現在、アメリカ、中国、UAEの3カ国が火星に探査機を送り込んでいる。
ちょっとした火星ブームだ。
ちなみに、UAEの探査機は日本のH-IIロケットで打ち上げられた。日本の火星探査は、「のぞみ」が失敗しているが、中国とUAEは初チャレンジで成功させた。
火星が身近になったかのように錯覚していて、次は「火星移住だ」と先走る人もいる。
「火星移住」本気で進めるイーロン・マスク。だが、惑星移住の本命は、まさかの「金星」だった!(川口友万) | 現代ビジネス | 講談社(1/5)
今回がブルーオリジン社の開発したロケットによる初の有人飛行だというから、社長というのも大変な仕事だ。
これが成功すれば(もし成功しなかったらアマゾン社は創業者を失い、大変なことになる)、富豪たちの宇宙ツアーがブームになると思われる。費用は25万ドル前後、中古マンションの値段で宇宙を体験できるなら安いものだと彼らは思うかもしれない。
ジェフ・ベゾスのロケットは観光レベルだが、電気自動車メーカーのテスラを率いるイーロン・マスクの夢はもっとはるかに大きい。火星に移住しようというのだ。
(中略)
スペースX社のカンファレンスで、同氏は火星移住の危険性について、「参加者が死ぬ可能性は高い」と述べている。火星には探査機以外がたどり着いたことはなく、探索範囲もごく限られている。移住となった場合、どのような事故が起きるのか、想像もつかない。
しかもロケットが火星に着いても帰りの燃料はない。
スペースX社は火星の二酸化炭素と水(地殻の中に岩石に含まれる形で残っていると予想されている)から帰りの燃料を合成するとしている。岩石に水が含まれているというのはあくまで予想でしかなく、技術的に抽出可能かどうかもわからない。
つまりイーロン・マスクの火星行きのチケットは、観光旅行などではなく、地球へ戻ることのない、死出の旅への片道切符だと考えた方がいい。
(中略)
しかし宇宙は過酷だ。もっとも問題になるのが放射線である。
2013年6月、火星探査車『キュリオシティ』に搭載した放射線測定器の数値の分析結果が発表され、地球から火星へ向かう宇宙船内部には予想以上に高レベルの放射線が降り注いでいたことがわかったのだ。
キュリオシティが地球から打ち上げられ、火星に到着する253日の間に浴びた総放射線量は466ミリシーベルトなので往復では900~950ミリシーベルトになる。一般に医療的に危険とされる年間被ばく量が1000ミリシーベルト=1シーベルト以上なので、かなり危険な水域だ。ちなみに一般的に許される被ばく量は年間1ミリシーベルトである。
しかも火星は大気が薄いので、地球上と違い、桁違いの放射線が降り注ぐ。長期滞在となれば、現在の放射線対策では心許ない。
なかなかよい記事。
私のブログでも度々書いていることだが、火星に人間を送るのに解決しなければいけない大問題は、片道にかかる時間と宇宙線(放射線)による被爆だ。
被爆について、数値を示して解説している記事は珍しい。
試算では253日(約8か月)で計算しているが、これは無人機による最短の時間なので、有人の場合には船体が大きくなり、加速と減速で制約があるため、1〜2年はかかる。それだけ余計に被爆するということだ。
火星に辿り着いたとしても、とんぼ返りで帰れるわけではない。
地球と火星が約2年おきに最接近する機会に、火星に向けて出発するわけだが、1〜2年かけて火星に到着する頃には、火星と地球の距離は遠くなっていて、帰ることができない。
次のチャンスは2年後の最接近のときだから、火星で2地球年(1火星年)過ごさなければならない。
つまり、地球から出発して、火星から帰還するのに、4〜6年かかる。
その間、宇宙飛行士たちは放射線から身を守り、自給自足で食べていく必要がある。
物資を無人機で送る方法もあるが、地球−火星間の距離が離れると、それも難しくなる。
マスク氏のプランでは……
イーロン・マスクが描く「火星移住計画」の衝撃 | 宇宙ビジネスの衝撃 | ダイヤモンド・オンライン
2016年9月にイーロン・マスクから発表された計画では、巨大な火星行きの惑星間輸送システムで火星まで約80日かかる日数を、最終的には30日まで短縮するとしています。
……なんて豪語しているのだが、まだそんな巨大ロケットは存在しない。
現存するロケットで向かうとすれば、短くても8か月、妥当なところで1年ではないかと思う。
SF映画・ドラマに出てくるような、大きな宇宙船ではなく、かなり小さく窮屈な宇宙船になるだろうから、宇宙飛行士には過酷だ。
▼参照。火星への有人探査のSFドラマ。
【レビュー】『マーズ 火星移住計画』
【レビュー】Netflixオリジナルドラマ「AWAY」
「AWAY」の宇宙船には遠心重力ブロックが付いているのだが、疑似重力を発生させるのに手っ取り早い方法だ。だが、マスク氏が造るだろう宇宙船には、そうした装備は搭載されない。なぜなら、宇宙船はなるべく軽量にしたいのと、遠心重力ブロックは機構と制御が複雑になってしまうからだ。
とある火星計画では、先に無人機で火星に基地を造り、燃料、酸素、水などを生成し、火星での生活環境や帰還用の準備をしておく……という方法が提案されている。
しかしながら、それらの基地建設と燃料等の生成を、ロボット等を使った自動化で可能かどうかは疑問。なにもない火星上で、1から建設できるほどロボット技術は進歩していない。建設資材や機械を火星に送るだけでも、膨大なコストと時間がかかる。
『最初の「有人火星探査」で火星に立つのは中国の旗か?』でも書いたが、2030年代に火星に人間を送るとしたら、片道切符の旅行になる可能性が高い。
火星に立つ初めての人間が、火星で死ぬ初めての人間になる。
それでも火星を目指すべきなのか?
マスク氏も中国も、死者が出ることを想定済みのようだから、チャレンジするんだろうね。