技術立国日本、なんてうそぶいていたのはいつだったか。
たしか、1990年〜2000年ころだったと思う。バブル景気後から、政府は“科学技術創造立国”を目指して先端科学技術への投資を積極的に打ち出したりした。一定の成果はあったとされるものの、短期的なもので終わり、現在は尻つぼみに後退してしまった。

1990年代は、「パソコンを使えない上司(オジサン)」と中高年を揶揄していた。
当時のパソコンは16ビット機で、メディアはフロッピーディスク、OSはMS-DOSが主流だし、初期のWindowsはクソみたいに使えない代物だった。パソコンでできることなど限られていたが、もっぱらワープロや表計算ソフトとして使われていた。
そんなパソコンを、OL(これも死語か?)がカタカタと軽快にタイピングしていて、使えないオジサンをバカにしていたのだ(^_^)b

あれから30年(現在年からは34年)ほど経ったが、かつての若者で現在はオジサンになっている諸君は、パソコンを使いこなしているだろうか?……というと、相変わらず「IT機器が使えないオジサン(オバサン)」が多いようなのだ。
ぜんぜん進歩していないのか?
この30年(現在年からは34年)、なにをしていたんだ?……といいたくなってしまう。

それは世代の問題なのかというと、じつは日本の国としては問題にもなっている。
というのが、以下の記事。

おざなりデジタル改革20年、「後進国ニッポン」4つの元凶:日経ビジネス電子版

コロナ禍であらためて明らかになったことの1つが、日本の「デジタル後進国」ぶりだ。押印のための出勤など、デジタル化を真剣に進めていれば、容易に解決できた問題も多い。特に公的機関の後れが目立つ。政府はデジタル強国戦略に約20年前から取り組んできたが、思うように進んでいない。日本をデジタル後進国にした元凶は何だったのか。

(中略)

行政サービスのデジタル化、いわゆるデジタル・ガバメント(電子政府)の構想が初めて登場したのは、2001年に森喜朗首相(当時)が提示した「e-Japan 戦略」だ。

(中略)

e-Japan戦略を策定した森元首相はかつて「IT革命」を「イット革命」と読んで、話題となった。それから20年。情報技術を表すITという言葉は間違えようのないほどちまたに広がった。だが、政府が打ち出している戦略の骨子は、当時から驚くほど変わらない。その事実は、この20年のデジタル戦略が、ほとんど進んでいないことを意味する。

(中略)

会計検査院は19年の報告書で、総務省が機密情報を守るために17年に作ったシステム「セキュアゾーン」について触れた。開発などにかかった費用は18億円超。だが、一度も使われないまま2年で廃止となったのだ。

「イット革命」は笑い話にしかならなかった。笑いが取れたからいいじゃないか、ともいえる。
管政権は「デジタル庁」を新設して、行政のデジタル化を推進するといっているが、看板倒れにならずに、どこまでできるだろうか?
デジタル庁のゆるキャラマスコットを作って終わりとかにならなければいいが……。管政権が短命で終わると、デジタル庁の存続も短くなりそう。

政府や行政のデジタル化は、大変革をする覚悟でやらないと無理。
ちびちびと小手先だけやっても、給付金でのマイナンバーと同じように、使い勝手が悪く、かえって手間がかかるという事態になってしまう。
高速道路の建設に着手したはいいが、全長100kmのうち1kmしかできていない。残りは計画変更と予算不足で完成の見込みが立ちません……みたいな話だ。

公共事業では、道路や箱物を造って終わりなことが多いが、IT関連も使いもしないシステムを作って終わりというわけだ。今はマイナンバーカードになったが、住基カードもたいして役に立たなかったね。使えない、使わないシステムに多額の税金をぶっ込むという悪習は相変わらず。

アベノマスクや給付金もそうだったが、国が下請けに出す電通とか博報堂とかが儲かるだけで、2次下請け、3次下請けにもっと安い価格で外注される。結局、末端の作業員は派遣の低賃金で働いているという実態。
おそらく行政のシステム設計も、莫大な税金を投入しつつ、中間業者に中抜きされるのだ。行政の縦割りと合わせて、こういうピラミッド構造自体が、既得権益化してしまっている。

かつての「パソコンを使えないオジサン」は、すでに亡くなっているか定年で老後を送っていると思う。本来なら、使えるオジサンばかりになっているはずなのに、そうはならなかった。
30年の時間があったら、現在のオジサンたちはパソコンやITのエキスパートになれたはずだった。それが社会の大勢になっていれば、日本はIT立国に様変わりしていただろう。

今の若者はどうかというと、スマホは誰でも使えるが、パソコンは使えないという人が増えているという。スマホでたいていのことはできてしまうから、個人でパソコンを持つ必然性が乏しくなってしまった。

そのスマホでなにをしているかというと、SNSでつぶやいたり、動画を見たり、ゲームをしたりで、ただ画面をタッチして見るだけの“板”でしかない。使うのに特別な知識や技術は必要なく、猿でも(タッチだけなら猫でも)使える(^o^)

結局は、必要な教育をしてこなかったのが、一番の要因ではないかと思う。これは英語教育にもいえることで、使える英語、話せる英語の教育をしてこなかったから、日本人は英語が話せず、英語コンプレックスを克服できないままだ。

教育に関しては、小学生からの英語教育や、タブレットを使った授業などを取り入れていくようだ。
じゃあ、今の子供たちの10年後は、英語がペラペラで、コンピュータプログラムをサクサク書けるようになっているかというと……、たぶん、そうはなっていない。おそらく、10年後も現在と大差ないだろう。相変わらず英語は話せないし、IT機器も使いこなせない人が大半で、「なんとかせねば」と○○戦略会議とか○○改革とか、スローガンを高らかに叫ぶのだ。

デジタル化に取り組むには、社会全体を変える必要がある。政府や行政だけの問題ではない。
まずは行政から……というのもわからないではないのだが、一番やっかいなのが行政のシステムだ。わざと複雑にしているのではないかと思えるほどに、手続きが煩雑なのは、それを処理する人のために仕事を用意しているようなものだ。簡素化すると、今までそこを担当していた人は不要になる。つまり、失業者が大量に出ることになる。改革は犠牲をともなう。

国勢調査が始まっているが、インターネットからの提出を推奨している。これがすべてネットで済んでしまえば、60万人ともいわれる調査員は不要になる。データの集計もAIが自動で行えるようになれば、省庁の人員も不要になる。行政の仕事は、AIで代行しやすいものが少なくないので、公務員は大幅に削減できるかもしれない。AIなら凡ミスは減るだろうしね。

「社会全体を変える」とは、長期的なビジョンを、ロードマップで示すことから始める。
具体的な達成目標を立てるのだ。いついつまで、ここまで実現するという、ロードマップだ。
それがなくて、漠然とデジタル化などといっても、期限がないのならズルズルと先延ばしてしまうだけ。

行政のデジタル化の第一歩は、省庁間や地方で異なるシステムの1本化だ。
統一した規格で統一したシステムの構築。
そんな基本中の基本から始めないといけないというのが情けない。
だが、これをまっ先にやらないと、そのシステム上で運用する様々なサービスが機能しない。
ようするに、建物の基礎工事だ。
これができないのなら、永遠に行政のデジタル化は実現しないといっても過言ではない。総務省と厚労省でシステムが違うので、データのやりとりができないなどという、バカなシステムでは役に立たないのだ。

それと教育だ。
20〜30年後に、「IT機器を使えないオジサン・オバサン」が存在しないようにする。
専門的な技術者のレベルになる必要はないが、基本的なことはわかるようになってほしいものだ。

2040年、ある普通の会社の、普通の課長と普通の女性社員の会話

「なんかネットの調子が悪いな。恭子さん、ルーターとモデムのステータスはどう?」
「特に問題ないようです、課長。あ、待ってください。セキュリティのアラートが出てます。システムチェックかけます。ネット、しばらく落ちますよ」
「了解。ウイルスかな? 最近は巧妙になったからね。この前、子供にデジタルペットを買ってあげたら、そいつがウイルスに感染してて、えらい目に遭ったよ」
「デジペは危ないですよ。コピー品も多いですからね」
「正規品とコピー品の見分けつかないよね」
「デジタルですから、基本性能はまったく同じです。違いはデジタル刻印があるかどうかですね」
「それそれ、デジタル刻印。ブロックチェーンを偽装するのまで出てきてるらしいね。解析ツールを買うはめになって、とんだ出費だったよ」
「課長、ネット回復しました。すべて正常です」
「ありがとう、恭子さん」

デジタル後進国ニッポンは、この泥沼から抜け出すことができるだろうか?
どん底まで落ちないと、変われないかもしれない。
未来の希望は……暗い……。

諌山 裕

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