デジタルコンテンツを、誰もが作って発表できるようになった。
そうした人々を「クリエイター」と呼ぶのかどうかは、議論の分かれるところだが、作る人と楽しむ人が共存していることだけは確か。
プロのアマの境界線は、その作品で食えるかどうかの違いではあるが、もうひとつ、作品のクオリティも「プロ」かどうかの違いだったのは、昔の話になった。
趣味で作ったものが、プロ並みのレベルだったり、フリーのソフトでありながら多くのユーザーに利用されているものもある。
ネットの世界は、プロ・アマを問わず、玉石混淆の状態だ。
そんな中から、コンテンツを拾い上げて収益に結びつけようとしている企業もある。
無料が主流のネットの中から、収益を上げようとしているネット企業は、苦戦しているところも多い。
ネット発のコンテンツで大きな収益に結びついた例はいくつかあるが、その総数から見ればわずかな成功例だろう。
そんなコンテンツに関する記事。
小寺信良の現象試考:「一億総クリエイター」という勘違いに至る道のり (3/3) – ITmedia +D LifeStyle
筆者の考えでは、成果物だけ抜き出して商業コンテンツ化する、すなわち旧来のメディアにパッケージングして大量販売を行なうというビジネスモデル自体が、古くさい方法に向かっての逆行ではないかという気がする。それをやりたいのは流通者だけで、本人たちは積極的にそれを望んでいないのだから、これはもう仕方がない。もし無理にやるとしたら、ある意味ネット権が構想したような、著作権を強制的に許諾権から報酬請求権に転換するような事でもしなければ、難しいということになる。
そもそも商業物としてのクオリティを持ち、権利処理が可能なUser Generated Contentは、数としてはものすごく少ないのではないかと思う。ニコニコモンズでUGMとしての実験が始まっており、筆者もいくつか素材を提供して状況を観察しているが、全くのアマチュアが模倣でも内輪受けではない、独立したコンテンツにたどり着くまでは、嘆息するほど相当に遠い道のりであるように思える。一億総クリエイターなどは、ただの幻想である。
まったく同感だ。
ネットの環境というか、現状のシステムは膨大なコンテンツや膨大なユーザーから、効率的に収益を上げるシステムになっていない。
収益とは、つまりお金の流れだ。
対面販売であれば、実物の貨幣そのものをやりとりできるが、ネット上では金銭もデジタル情報になる。多くはクレジットカードや電子マネーといった、間接的なお金の流れになるが、間に仲介業者が入ることで、処理が複雑になってしまう。
特に問題なのは、少額決済に向かないことだろう。ここでいう少額とは、数円~1円以下の金額を回収することだ。
パッケージ化されたコンテンツは、数百円~数万円の値段で販売されるが、そのくらいまとまった金額であれば、現状の決済方法でも対応できる。手数料を取られるとしても数百円くらいだから、まぁ妥協の範囲だ。
しかし、ネット上のコンテンツの多くは、パッケージ化できないものも多い。数分の動画や1枚のイラスト、あるいは数ページの読み物などだ。それらのコンテンツが、多くの人に見られていても、コンテンツそのものから収益を上げることは難しい。間接的に広告を掲載することで、収益に結びつけようとするが、それだけではなかなか収益が上がらない。
ニコニコ動画がいまだに赤字なのは、たくさんのコンテンツや多くのユーザー、億単位のPVがあっても、その数字が利益を生まないからだ。
関連した記事を以下に。
「得体の知れないものになった」――「pixiv」急成長、社名も「ピクシブ」に – ITmedia News
昨年9月のオープンから約1年で、月間ページビュー3億、会員数30万を突破した。今年3月に10万ユーザーを突破した時は「ネットの世界にこんなにイラストがあるのか」と驚いていたが、半年でさらに3倍に増えた。
(中略)
pixivの1カ月の売り上げは300万円ほど。バナー広告や企業の協賛を受けた「公式企画」などが収入源だが、運営費をまかない切れず、赤字が続いているという。「300万円じゃ全然無理。1000万円くらいあるといいんだが……。いいサイトにしていきたいので、開発費くらいは稼ぎたい」(片桐社長)
PVが3億あっても、利益が300万円とは、あまりに利益率が低い。
目の粗いザルで砂金をすくっているようなものだ。大部分がこぼれてしまっている。
それは3億のPVから、1銭も回収できないのが原因だ。仮に1PVで0.01円でも回収できれば、300万円の収益だ。PVが上がるほどに収益も上がるが、その0.01円を回収する手段がない。いまだ、そのビジネスモデルは確立できないでいるからだ。
0.01円を課金されても、ユーザーはほとんど負担にはならないだろう。100ページ見ても1円なのだから。
サービスは無料で、広告費で運営するという旧来からの手法は、デジタルコンテンツ時代には不向きだろう。
ユーザー数やPV数が、収益に直結するビジネスモデルを確立しないと、不景気になって広告主がいなくなればサービスは存続できなくなる。
また、1億総クリエイターが幻想であるとしても、多数のクリエイターがパッケージ化できないコンテンツでも、収益を上げられるとしたら、それで食える人たちも多く出てくるのではないだろうか?
自分の作品を自分で配信して、自分の収入にもなる。それが容易になれば、ネット発のコンテンツも様変わりするように思う。現状でも、そうしたことは可能ではあるのだが、やはりある程度まとまったパッケージ化が必要で、少なくとも数百円以上でないと決済はしにくい。
理論的・技術的にはそれほど難しいことではないと思うが、データとしての金額を実際のお金に置き換えるところで障害が生じる。
著作権団体が包括的な著作権料を課したり、CDやDVDのメディアに保証金を課したりするが、それで徴収されたお金は、著作権団体に登録している人にしか配分されない。
自分で作った作品をDVDに焼いても保証金は取られているわけだが、ほんのわずかとはいえ、その保証金は登録されていない著作者には配分されず、誰だかわからない著作権者の取り分になってしまう。
そういう意味では、現状の著作権団体のあり方は不透明であり、理不尽でもある。
著作権とビジネスのあり方、ネットでのコンテンツ課金のあり方、それらが時代に追いついていないのが現状だろう。
広告費に依存するコンテンツビジネスでは、限界が見えている。
コンテンツそのものから効率的に収益を上げるシステムを作り上げないと、いつまでたっても黒字にならない……ということにもなりかねないと思うのだが。