人は「自分は平均より優れている」という「優越の錯覚」があるそうだ。
心理学の分野の話だったが、その原因が脳の中の仕組みにあることが発見されたというニュース。
これはなかなか興味深い。
時事ドットコム:「自分は優秀」錯覚の仕組み解明=抑うつ症状の診断に期待-放医研など
心理学では、人には「自分は平均より優れている」という思い込み(優越の錯覚)があることが知られているが、この錯覚が脳内の異なる部位の連携の強弱や、神経伝達物質に影響されることが25日までに、放射線医学総合研究所などの研究で分かった。
このニュース、Yahoo!のトップページにもピックアップされていたが、内容としてはきわめて専門的でマイナーな科学記事だ。
「優越の錯覚」という言葉が、好奇心をそそったのかもしれない。
この記事の元となっている研究成果の概要が以下にある。
共同発表:「自分は平均より優れている」と思う心の錯覚はなぜ生じるのか—脳内の生物学的仕組みを世界で初めて発見—
古くギリシャソクラテスの時代から現代に至るまで、哲学、心理学、人類学、医療分野など、多くの学問領域が優越の錯覚の存在に注目してきました。誰もが一般に持つ言語や記憶などの能力が脳内に埋め込まれているのと同様に、「自分は平均より優れている」と思う錯覚も人間に特徴的な思考の1つであり、その背景には必ず生物学的基盤があるはずです。しかし、これまでその脳内機序は明らかにされていません。
(中略)
錯覚の程度には個人差があったものの、多くの人が、自分は平均より約22%優れていると自己認識する傾向にありました。
自分は他者よりも優れている……と思いたい心理はわかる。この逆が、人よりも劣っていると思うコンプレックスだが、劣等感と優越感は表裏一体だ。
この研究では、うつ病の診断や治療に活かせるとしている。
優越感が強すぎると、他者を劣っていると見下す行動や発言をする。平たくいえば「人をバカにする心理」だ。
おそらく、そういう人は、「線条体のドーパミン受容体密度が異様に高く、線条体と前頭葉の機能的結合の著しく強化されている」ということになる。
そういう場面にはよく出くわす。
たとえば、ヤフコメ(Yahoo!ニュースのコメント欄)は、バカにした発言や侮辱発言のオンパレード。一種のガス抜き、ストレス発散なのかもしれないが、バカにしている人は、自分の方が優越だと思っていても、他者から見るとそうは見えない。そのことに当人が気がつかないところが「優越の錯覚」なのだろう。
心理学や脳科学の観点から見ると、ヤフコメのようなサンプルは面白い研究対象になる気がする。
「人をバカにする心理」という検索をしてみると、いくつか興味深いページが出てきた。
カウンセリングサービス■心理学講座「誰かをバカにするときの心理」
ほとんどの場合、誰かに対して抱いている気持ちや取っている行動というのは、実は自分自身に対する気持ちや行動なのです。
人に対して優しい気持ちを抱いているときは、自分に対しても優しい気持ちで接しています。逆に、人に対してネガティブな気持ちを抱いているときは、自分自身に対してもネガティブな気持ちを抱いています。
この法則を当てはめると、先の3例全てがそうなのですが、人をバカにしている時には、自分自身を心のどこかでバカにしている事になりますね。
下線部分が言い得て妙。
人をバカにしているつもりが、じつは自分のバカさ加減も露呈しているという心理。
gooの質問コーナーに、一般の人からのこんなコメントも。
人を馬鹿にする・コケにする人の心理。 – その他(恋愛・人生相談) – 教えて!goo
(1)先天的なサド体質(サイコパスともいう)
(2)今の自分に満足していなくて不満だらけ 目的も楽しみも持てないタイプ
(3)成功していようがいまいが、
無意識の中で内面的に凄まじいコンプレックスがある
3つが大体当てはまるのでは と思います。
これも、なかなかうなずける。
人をバカにするのは、自分の優越性を誇示したい心理であり、そのために相手を見下す。見下すというのは、ある評価基準が個々の心の中にあって、それよりも相手は下だと判断する思考だ。
その評価基準のベースとなっている部分は、自分の価値観であり、優越感や劣等感を感じるかどうかの境界線でもある。「自分よりも下だ」と判定すると、相手をバカにするとことで、自分の優越感を満足させたり、劣等感を払拭できる……ような気がするのだろう。
一部のテレビのコメンテーターや政治家が、ときどきバカ発言をすることがあるが、短絡的に「バカ」というのが簡単なために、ついつい口走ってしまうのだろう。感情を抑えきれなくていってしまうようだが、冷静さを欠いていると同時に浅はかであることを露呈しているようなもの。その心理の根底にも、優越の錯覚があるように思う。
論理には論理で、議論の場合には論破するだけの説得力のある発言をしないと、逆にバカにされてしまう。
Twitterで炎上が発生するとき、「バカ発見器」ともいわれるが、そういう場合はたいていバカにした発言であることが多い。
優越の錯覚を発動した結果、墓穴を掘って火の車になってしまう。気軽さや匿名性(有名人を除く)があることで、普段よりも優越性を誇示したくなる心理が働くようだ。
ベストセラーの本に「バカの壁 (新潮新書) 」というのがあった。
「人間同士が理解しあうというのは根本的には不可能である。理解できない相手を、人は互いにバカだと思う」
というのが要点だとか。
コミュニケーションや議論をするときに、「バカ」といってしまったら、もはや相互理解や議論はできなくなってしまう。
とどめの一言というか、思考停止の意思表示だ。極端な場合には、暴力で決着をつけることにもなる。
いじめやハラスメントも、優越の錯覚に起因するのだろう。
ただ、現実の人間関係では、錯覚だけではなく実質的な優劣や上下関係があるため、「優越の確信」となって弱者を攻撃することになる。
脳機能によって優越の錯覚がコントロールされているとしたら、優越の確信もドーパミンを抑制する薬(逆の作用をするセロトニンなど)でコントロールできる……かもしれない。極論すると、いじめやハラスメントをする人は、脳の機能障害という見かたもでき、薬で治療できる可能性もあるように思う。
人をバカにすることは自分もバカだといってるのに等しい……と、自戒を込めて、発言には気をつけたいものだ。
優越の錯覚に陥るのも、劣等感に苛まされるのも困ったものだから、「私は並みだ」と思うようにしよう。