『人類、宇宙に住む』は、今世紀中は無理っぽい

「宇宙はロマンだ」
それには同意するが、手が届くロマンか、手が届かないロマンか、の違いがある。
私は根っからのSFファンで科学ファンだと自認しているが、宇宙に対するロマンについては、近い将来に実現可能なロマンと、遠い未来でないと実現できないロマンとは区別する。

以下の記事は書評なのだが、気になった記述があったので取り上げる。

多惑星種族を目指すシナリオ『人類、宇宙に住む』(秋山文野) – 個人 – Yahoo!ニュース

小型衛星打ち上げロケットを開発して、超小型衛星の打ち上げマーケットに参入する日本の宇宙ベンチャー……そのように紹介されることがあるISTだが、社名には彼らの遠大な目標が込められている。Interstellarは天文用語で「星間の」。星を渡る、恒星間航行の手段獲得を目指そうというのがISTの志だ。

(中略)

イーロン・マスクは、火星移住のビジョンを打ち出しており、本人もいずれは火星へ赴く希望を明言していることが本書で紹介されている。小惑星衝突など何らかのの宇宙規模の災害により、「地球以外」を選択肢としなければ人類は生き延びられないということが「人類、宇宙に住む」前提なのだ。

余計なツッコミだと思うが……

Interstellarは天文用語で「星間の」。星を渡る、恒星間航行の手段獲得を目指そうというのがISTの志だ。

Interstellarは形容詞で、「恒星間」と訳されることが多いが、「星と星の間の〜、惑星間の〜」という意味もある。星と星の間……つまり、宇宙空間のことと考えた方がいい。
stellarは、「星の〜」という広義の意味の形容詞なので、惑星も衛星も恒星もその中に含まれる。

ISTが恒星間航行を目指しているって、ほんと? それともジョーク?
堀江氏が、その発言をしたのだろうか?
出典がよくわからないのだが……

ホリエモンがJAXA津田氏と熱弁した宇宙探査 —— 「ロケットが鳥人間コンテスト並みの安さになれば」 | BUSINESS INSIDER JAPAN

津田氏からは、ロケット企業「インターステラテクノロジズ」の名称に言及。「はやぶさ2のような惑星間(インタープラネトリー)を越えて、恒星間(インターステラー)飛行を名前にされている。凄みを感じます」と目標の高さに期待を寄せる発言があった。

……といった記事は出てきたが、これは堀江氏本人が言及したわけじゃないよね。

宇宙を指す言葉として「スペース」がある。
で、「スペースX」社がすでにあるから、宇宙の別の言い回しとして「インターステラ」にしたのでは?……と勝手に想像する(^_^)。

「地球以外」を選択肢としなければ人類は生き延びられない

SFとしてはよくあるアイデアなのだが、現実的には難しい。

SFアニメの「ガンダム」でも、スペースコロニーに移住した人々という設定になっていた。
物語的には面白いのだけど、数万人〜数百万人規模の人々が生活できる人工環境は、システムを造ること自体が相当に困難だ。
技術的なことはもとより、コストの問題が一番のネックだろう。
誰が、そんな巨額な投資をして、どうやって利益を出すのか?

地球が住めなくなる状況とは、どんな状況なのか?
恐竜を絶滅させた小惑星規模の衝突が、再び起こったとしても、地球が全滅するわけではない。生き残ったほ乳類がいたから、人類へと進化できた。

温暖化で深刻な環境破壊が起こったとしても、生きられる場所は残る。地球がまるごと沸騰するわけではないのだ。スペースコロニーを建設したり、火星をテラフォーミングする技術的な難しさや、膨大なコストと住めるようになるまでの年月を考えたら、地球で生きていく方法を考える方が簡単だろう。

無理して宇宙に脱出するよりも、地球上で生きられる場所と方法を探した方がいい。

ミチオ・カク氏は、科学番組の解説者としてよく出てくる人で、日系アメリカ人の理論物理学者。わりとSF的な飛躍した話をするのが好きな人だと思う。未来予想的な話では、かなり楽観的な未来を語る人だね。

故カール・セーガンもそうだったが、宇宙を夢見る科学者は、いずれ科学がすべてを解決して、人類は星々の世界に進出する……とロマンを語る。
私も、そんなロマンに魅せられたひとりではある。

しかし同時に、現在の科学レベルでは、恒星間の旅は到底辿り着けないとも理解している。
たしかに、不可能ではない。
可能になるのは、数百年後の遠い未来であり、今世紀中の話ではない。

地球 − 火星の惑星間であっても、現在の化学燃料ロケットで人間が行くには、かなり無理がある。手こぎボートで太平洋を横断するよりも、火星まで化学燃料ロケットで行く方がはるかに難しい。
根本的に、宇宙船のエンジンが非力なのだ。

理論的には、核パルスエンジンとか、核融合エンジンとか、反物質エンジンとか、推進力の大きなエンジンのアイデアはある。
だが、そんなエンジンを造る技術は、まだない。
核融合は、いまだ実験レベルであり、自在に扱えるしろものではない。まして、宇宙船に積めるような大きさのエンジンにする技術は、未知の技術だ。

太陽系内であれば、核融合エンジン(1Gの加速と減速)があれば移動時間は数日〜数週間に短縮できるだろうが、恒星間となるとまだまだ非力だ。
そもそも化学燃料ロケットと核融合エンジンの違いは、燃料としてなにを爆発(燃焼)させるかだ。推進力として、宇宙船を飛ばすのに高速で噴射するだけ。これにはおのずと物理的限界がある。

恒星間を実用的に飛行するためには、噴射式推進方法ではない、時空を跳躍するワープ航法のような遠未来技術が必要だ。
ワープ航法を発明しないと、恒星間の自由な旅はできないだろうし、惑星連合にも加盟できない(^_^)。

月に人間を送る計画が再開され、月基地の建設も計画としてはある。月を足がかりにして、次は火星に……というロードマップではあるが、はたして計画倒れにならずに月基地はできるだろうか?
ISSの存続すら危ぶまれている状況を見ると、月基地を造るメリットがどれだけあるのかは疑問。知的好奇心、あるいはフロンティアスピリットだけで建設し、維持できるものでもないだろう。

見返りはあるのか?
月基地にしても、火星への人類到達にしても、見返りになにがあるか?……だと思う。
国家の威信なのか、夢の実現なのか、ビジネスとしての収益なのか、それとも資源や領土の確保なのか。

宇宙はロマンだけど、ロマンだけで数兆〜数百兆円の資金を注げるわけじゃないからね。
そこが悲しい現実。

諌山 裕

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