トイペーの買いだめに走った人たちが社会を滅ぼす

トイレットペーパー(以下、トイペー)の買いだめパニックによる品不足は、いまだ続いていて、店頭からトイペーが消えたままだ。
高額で転売する輩も出ているようで、それを買う人がいるから転売に拍車がかかるという悪循環。

たかがトイペーだぞ。
なにをそんなに必死になっているんだ?

おそらく、マスクを買いだめする人とトイペーを買いだめする人は、ほぼ同じなのだろう。
マスクには予防的効果はないことは、WHOも公式見解として表明しているし、トイペーが新型コロナ騒動とは無縁だというのもわかっている。
買いだめは無意味だし、金の無駄遣いなのだ。
それでもデマに踊らされるのは、どうしてなのか?

そのへんの心理を解いた記事が以下。

トイレットペーパーの品切れはなぜ起きた?  社会心理学の専門家に聞く(THE PAGE) – Yahoo!ニュース

全国的な紙製品買い占めはなぜ起きたのでしょうか?

東京大学大学院情報学環総合防災情報研究センターの関谷直也(せきや・なおや)准教授(災害情報論、社会心理学)は「いわゆる社会学や社会心理学でいう『予言の自己成就(じょうじゅ)』の典型例です」と言います。

「予言の自己成就」とは、人々が根拠のない予言(うわさや思い込み)を信じて行動することによって、予言が現実化する現象を指します。今回の場合、イオンや問屋には在庫があったにも関わらず、「紙製品が足りない」という予言が実際に起きてしまったのです。

関谷氏は続けます。

「メディアでトイレットペーパーが売り切れていると報じられたり、ネットで売り切れている情報や写真が出回ったり、自身が直接売り切れている状況や購入のための行列を見たりして、『紙製品がない』と認識した人が購入に走り、それをまたメディアが報道する。この繰り返しによって全国に広まっていったのです」

1973年の石油ショックの際、トイレットペーパーが売り切れたのも同じ現象だといいます。

この記事では「予言の自己成就」説を取り上げている。

別の記事では……

デマで買い占めに走る人が何とか拭いたい恐怖 | コロナショックの大波紋 | 東洋経済オンライン | 経済ニュースの新基準

トイレットペーパーやティッシュペーパーだけでなく、地域によっては紙オムツやペットシーツまでもが売り切れ・品薄状態になっている。また、カップラーメンやレトルト食品、お米などの食料品を買い占める現象までが起きており、新型コロナウイルスの流行に伴う社会不安がわかりやすい形で顕在化し始めたようだ。

(中略)

では、なぜそれが噂やデマの氾濫となって現れるのだろうか。人間には、自分が入手した「秘密を誇示したい」という強い欲望があるが、緊急事態において「嘘が恐怖に対する一つの救い」となると言ったのは社会学者の清水幾太郎だ。

(中略)

要するに、新型コロナウイルスの脅威をコントロールすることは不可能だが、トイレットペーパーの確保をコントロールすることは可能である――といったミクロレベルでのコントロール感=「対処できてる感」が精神的な充足をもたらすのである。これが「嘘を語る人間は無力であっても、この嘘によって生みだされた環境は断じて無力ではない」の正体といえる。

(中略)

今後、新型コロナウイルスの感染拡大がどのような局面を迎えるか不透明だが、清水幾太郎が「一片の流言はよく国を傾けることが出来る」(前掲書)と述べているように、国家や社会システムを維持するための「免疫」をも破壊してしまう恐れがある。「パンデミック」ではなく「インフォデミック」によって、わたしたちは自らの日常生活をズタズタに切り裂いているのだ。

と、こちらは「嘘が恐怖に対する一つの救い」説だ。

どちらも興味深い仮説。
というか、同じ現象を違う視点から見ているともいえる。

検証のために調査して欲しいのだが、今回のトイペー・パニックで、買いだめに走った人たちの割合が、どのくらいだったか?
すべての人でないことは確かだが、何割の人がデマに踊らされたのか?

私の予想は、おそらく2〜3割、多くても5割を超えることはないのではと思う。
買いだめに走ったのは全体から見ると少数派で、それでも商品がなくなるという結果につながった。店によっては、購入数の制限をしているところもあったようだが、ある店舗では「お一人様、10パックまで」とかいう制限のところがあったという。

いやいや、その制限数はおかしいだろう?(^_^)b
1人1パックにすべきだった。

トイペーの1パックは、12ロールが多いから、10パックだと120ロールになる。家族構成にもよるが、消費量は4人家族で月に12〜16ロールほどらしいので、120ロールもあると7〜10か月分も買いだめすることになる。そんなに買う必要があるのか、冷静に考えればわかりそうなもの。

しかし、それでも買っちゃうんだね。

ある店舗でトイペーを買う人たちのうち、2割がデマに踊らされて、いつもは1パックしか買わないのに、より多く買ったとする。
計算しやすいように、単純化すると……

ある店舗の1日の利用者数=100人

100人が1パックずつ買えるように、100パックの在庫がある。

そこに、2割の人が10パックずつ買いだめを始める。10人が10パックを購入した時点で在庫がなくなる。

買いだめしたくても買えなかった10人が、別の店舗に向かう……

……と、こんな展開だと想像する。
つまり、わずか2割の人が、パニックを起こすと、日常生活の社会システムが壊れる。
大多数の人はデマには踊らされないのだが、2割の愚か者によってパニックには加担しなかった人たちの生活を脅かすことになる。

もう一ついえることは、トイペーやマスクは、消耗品であり安価であるということ。大量に買っても金額的にはたいしたことがないので、出費するのに躊躇いが起こりにくい。
これが1点1万円もするような商品だと、それを100個も買いだめする人はあまりいないだろう。
安価なものだから大量に買える。そして、大量に買うことで、ある種の達成感を得られる。そのへんはギャンブルにも似ている。

デマに踊らされる人たちを、「愚か者」あるいは「情弱」と呼ぶのは容易いが、割合としては少数派であっても、人数的には無視できない数になる。
デマをデマと見抜ける、良識のある人たちばかりではないのが社会だ。
言い方は悪いが、バカは一定数存在する。そして、数の多いバカは手に負えない。
日本の人口(2020年2月現在、1億2601万人)のうちの2割は、2520万2000人である。これは東京都の人口(2019年10月現在、1394万2856人)より多い。

極論すれば、2割のバカが社会を滅ぼす。

民主主義は民意を反映させるため、選挙等の多数決で物事を決める。
しかし、苦労して積み上げた社会システムは、2割の少数派によって壊される。
新型コロナウイルスが社会を混乱させる一因にはなっているが、社会を壊すのはデマに踊らされる少数の愚か者だ。

一握りの天才によって、科学は発展し、文明は進歩していく。
一方で、わずかな愚か者によって、社会は不安定になり機能不全に陥る。

たかがトイペー、されどトイペー。
トイペー・パニックは、人間社会の脆さを象徴しているように思える。

諌山 裕

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