数字は、ただの数字であって、飾りでしかない。

温暖化対策、米中は「やってるフリ」だけ…各国が足並みを揃えたくない裏事情(長谷川 幸洋) | 現代ビジネス | 講談社(1/6)

菅首相は4月22日、オンラインで開かれた「気候変動サミット」で温室効果ガスの削減目標を「2030年度に13年度比で46%削減する」と表明した。従来目標の26%減から大幅な引き上げだ。19年度までに14%減を達成したので、あと10年で残りの32%を減らす必要がある。

(中略)

2030年の温室効果ガスの削減目標について、米国は「2005年比で50〜52%削減」と言った。欧州連合(EU)は「1990年比で55%以上」、中国は「2005年比で国内総生産(GDP)比で65%以上」である。日本は冒頭に書いたように「2013年度比で30年度に46%」である。

削減度を測る基準年(日本は年度)がバラバラであるだけでなく、中国に至ってはGDP比で示している。これでは、各国の比較が直ちにできない。なぜ、こんな簡単な前提すら統一できないのか。

それは、各国が暗黙のうちに「互いに比較できないようにしよう」と合意しているからにほかならない。言ってみれば「オレも地球温暖化には貢献するよ。ただし、他国と比較されるのはゴメンだ。オレはオレの都合でやるからね」という話なのだ。

(中略)

これらが示すように、原発反対の左派はジレンマに陥っている。地球温暖化の抑制には賛成だが、原発再稼働には反対なのだ。これは世界の左派勢力が直面しているジレンマでもある。彼らは環境重視をアピールしたいが、といって、だからこそ原発には反対せざるを得ず、出口が見えなくなっている。

ひとつだけ確かなことは、2030年あるいは2050年になったとき、菅首相もバイデン大統領も、その職には就いておらず、亡くなっている可能性もある。
つまり、責任を取る立場にいない未来のことだから、大盛りの約束をして守れなくても責められることがない。だから、なんとでもいえる。

結局のところ、環境問題や温暖化対策は、政治的な駆け引きであり、経済的な利権争いになってしまっている。脱炭素も儲けが出ないのなら、誰もやろうとは思わない。ビジネスチャンスがそこにあると見る企業や投資家がいるから、先取りで動きはじめている。
国がなんらかの規制をかけると、不利になる企業がある一方で、有利になる企業がある。企業は得をする側に回るための策を練るというわけだ。

二酸化炭素の削減のために原発を稼働させるというのは、詭弁なんだよね。
それは言い方を変えると、「二酸化炭素よりも放射性廃棄物の方がマシ」といってることになる。
なぜなら、放射性廃棄物は削減対象になっていないからだ。

放射性廃棄物は、高レベル放射性廃棄物が年間約1000トン、低レベル放射性廃棄物がドラム缶の数にして年間1500〜1800本(2017〜2019年)が出ている。
原発事故以前(2011年以前)は、低レベル放射性廃棄物が年間2万本以上が出ていた。
含まれる放射性物質の半減期は、長いもので10万年。10万年も保管・管理しないといけないのは無視しているというか、不可能である。

温暖化問題は未来の世代の問題とされるが、それをいうなら放射性廃棄物の方が、もっと深刻なはずだ。しかし、いまだ処理方法すら確定していない放射性廃棄物は、棚上げの処分保留状態で溜めこんでいるだけ。
老朽化した原発を再稼働しているため、第二、第三の原発事故はいずれ起きると予想される。福島の原発事故の教訓は生かされず、原発災害が繰り返される。

そのとき、「脱炭素のために原発は必要だった」と言い訳するのだろうか?
「二酸化炭素よりも放射性廃棄物の方がマシ」の選択が、正しかったのかどうかが問われる。

温暖化問題で付録のように登場するのが、環境少女のグレタ・トゥーンベリさん。

環境活動家のグレタ・トゥーンベリ、アースデイにアメリカ議会でスピーチ「今すぐ化石燃料から脱却を」| カルチャー | ELLE [エル デジタル]

グレタは「私はここで、なぜ実質的で劇的な変化を起こし現在利用可能な最先端の科学に沿って二酸化炭素排出量を劇的に減らす必要があるのかを説明するつもりはない。今は2021年だ。私たちがまだこんな議論をしているという事実、納税者の金を使って化石燃料を直接的、間接的に助成しているという事実は恥ずべきものだ」と厳しく批判した。
※誤字は訂正

極左ともいえるグレタさんだが、彼女の要求通りをことをすれば、多くの企業が倒産し、多くの失業者が生じる。失業者の増加は社会不安を招き、暴動や反乱の火種になる。それでも二酸化炭素削減の方が重要というのであれば、そのために死ぬ人が出てもかまわないという理屈になる。この場合、経済的あるいは社会的に弱者の人々が犠牲になる。

徹底した脱炭素で多くの死者が出ることを許容できるかどうか。
グレタさんは許容する立場なのだろう。
若者世代が彼女を支持するのなら、弱者切り捨てに賛同するかどうか。

脱炭素の理想を実行しつつ、経済的・社会的な弱者を救うことが可能であればいいが、両立は難しいと思う。

グレタさんはWHOに寄付をしているそうだが……

グレタさん、WHOに1300万円寄付 ワクチン支援 [新型コロナウイルス]:朝日新聞デジタル

 世界保健機関(WHO)は19日、新型コロナウイルスワクチンを共同調達して低中所得国などに供給する仕組み「COVAX(コバックス)ファシリティー」支援のため、スウェーデンの環境活動家グレタ・トゥンベリさんの名を冠した財団から、10万ユーロ(約1300万円)の寄付を受けたことを会見で公表した。

その行動は称賛するが、脱炭素で失業する人たちをグレタさんの財団で救えるわけでもないし、そのつもりもないだろう。おそらく、化石燃料を使う企業は罪人であり、そこで働く人も同罪という考えなのではと想像する。彼女のこれまでのロジックだとそうなるように思う。

もし、脱炭素最優先で弱者切り捨てという社会が来るとすれば、それは現在のコロナ禍の再現になる。
つまり、感染拡大を抑制することを最優先にしたため、飲食業や観光業などの倒産を加速させ、経済的弱者がより厳しい状況に追い込まれ、貧困や自殺者が増えている。
脱炭素最優先でも、同じようなことが起こりうる。
その負の痛みはやむをえないと目をつぶるか。コロナ禍では目をつぶっている。

はっきりしていることは、「全員は救えない」ということ。
急激な脱炭素社会への変化で犠牲になる人は必ず出てくる。
どこかで線引きをする必要性に迫られる。
グレタさんや彼女を支持する人たちに、その生死を分ける線引きの覚悟はあるのかどうか。
ある意味、神の裁定だ。

環境問題の根本的な原因は、人口が多すぎること。
増え続ける世界人口が、温暖化問題だけでなく、食糧危機、水不足危機、プラスチック汚染問題などを引き起こしている。
人類は地球の適正人口を超えてしまった。人口を減らすことを考えないと、いずれ自滅する。

温暖化問題での基準年として、産業革命以前がよく持ち出される。
1750年の人口をひとつの目安とするなら……

1750年の推計世界人口は、6億2900万~9億6100万人とされているので、中を取って7億5000万人とする。
2020年の世界人口は約78億人。
ということは、約10倍になっているわけだ。
1750年に戻すということは、人口を10分の1にすることを意味する。
あらゆる環境破壊要素を10分の1にするのは、至難の業。
ひとり当たりのエネルギー消費量が変わらないと仮定すると、人口が10分の1になれば、世界のエネルギー消費量は10分の1になる。単純な話。

グレタさんの理想を実現するのに、もっとも効果的な方法は、人口削減なんだ。
そのためには、積極的な少子化を進める必要がある。
経済成長のためには人口増加が必要だとされてきた。労働者と消費者が増えないと、経済成長は持続しないからだ。

日本は人口減少に転じているが、人口減少で社会を維持するための新しいシステムを構築しないといけない。それは、これまでの経済的自由主義あるいは市場経済といったシステムとは、違うシステムだ。経済に依拠したシステムは、いずれは破綻する。無限の経済成長などありえないからだ。

新しい社会システムの革命が起きないと、人口削減社会はうまく機能しないだろう。
それは人類文明が持続可能な未来へのパラダイムシフトでもある。

2050年は、私も生きていない(^_^)b
世界がどうなっているかは、若い世代に見届けて欲しいと思う。

諌山 裕

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