ネットが誕生する以前はケージ(籠)だった頃の話

ネットの昔話の記事なのだが……

ネット上にまだ「草が生えていなかった」頃の話 – ITmedia PC USER

 
感情を表現するために文末に付けるものを、この記事では「感情記号」と呼ぶことにしたい。現在、ネットで一番使われている感情記号は「wwww」だろう。俗に「草を生やす」といわれる表現である。

しかし私がネットを始めた1999年頃は、感情記号といえば(笑)だった。私はネットを始めてすぐの頃にこれを覚えた。チャットや掲示板で多くの人が使っていたからだ。例えば、相手に「いや知らないですよ」と言おうとして、ちょっと表現がキツいかなと思ったらこれを付ける。

いや知らないですよ(笑)

 
「草が生えていなかった」頃の話……とのことだが、「感情記号といえば(笑)だった」というのに違和感を感じた。
この記事を書いた人、パソコン通信を知らないな……と思った。
ライターの上田氏は「1984年生まれ」か、じゃ、知らないのは無理もない。

パソコン通信の全盛期は、「1980年代後半から1990年代」なので、上田氏が生まれて間もない頃だ。
現在のネットは世界中に広がっている広大な環境だが、パソコン通信の時代はごく限られた通信環境だったので、たとえるならケージ(籠)だったといえる。
パソコン通信を提供する会社ごとに、それぞれのコミュニティが成立してたため、相互に情報が行き交うことはなかった。
つまり、閉じられた世界。クローズドなネットだった。
パソコン環境はMS-DOSが主流だったから、テキストベースの味気ないインターフェースだ。
Windows 3.0が1990年、Windows 95が1995年、Windows XPが2001年に登場したが、直感的に操作できるWYSIWYGによって、パソコンが一般に大きく普及したのはWindows XP以降だろう。XP以前のWindowsは、MS-DOSの名残が強く、とても扱いづらかった。

パソコン通信の時代から、上田氏のいう「感情記号」はあった。
(笑)も使われていたが、多かったのは (^^) だね。いわゆるAA(アスキーアート)による「顔文字」。
現在のATOKには、「顔文字パレット」として顔文字辞書がついているが、これの原型はパソコン通信時代に生まれた。
日本語の顔文字は、英語圏の顔文字 :−) を和訳したようなものだ。英語の顔文字は、90度回転させると顔に見えるようになっている。ここに文化の違いがあり、英語の感情表現は「目」ではなく「口」が中心だからだ。日本人は、感情を「目」を中心に表現するため、口は省略し目だけの (^^) になっている。

 
最後に(爆)という表現について書いておきたい。これは現在では絶滅した表現である。(笑)はギリギリ生き延びているが、(爆)は本当に見なくなった。

この表現のニュアンスを説明するのは難しい。私は「自爆」の「爆」だと解釈していた。

え? それ、違うと思うが……
(爆)は「爆笑」の爆として使っていた。パソコン通信時代やネット草創期には、略語・俗語について方言とでもいえるような、コミュニティごとのローカルルールがあったので、私の周りでは……という注釈付きの話ではある。
そのほか、(汗)(涙)(怒)なんてのもあった。
手を挙げる表現として、「その提案に賛成///」とかね。

草あるいは芝といわれる「wwww」は、「warai」とローマ字入力するときの「w」から来ているというのが定説になっている。

wの由来・起源 – タネタン:あらゆる元ネタ・由来を集めるサイト

 
そこから「w」へと変化したのは1996年に発売されたオンラインゲーム『DIABLO(ディアブロ)』だとされている。このゲームはオンラインゲームということでチャットが可能であるが、海外のゲームということで日本語は使用することができなかった。そこで「(笑)」を表現するための方法として「(warai)」とローマ字で表記していたのだ。

しかし、「(warai)」というのは非常に打つのが面倒であるということから、次第に省略され「(w)」と打ち込まれるようになった。

起源はゲームのようだが、ネットに広まったのは2chだという。
その芝も、現在は廃れつつある。
スマホでは、文字通りの絵文字やLINEのスタンプなど、あえてテキストを使う理由がなくなっているからだ。私も、スマホでのメールは絵文字を使うし、(笑)(^^)はPCでのキーボード入力のときだけになっている。うちの妻は、ときどき絵文字だけのメールを送ってくることがあり、意味がわからないことがあったりもする。

ネットは進化しているようで、じつのところ、本質的な部分はあまり変わっていない。
流行りのSNSは、画像をつけたり、動画をつけたりもできるが、主たるメッセージはテキストだ。その見せ方が装飾的になっているだけで、伝えたいことは入力方式の違いはあっても、カチカチ、ピコピコとテキストを入力している。
なぜか、テキストに変換するという手間のかかることを誰もがやっている。
その理由はなにかといえば、情報をそぎ落とせるからではないかと思う。音声や映像だと、本人の感情や本心が透けて見えることもある。しかし、テキストだと書かれていることでしか意図は伝わらない。ときにそれが誤解の元になったりもするが、伝えたくない情報をメッセージに載せないことはできる。
テキストメッセージは、ある種の仮面の役割をしている。
それゆえ、効率が悪い伝達手段であるにもかかわらず、いまだに主流になっているのだと思う。

諌山 裕

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