出版不況といわれて久しいが、一向に改善の兆しは見えないようだ。
電子ブックが、その活路のひとつなのかもしれないが、まだまだ暗中模索で明確なビジネスモデルとはなっていない。
「本が売れない」と嘆く出版界なのだが、売れない本を作っているのは出版社自身だ。
武田ランダム破たんは出版界崩壊の序章?新刊の7割返品…(1/3) | ビジネスジャーナル
少しずつ中小の出版社が廃業に追い込まれていく中で、いよいよ大手も安穏とはしていられない状況が来ていると、業界は騒然としている。
(中略)
12年は本当に本が売れなかった。新刊書籍が6~7割返品されるのも当たり前になってしまっている
出版社の下請けで、書籍の編集やデザインをするのが私の勤めている会社の仕事なのだが、末端の制作現場からいわせてもらえば……
「こんな本、誰が買うの?
売れそうにない本を作って、どうすんの?」
……と思う。
新刊の返本が7割といっても、その内訳が問題だ。
すべての本がベストセラーになるわけでもなく、ヒット作となる本は全体の1%くらいだろう。本のジャンルや内容によって「売れた」といえる数は異なるが、制作費や流通費などの経費を回収できて、黒字になる本は返本されなかった3割のうちどのくらいあるのだろう?
新刊書籍の7割が返本……といっても、それは小説やマンガなどの創作作品ばかりではなく、実用書やビジネス本といったジャンルに該当する本が多くを占める。このジャンルの本は、売れれば大きいが売れないと雀の涙だ。
あるビジネス本がベストセラーになると、類似した本を他社も出してくる。
2匹目のドジョウを狙っているわけだが、そうそう甘くはない。
私がやっている仕事にも、そうした類似本、というより二番煎じ本が回ってくることがある。
だが、はっきりいって「面白くない」(笑)
私はデザインやレイアウトを担当するだけなので、内容には関知しないが、読む気はなくても内容は読んでしまう。チェックのために校正をしたりするからだ。
仕事は仕事なので、やらくてはいけないが、
「こんな本、誰が買うんだよ?」
と、頭の中でぼやいてしまう。
そもそも下請けに回ってくるような本は、ベストセラーにはならない。
早い話が「消化仕事」のようなものなのだ。下請けに出すということ自体、制作費を安くするためだ。
出版社には出版計画があり、「月に何点の本を出す」といったノルマがある。それは出版社の人間が仕事をするための計画であって、この本を出版したいという動機から発生する仕事ではない。出す本がなければ、出版社の人間のする仕事がなくなり、遊ばせることになってしまう。
売れる本の企画を立てているはずではあるが、それは建前で、仕事をするための本だ。
すべてがそうだとはいわないが、売れるはずのない本をせっせと作っている実態はある。
ある意味、出版の無駄だ。
もっとも、その無駄のお陰で、私は仕事にありついているわけで、一概に否定・批判はできない。
とはいえ、本好きでもある私にとっては、複雑な心境だ。
無駄だと思いつつも、食っていくためには売れない本を作らなければならない。
その一方で、もっといい本、面白い本、人々に感銘を与えるような本を作ろうよ……とも、いいたい。
悲しいかな、理想と現実は乖離している。
「これ」という厳選した本を、今月は1冊だけ出版する……ということでは、出版社もそこに勤める人も、さらには下請けも、仕事がなくなってしまう。
7割が返本されるとしても、本を作り続けないと路頭に迷ってしまうのが、出版界に関わる人間のジレンマだと思う。
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ブロゴスから読みに来ました。
今回のお話は、「資本主義」が抱える問題点の一つを示していると思います。
その問題点というのは、「資本主義の枠組みの中で生産される物のうち、6割方は不用品(日常生活の中で、無くても困らない物)である」。こうなるでしょうか。
けれど、その不用品が一定量生産され消費されることで、経済の歯車が回り、製造、流通、消費の各段階で雇用が生まれ、人々の生活が成り立つ。
当然、出版業界もその枠内にあるので、出版社も売れない(必要とされない)ことを承知で、いろんな本を出版する。
そういう意味で言うと、雇用と生活を維持するために、不要であることを承知の上で、不用品を買わなければならない。
そういう論理も成立すると思います。
そういう状況の中で、重要なのが「納得」なのでしょうね。
例えば、AKBのファンはある意味で、秋元康の行為がぼったくりに近いのを承知の上で、AKBのCDを買っているわけですが、それも「納得」がなければ、成立しないわけですし。
それも、AKBの側が、それだけの努力をした上でのことなのでしょうが。
それが、評価されているから、AKBは売れている(必要とされている)と。