日本の人口減は自然の摂理かもしれない

将来の人口減社会についての記事なのだが……。
「深刻さがわかっていない」といいつつ、提言されている解決策で解決できるかどうかは、はなはだ疑問だ。

日本人は急速な人口減の深刻さをわかっていない | 国内経済 | 東洋経済オンライン | 社会をよくする経済ニュース

日本の人口は減少に転じてからは放物線を描くように人口減少が始まると予測されています。最初のうちは減少率が小さいのですが、徐々に加速がついて減少幅が大きくなる。とりあえずここまでの5年間が178万人減で、ここからの10年は1100万人減少というペースで減っていくわけで、やがて人口は半減し遠い将来には「日本人は消滅する」とまでまことしやかに言われているぐらいです。

(中略)

これが1つめのオプションである移民による国家再生論です。論理的にはありうる選択肢でありながら、日本の移民国家化は国民の間で反対論がとても多い。だから政府は公式には移民という言葉をいっさい使わず、外国人労働者のビザ条件の緩和というような別の言葉で政策を進めています。

その成果が先の国勢調査で出た外国人の人口約275万人という結果です。過去5年間で84万人、実に4割以上も増加していて、コロナ禍で停滞しているとはいえペースとしては2030年には500万人を超える勢いで在日外国人の人数は膨らんでいるわけです。

(中略)

さて日本の人口減少による社会沈没からの回避策として2つめに検討すべきはDX(デジタルトランスフォーメーション)です。

(中略)

2040年の集落には休耕地に太陽光パネルが設置され、農作業用の軽トラックや乗用車はすべて電気自動車となっていて発電と一体化した集落のエネルギーグリッドを形成しています。これら農村の電気自動車はロボタクシー網も形成しており、集落の住民はみなスマホでこれらの乗り物を共有し、運転手不在でも買い出しに出られるようになっています。

無人駅の近くに一軒だけある小さな病院は5Gネットワークで大都市の大病院とつながっていて、住民は地元の病院からネットワークを通じて遠隔医療を受けることができます。ドローンによる配達も普通に行われており、農村に住んでいても市町村の中心部からコンビニ弁当やウーバーイーツによる出前をドローンで取り寄せることが可能です。

農作業もDX化が進んでいて、日ごろの見回りはセンサーや監視カメラ、パトロール用のドローンが高齢化で不足する人手を代行してくれます。集落にはかつてはぽつぽつと空き家があったのですが、最近では大都市の企業でリモートワークをする社員と、遠隔授業を受けるその家族がそれらの家屋を借りて住むようになり、集落の人口減少には一定の歯止めがかかるようになっています。

この記事は、人口減少がなぜ起きているのか?……という原因についての考察が欠けている。その原因を考えないと、根本的な解決にはならない。

「少子化」が原因とされるが、少子化がなぜ起きているのかの説明は、因果関係が明確ではない。
経済的な問題が原因とする説明がよくされるが、それでは説得力が乏しい。子育てにかかる経済的負担が重荷になっている一面はあるが、日本がもっと貧しかった時代には、貧乏なのに子だくさんだったりした。避妊の意識がなかったために、できちゃったものは産むしかないという事情もあった。

少子化対策として、1人目、2人目、3人目の子供を産んだら、少額の手当てを出すという姑息なことをしたりするが……

児童手当、多子世帯に大幅加算を 自民少子化特別委: 日本経済新聞

児童手当は3歳から小学校終了までの児童の場合、1人につき月額1万円支給される。第3子以降は1万5000円に増額されるものの、多子世帯への加算は5000円にとどまる。

ないよりマシだが、月額1万円程度では効果は乏しい。よりお金がかかるのは中学生以上であり、大学までの教育費は無償にするくらいのことをしないと、将来的な不安は解消できない。

日本は世界に先駆けて人口減少に転じているが、これには別の理由がある。
それは人間の生物としての繁殖限界だ。

生物には、内的自然増加率密度効果アリー効果環境収容力というのがあるという。
これはある生物の生息環境での、増殖(繁殖)が個体群の数と環境によって制約を受けるという現象だ。

シミコクラゲをモデルとした研究レポートに以下の一節があった。

個体群動態入門: 1種の個体群動態

密度効果・環境収容力

生物が成長して子孫を残すためには、餌や生息場所、配偶相手などの資源を獲得しなければならない。しかし、資源は有限であり、質が大きく異なる資源もある。

個体数が少ないうちは、資源の獲得は容易であり、良い資源を選ぶことができるので、個体群の成長率は高いだろう。

一方、個体数が増えると個体群全体が資源不足になり、個体の成長速度や生存率、あるいは繁殖力 (産卵数) が低下して、個体群の成長率も低下していくことも予想される。個体群サイズがある個体数になると、成長率は0になり、個体数がさらに増えると成長率はマイナスとなるはずだ。これは、個体群を構成する個体の分布面積が、個体数に応じて大きく変化することがない、つまり個体数が増えるほど高密度となることも前提となっている。高密度になるほど成長率が低下する現象を密度効果という。

ただし、個体群の増殖率は低密度ほど高いとはかぎらない。あまりにも密度が低いと、配偶相手が見つからず子孫を残せないこともあるからだ。また、集団で生息することによって乾燥などのストレスを緩和したり、捕食者に対する防衛効果が得られることもある。このような状況では密度が高くなるほど増殖率が上がる。この現象はアリー効果とよばれる。

先ほどの微分方程式6.3式に改良して、密度効果を表現してみよう。まず、個体数が増えて増殖率が0になるときの個体数を定数Kとする。このときKを環境収容力という。餌や生息場所が豊富な場所ではKが大きく、乏しい場所ではKは小さい。

クラゲの話ではあるが、日本の人口減少をうまく説明しているように思う。

少子化が始まったとされるのは、「1997(平成9)年に子どもの数が高齢者人口よりも少なくなったので、この年以降、少子社会となった」ということになっているが、それまでは人口は右肩上がりだった。これは「アリー効果」だったといえる。

しかし、アリー効果で増えた人口により、今度は密度効果が発生した。つまり、人口密度の過密だ。これが環境収容力の限界を超え、繁殖を抑制する方向に働いた。毎日の満員電車に乗っていれば、否応なく人が多すぎると実感する。意識はしていなくても、生物の本能は密度効果の影響を受けていると思われる。

東京都の人口密度は、6,402.35人/k
これでは密度が高すぎるということだ。
もっとも少ないのは北海道で66.62人/k㎡だが、札幌市中央区では8,856人/k㎡と東京都全体よりも多く、千代田区(5,721人/k㎡)よりも多い。ようするに都市部は、総じて人口密度が高い。

地方では山林が多く、人が住める平野部が少ないため、都市部に人が集中する。県全体で見ると人口密度は低くなるが、都市部では人口密度は高くなる。

東京が顕著ではあるが、地方でも都市部は密度効果が発生していると考えた方がよさそうだ。
日本は島国で国土も狭いため、環境収容力は大きくない。そのために早くに人口減少に転じたと思われる。

減った人口を移民で穴埋めするというのは、一時的な効果しかないだろう。
移民で人口が増える→人口密度が高まる→密度効果が発生→人口減少に拍車がかかる……という逆効果にもなりえる。際限なく人口が増え続けることは、生物としてありえない。

日本の国土の環境収容力には、適正人口と適性人口密度があるはずなんだ。
密度効果を解消するために人口の分散をするのが、人口減少に歯止めをかける方法だ。

記事中のもうひとつの解決策として挙げられた、DX(デジタルトランスフォーメーション)については、そのコストを誰が払うのか?……という問題がある。

電気自動車、エネルギーグリッド、ロボタクシー網、病院の5Gネットワーク、ドローン配達、農作業のDX化……等々、バラ色の未来を描いているが、それらの設備やシステムには相応のコストがかかる。
税金でまかなうのか? あるいは民間企業に委ねるのか?
民間に委ねる場合、儲からない事業には手を出さないだろう。田舎では採算が取れないのは予想できる。

テクノロジーで人口減少の穴埋めをするには、コストがかなり低くならなければ実現は難しい。ロボットが労働力の肩代わりをできれば理想的だが、そんな高度なロボットは高価だ。

また、いまだ実現していないテクノロジーを当てにするのは楽観的すぎる。
技術的には可能でも、コスト的には無理な例はほかにもいろいろとある。過疎化の進む地方でDXを導入するのは、かなり無理ゲーという気がする。

ともあれ、人口減少は日本だけでなく、世界人口も遠からず減少に転ずると予想されている。
人口減少をマイナスと捉えるのではなく、温暖化問題や環境問題にとってはプラスであることも事実。温室効果ガスの排出量を減らすのに、人口減少は究極の手段なのは確か。

いずれにしても、社会システムの大転換が必要だ。
人口が半分になっても、やっていけるようにする社会システムを構築すること。100年前(1921年)の人口は約5700万人で、現在(2021年)の約半分だった。
その方法は、金で世界を回す資本主義ではないだろうね。

諌山 裕

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