2025年の大阪万博で、JAXAの火星探査機「MMX」を使って、火星から生中継する計画があるという。
面白い企画だと思うのだが、読者の反応を見ると、かなり誤解もあるようだ。
大阪・関西万博で火星を探査機で生中継へ JAXA構想 – 産経ニュース
2025年大阪・関西万博の展示会場で、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が火星を探査機で撮影して生中継することを検討していることが8日、分かった。日本の宇宙探査を世界にアピールするのが狙いで、実現すれば目玉企画として人気を呼びそうだ。
構想によると、火星の衛星を調べる計画「MMX」の探査機で火星を撮影し、映像を地球に送信して生中継する。詳細は未定だが、会場で大型スクリーンに映写する方法が考えられる。
探査機は同年8月、火星付近に到着する見込み。会期中の5~11月に継続的に中継すれば、前半は火星に徐々に接近していく様子を伝えられる。高度200~300キロで火星を撮影すれば、地形が分かる可能性もあるという。
JAXAから正式なアナウンスがないので、詳細については不明。続報を待ちたい。
記事はおおざっぱなことしか書いてないが、
「火星の衛星を調べる計画「MMX」の探査機で火星を撮影し、映像を地球に送信して生中継する。」
ここで、「映像」という表現に疑問符が付く。
映像が「動画」のことを意味するのなら、かなり画期的なこと。
だが、それは難しいのではとも思う。
この記事に対するコメントを見ると、大部分の人が「動画」をイメージしている。ロケットの打ち上げのような、スペクタルなシーンを想像したのかもしれない。
しかし、火星に着陸するわけではないし、高々度から火星を撮影するだけ。
冒頭に掲載した、火星のイメージ画像のようなシーンが見られるのだと思う。
つまり、NASAの公開したこれまでの見慣れた火星が見えるわけだが、それが日本の探査機の撮った画像だという違い。
生中継(といってもタイムラグはある)で「今」の火星が見られるという違い。
それはそれですごいことではあるのだが、スペクタル感は乏しい。
地球と火星は、最接近時でも5,759万キロメートルの距離がある。
通信には、最接近時で約4分、最遠時で約20分かかる。これは片道。
通信速度は、MMXの仕様が不明(見つけられなかった)だが、アメリカの探査機の場合は……
火星探査車「キュリオシティ」の通信 – 宇宙と原子力のファンサイト スペース&ニュークリア
通信はマーズ・オデッセイを介した場合で最大毎秒256キロビット(256kbps)、MROを使用した場合で最大毎秒2メガビット(2Mbps)の速度で行えます。
……と、これと同等だとすると、動画を送信するには通信速度が足りないと思われる。
SD画質(480p)の場合、1.5Mbps~3Mbps程度は必要。
フルHD画質(1080p)だと3Mbps~6Mbps以上、4K画質では25Mbpsが必要。
2Mbpsなら、SD画質でなんとかというところだが、火星から届く電波は微弱なので、画面がフリーズする現象が頻発しそう。
マーズ・オデッセイよりは新しい機器を搭載するのだろうから、通信性能の良い機器になっているかもしれない。
はたして、どういう生中継になるのか?
たぶん、おそらく、動画ではなく静止画なのではと思う。
高度200〜300kmからの撮影だと、動画として撮ってもほとんど意味がない。探査機が移動するのに合わせて見え方が変わるだけだから。
だとするなら、「映像」という言葉は適切ではないということ。
記事としては、そのへんの的確性は考えてほしい。
ただ、動画の中継になるのなら、私の間違いなので頭を下げる。
いずれにしても、まず、火星に予定通り到達することだ。
「のぞみ」は火星周回軌道への投入に失敗してるからね。その雪辱を果たすためにも、計画を成功させてほしいと思う。