4月22日から配信されていた、Netflixの映画『密航者』を見た。
火星を目指す宇宙飛行士達の物語なのだが……。
ツッコミどころ満載だった(^_^)b
ベースにあるのは、トム・ゴドウィン作のSF小説『冷たい方程式』なのだろう。
似たような設定の作品は少なくなく、ある意味、宇宙船という密室の定番でもある。
以下、ネタバレあり。
手法として、徹底して宇宙船の内部だけで展開される。撮影の手間とコストを下げる意味もあるのだろう。
地球との交信シーンでは、地球側の音声は聞こえず、宇宙船のクルーだけがしゃべっている。クルーはヘッドセットを付けているので、交信相手の声は外には聞こえないという設定だ。
それはわからないでもないが、一方だけの音声では状況がわかりにくいし、緊迫感も薄れる。
タイトルは「密航者」となっているが、意図的な密航者ではなく、宇宙船の整備クルーが事故と思われる状況で船内に取り残されたまま発進してしまった……ということになっていた。
その設定が、いささかお粗末。
その密航者が取り残されていた場所が、生命維持に欠かせない二酸化炭素分離装置であり、それが損傷してしまって酸素不足の原因になる。
なぜそこに?……という不可解さ。
火星行きの宇宙船は、特殊な形状をしている。
文字で説明するのが難しいから、簡単な図解を描いた。
……と、こんな形で、中心の太陽電池パネルモジュールを中心に回転して、遠心力で居住モジュールに人工重力を作り出す。アンカーとなっているのは、打ち上げ時に使用したロケットを代用している。
こんな格好の宇宙船が、グルグル回りながら飛んでいる。
発想としてはわからないでもないが、この宇宙船の制御はおそろしく難しいように思う。まっすぐ飛べるのかどうかも怪しいし、テザーがねじれたらグチャグチャだ(^_^)b
フィクションだからいいけど、現実的にこの形状の宇宙船は採用されないだろうね。
居住モジュールとアンカーの質量が等しくないと、中心点がずれてしまって、回転に歪みが生じる。
密航者が1人いたことで、居住モジュールの質量は増えているので、このシステムは狂いが生じていたことになる。つまり、正円の回転運動ではなく、楕円の回転運動になってしまうため、軌跡としては螺旋を描くように飛んでしまう。これではまっすぐ飛べないと思われる。
そして、酸素が足りなくなり、どうするか?……という展開。
そこがドラマのメインになっている。
最終的に、アンカーのロケットに残っている、液体酸素を取り出すことになる。
いやいや、それ無理だろう(^_^)b
ロケットの燃料としての液体酸素は、取り出すことを前提に設計されていない。
二人のクルーが、テザーを辿ってアンカーまで行き、酸素を取り出す作業をする。
それも、人力で登っていくという無茶ぶり。
テザーを登るための手動のグリップがあるのが不思議。登ることを想定しているのなら、電動の滑車くらい用意しておくものだ。
とにかく、アンカーまで辿り着いて、酸素を取り出すのだが、スキューバダイビングのボンベくらいの大きさのタンクが2つだけ。
えーー、それじゃぜんぜん足りないだろう?
そのシーンで出てきたメーターが以下。
メーターの単位はPSIなのだが、数字が省略でなく200が200PSIだとすると、圧力はかなり小さい。
ボンベの大きさが10〜12リットルくらいだから、満タンに入れても数時間分にしかならない。とても火星まで辿り着ける量ではない。
つまり、彼らの努力は数時間の延命だけで徒労に終わる。
物語は、決死の覚悟で酸素を取りに行った若き女性クルーが、太陽嵐の放射線で絶命するところで終わっている。
そこで終わりなのか???
残りのクルー達はどうなったんだ?
いろいろと消化不良の結末だ。
設定にいろいろと無理があるのだが、彼らを救う方法は別にあった。
テザーは伸縮できることが最初に示されていたのだから、伸ばしたテザーを格納して、初期状態に戻せばよかった。
そうすれば、アンカーまでの距離は縮められた。
火星に到着したら、初期状態に戻さないと止まれないはずだから、可能だったはず。
太陽嵐(コロナ質量放出)によって、船外にいたクルーが被爆で焼かれてしまうのだが、その時点で地球からどのくらい離れているかは明確ではないが、赤い火星が球体として目視できる距離には来ているようだった。
太陽からの距離が離れるほどに、太陽嵐は拡散し減衰する。
被爆するのは間違いないにしても、電子レンジで焼かれるように強力かどうかは疑問。
それ以前に、宇宙線は常に浴びているので、そっちの被曝量の方が多くなるはず。
火星行きの宇宙船で解決しなければいけないのが、宇宙線による被爆なんだ。
この作品は、全体として詰めが甘い。
物語も中途半端。
残ったクルーがどうなったのか、そこまで描いて欲しいと思う。