電子出版に関しては、いろいろと触れてきたが、その続き。
●電子ブックは「作家直販」を可能にする
●電子ブックは売れるか?
●書籍は紙かデジタルか
●出版社は電子書籍の壁か?
まずは、以下の記事を。
疑問その1:誰でも簡単に有料出版が可能になるの?
まさにこれこそが、電子出版の最大のメリットだと思う。アマゾンが一部の国で展開しているDigital Text Platform(Amazon DTP)などを利用すれば、Kindle向けの電子出版を行うことができるし、今後も、同類のコンテンツアグリゲーションの仕組みはたくさん登場するだろう。
以前からこのコラムでは、アプリ開発者などをインディ目線で応援してきただけに、出版の世界でも、デジタル化の進展とともに個人やインディが自作品をビジネスとして公開できる環境が整うことは喜ばしいことだ。
(中略)
そもそも、ビジネスは二の次、自分を表現するのが主たる目的で、それに「お小遣いが付随していればうれしい」という感覚で電子出版を希望するクリエイターも多く登場すると思う。
(中略)
この記事を書くに当たり話を伺った、オンデマンド出版を手掛けるオンブック編集長の市川昌浩氏は、このような出版社のリスクヘッジ機能について、「奥付にある“発行人”の意味をよく考えてほしい。何か問題があったら発行人が責任を持つ、ということ。著者だけでそれをすべて負うことができるのか」と問い掛ける。
私が書いたことと重複する部分もあるが、総論では同感だ(^_^)。
個人が出版を行う……というのは、じつは電子化以前、紙の本の時代、30年くらい前から行われていた。
コミケに代表される同人誌即売会だ。
昔はマーケットとしては小さかったし、趣味の領域だった。私は即売会のスタッフとしても関わっていたこともあるので、内側も外側も見てきた。
今でこそ、コミケが巨大なマーケットになって、社会的にも影響力を持つようになったが、昔はマニアックな世界だった。
kindleやiPadの登場で、電子出版の自費出版がより容易になる可能性が出てきたが、これからの進展・成長過程を想定するとき、コミケの黎明期から発展期と似たような流れになるのではないかと思っている。
インディーズなんていう呼び方がなかった頃から、マンガやアニメの二次創作の自費出版は、独自の発展をしてきた。コミケ発のブームや、作家が登場したり、コミケで稼ぐ人たちも出てきた。
商業誌の編集者が、コミケなどで作家をスカウトするといった事例も多くなった。アマチュアの作家が新人賞で商業誌でのデビューを目指すのが通例だったのが、逆の流れも起きるようになった。
電子出版が浸透してくると、出版社が「中抜き」されるのでは?……と危惧する向きもあるが、そういう状況はコミケではすでに起きていた。
作家が作品(マンガ)を描き、自費で印刷し、コミケで自らが売り子になって売る。そういうシステムはもう30年も続いてきた。コミケで売れっ子の作家は、商業誌に作品を発表するよりも「売れる」というケースもある。印刷費はかかるものの、売上げのほとんどが自分の取り分だからだ。
一連の電子出版関連の記事を読んでいると、同人誌即売会の過去の流れを踏襲している気がする。
紙から電子ブックに変わるという、形態の違いが大きいが、基本的な部分はさほど変わらないように思う。
また、上記の記事中にある「何か問題があったら発行人が責任を持つ」という部分には、疑問符だ。
なぜなら、過去、出版で裁判になるような問題が発生した場合……名誉毀損とか盗作とか猥褻問題など……、多くの場合、訴えられているのは著作者自身である。発行人が全責任を被るのなら、著作者は被告人にはならないのではないか?
出版社がリスクヘッジになるかどうかは、おおいに疑問だし、なっていないというのが現実ではないだろうか?
その点でも、出版社の役割というか位置づけは、曖昧だと思う。
多数のクリエイターが多数の作品を発表・販売すれば、玉石混淆で売れるものと売れないものの落差は大きくなる。
それは必然だ。
コミケでもそういう偏りというのは起きている。
電子出版だからという、特別な問題ではない。
まったく無名の状態から、徐々に売れ始めるときというのは、たいてい「口コミ」だ。
電子出版市場でも、ネットでの口コミが人気を左右することは明白。口コミがブログ、SNS、Twitterなどから起きるというのが、今までとは違うところ。
歴史は繰り返す……ではないが、芽生え始めた電子出版も過去の同人誌の流れを、ネット上で再現するのではないだろうか。