君は22世紀を想像できるか?

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『WIRED』日本版VOL.37「BRAVE NEW WORLD」を、電子ブックで購入し、読んだ。
電子ブックは、基本的にiPadで読むのだが、iPad読みになれてしまうと、紙の本には戻れないと感じる。ページ送りは楽だし、文字の拡大もできる。ド近眼の私には助かる。

WIREDの今号は「Sci-Fiプロトタイピング」というテーマの特集。

▼WIRED(ワイアード)VOL.37
WIRED(ワイアード)VOL.37

すばらしい新世界:雑誌『WIRED』日本版VOL.37の発売に際して、編集長から読者の皆さんへ | WIRED.jp

今号で「BRAVE NEW WORLD」と謳うのは、パンデミック後の世界がすばらしいものになると手放しで喜ぶためでも、あるいは不況と監視社会の暗い時代がやってくると警鐘を鳴らすためでもない。ちまたでニューノーマルが騒がれても、結局のところ大量消費社会も格差もポピュリズムも環境破壊も変わらない、という話もある。リーマンショックのあとも、東日本大震災のときでさえ、社会は何も変わらなかったじゃないかというわけだ。

(中略)

たとえそれが、ささやかな個々の人生の変化であって、歴史の教科書には載らないものだとしても、そこで生まれた意識の小さな変化の積み重ねこそが、次の「新しい世界」を準備する。未来をフィクショナルに構想するSFの力は、いつの時代も連綿と、新しい1歩を踏み出した人々の手によって実装されてきた。それは、人類が手にした稀有なツールだったのだ。だからもしいま、この日常が「結局は変わらない」ものだと思えるなら、そこに足りないのは、ぼくたちが未来をプロトタイプする構想力なのだ。

というわけで、少々気は早いが、新型コロナ(コロナ19)後の世界を描写したり想像したりするテキストとなっている。

序文にあるように、コロナ後の世界は、長期的にはあまり変わらないと思う。
なぜなら、人間というか社会は、劇的には変われないからだ。多少の変化はあっても、総体としては大きな変化にはならない。というより、変化できないんだ。

当分の間……たぶん1年くらい……は、混乱するだろうけど、徐々に元に戻る。「新しい生活様式」というスローガンは、やがては廃れる。その必要がなくなるからだ。

ワクチンは効果のほどが期待できなくても、とりあえずできるだろう。ワクチンがある……という既成事実が重要で、コロナ19は脅威の対象ではなくなる。インフルエンザや結核の年間死者数が多いにもかかわらず、脅威とみなされないのはワクチンや治療薬があるからだ。コロナ19も、ワクチンと治療薬ができれば、それで安心。何人死のうが関係なくなる。

数年後には、コロナ19はインフルエンザと同様に毎年流行するようになり、年間で数千人が死亡するようになっているかもしれない。しかし、現在のインフルエンザが騒がれないように、コロナ19も当たり前のことになって、誰も気に留めなくなっているだろう。
後年、2020年の新型コロナパニックはなんだったのか?……と、問われるかもね。

掲載されている作品は、コロナ後の世界が変わった様子を描いている。
それはある種の理想でもある。
だが、おそらくそうはならない……と私は想像する。
私はどちらかといえば楽観論者で、未来に希望を見いだしたいと思うタイプ。
とはいえ、コロナ後の世界が劇的に変わるとは思えない。

数十年という短いスパンだけでなく、人類史の数千年を振り返ってみても、人間は、社会は、それほど変わっているわけではない。スマホを手にしていても、人間の本質は2000年前の人間と大差はない。変化したのは周囲の環境であって、人間そのものではない。

科学や哲学で賢くなった一面もあるが、愚かな一面も相変わらず存在する。
賢さは愚かさを克服できずにいる。むしろ、賢さは愚かさを増幅させるのに手を貸している。たとえば、刀は一振りでひとり人間を殺せるが、原爆は一発で数百万人を殺せる。宇宙開発は人類が火星に降り立つことを可能にするかもしれないが、環境破壊は地球の生物を大量絶滅に導く。

人間は賢いのか? 愚かなのか?

現在進行形の新型コロナ問題でも、効果がないこと、意味のないこと、科学的に間違っていること、根拠なき差別など、愚かしいことに熱心だったりする。ひとりひとりはもっと賢いと思うのだが、社会や集団になると絶望的に愚かになる。新型バカウイルスに感染してしまうのだ。

本の巻頭には、ウイリアム・ギブスンへのインタビュー記事がある。

その中で、ギブスンはこういった。

20世紀には、その極めて早い段階から、21世紀のテクノロジーによる奇跡の領域に入るのだと思われていた。そしてついにぼくたちは21世紀にたどり着いたわけだけど、いまだかつて、「22世紀」について考えを巡らせたり、それについて言及しているものにさえ、お目にかかったことがないんだ!

たしかに(^_^)b
20世紀に描かれた未来像には、21世紀を舞台にしたものが多かった 。
「鉄腕アトム」「2001年宇宙の旅」「ブレードランナー」「AKIRA」……等々。20世紀から見た21世紀は、必ずしもユートピアではないにしても、願望と希望がある未来だった。

2020年から22世紀にどんなイメージを抱いているか?……というと、あまり思い浮かばないというのが正直なところ。ただし、公平を期すなら、21世紀を舞台にした作品が多く出てきたのは、1950年以降であり、20世紀の半分以上を過ぎた頃だということ。それからいえば、2020年は20世紀の1920年(日本では大正9年)に相当するわけで、その頃には21世紀は遠い未来だった。

以下、掲載作品について、感想など。

「藤井太洋/滝を流れゆく」

次世代の伝染病対策が一般的となった2030年代。自主隔離期間をキャンプでやり過ごそうとしたVRデザイナーの斯波紫音しばしおんは、山の奥の滝のほとりで外国人旅行者一家と出会う。やがて斯波は、その家族の奇妙な点に気がつくのだが……。貨物船の群体航行、抗体タトゥー、外骨格、遺伝子編集治療。来るべき未来をSF界のトップランナーが描く。

というあらすじ紹介。
抗体タトゥーのアイデアは面白かったけど、あとは……あまり面白くない。
コロナ後の世界で、伝染病対策として今現在行われている対策が定着する、という設定なのだが、私はそれはないと思う。

喉元過ぎればなんとやらで、人々はコロナ禍のことは遠からず忘れるというか忘れようとする。それはインフルエンザや結核の例を見ればわかる。かつては多くの人の命を奪ったものの、今では誰も気にしない。毎年、数千人がインフルエンザと結核で亡くなっているにもかかわらずだ。コロナ19も、いずれそうなる。自主隔離とかみんながマスクとかは、一過性で終わる。苦しいことを自発的にしたいと思う人間は、そう多くはないからだ。

来たるべき未来のビジョンとしては、やや説得力に欠けるかな。

「柞刈湯葉/RNAサバイバー」

小説として面白い……といっては失礼だが、SFとしてもギミックの使い方がうまい。辺境の孤島の描写も素晴らしく、近未来ではなく「今」のような既視感があった。
短編として、よくまとまっている。

作中の以下の一文が印象に残った。

防疫と民主主義の相性の悪さは「集会の自由」という概念ひとつで十分示せる。

そうそう。思わず吹いてしまった(^o^)
じつのところ、日本でも感染防止という旗印で、自由や権利を剥奪し、経済を否定し、格差や差別を助長するということが、正義として行われている。
ウイルスの前に民主主義は屈してしまったようだ。

「上田岳弘/愛について」

リアル世界を「物理世界」、バーチャル世界を「非物理世界」と呼ぶようになった未来世界の話。
そのリアルのバーチャルの境目がわからなくなる展開。

いわゆるサイバースペースものだが、この手の作品の肝は、脳はコンピュータ(量子コンピュータを含む)と直結できるかどうか?……である。
直結してサイバースペースに、肉体や感覚を完璧に再現できないと、この話は成立しない。

私はそれはできないのではないかと想像する。ギブスンの没入ジャック・インはアイデアとしては秀逸なのだが、実現性には疑問だ。
仮にできたとしても、睡眠中に見る夢のように、あゆふやな感覚なのではと思う。

夢は脳の中だけで、五感を再現するわけで、いわば脳内バーチャルだ。
人によって様々ではあるが、私の場合、五感《視覚(色彩も)、聴覚、嗅覚、味覚、触覚》があり、痛覚も感じるし、重力の変化も感じる。かなりリアルなのだが、それでもリアル世界ほどの確かさはなく、曖昧さが多い。おそらく、リアル感というのは脳だけでは再現できず、肉体が必要なのだ。

人類まるごとロックダウン……という世界は、明るい未来といえるだろうか?……という問いかけなのかな。
これは映画「マトリックス」の世界を彷彿とさせる。
芥川賞作家には申し訳ないが、いまいち新鮮味が乏しい。

「樋口恭介/踊ってばかりの国」

小説なのかエッセイなのか、という体裁。
電子通貨による電子国家というアイデアなのだが、そもそも国家とはなんぞや?……という問題。
「踊りたいから踊ってばかりの国」と郡上八幡国は作られたが、目的意識が同じもの同士で国は作られるわけでもない。

国家は歴史とセットなんだと思う。
日本とは、日本の歴史を背負っているから日本なのだ。

郡上八幡国は経済的に成功したようなのだが、税金がないのに、どこから財源が出てきたのか……そこがわからなかった。また、作中に登場する電子通貨は、任意に発行ができるようなので、ビットコインのようなブロックチェーンの暗号通貨ではないようだ。それだと簡単にインフレを起こしそうなのだが?

「津久井五月/地下に吹く風、屋上の土」

感染症に対する抵抗力を示す「イミュノメータ」のアイデアは素晴らしい。
作中のもののように高性能でなくてもいいが、免疫力を数値化できる装置は作って欲しい気がする。そうすれば、高齢者とか基礎疾患のある人などと、漠然とした区分をしなくて済む。高齢者でも免疫力の高い人はいるし、基礎疾患といっても程度は様々。

この作品でも、未来は次から次へと新しい感染症が襲ってくる未来を描いている。
まぁ、それは必然なのかもしれないのだが、なぜ、命を奪うような感染症が流行するかだ。ウイルスや細菌にとっては、宿主が死んでしまうことは、生存に不利なのに。

地球の生態系を、ひとつの生命体と考えるガイアとするなら、致死性のウイルスや細菌には、役割があるはず。
思うに、それは増えすぎた個体を減らすためではないかと。増え続ける人口は、ガイアにとってはガン細胞のようなもの。バランスを取るためには、人間を減らす必要がある。その役目を果たすのがウイルスや細菌。
……というようなことを思った。

「吾奏 伸/美しき鎖」

新しい技術を背景にしながらも、古典的な展開のSFという感じ。
ラストには「ニヤリ」としてしまった(^_^)

人の言動や行動を子細に記録して、ポジかネガの判定をして数値化……というアイデアなのだが、白黒をどうやって判定するのかの部分は曖昧だった。短編でそこは突っこむな、というのもあるのだが、ポジかネガか判別できないことが多いから、裁判に時間がかかるわけで。

このシステムを可能にするには、善悪の絶対的基準が必要な気がする。

「石川善樹/つながりすぎた人類」

作家ではない予防医学博士に、無茶ぶりしてフィクションを書いてもらったという本作。
ちょっと星新一のショートショート風のオチになっているのだが……。
ぶっちゃけ、小説としてのレベルは低い(^_^)b

でもまぁ、世界中の人がつながる、という発想は日本的だと思う。
人種、民族、言語、イデオロギー、宗教など、それらの違いが差別や格差を生むわけだが、同時にアイデンティティにもなっている。日本人はそういう違いが少ないから、同質化や同調圧力が強く、「みんないっしょ」というつながりに幻想を持つ。

FacebookやTwitterはアメリカ発だが、みんなとつながりたいから使っているのは、日本人くらいではないか?
ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)という言葉が表すように、社会的ネットワークであり、情報発信が目的だ。つながりは副次的な要素で、なんらかの情報を発信して、「いいね」などの反応を得ることで、自己顕示欲を満たしているだけともいえる。

人は孤独が嫌なのではなく、孤独だと思う自分が嫌なんだ。
たくさんの友だちがいるという安心感は、孤独ではないという自己証明でしかない。親友というのも、勝手な思い込みであり、親友とカテゴライズしているだけ……かもしれない。

結局のところ、他人とどんなにつながっているように錯覚しても、相手の心が読めるわけではない。思っていることは言語化するしかなく、言語とは思考を表現するにはきわめて限定的な道具だ。だから、誤解や勘違いが起こる。

世界中の人の心がつながることは、かなり難しい。
というか、つながれないから、多様性があるともいえる。

まとめ

企画としては面白かった。
ただし、印象としては、昨今の新型コロナパニックに引きずられているようにも思う。
この状況は長続きしないし、定着もしないよ。多少の変化はあっても、いずれ振り出しに戻る。毎年、新しい感染症が発生する可能性もあるのだが、そのたびにロックダウンや緊急事態宣言をやっていたら、国家も企業も個人も経済的に破綻してしまう。

度々書いていることではあるが、地球温暖化やプラスチック汚染を含む環境問題、新しい感染症問題、食糧問題……等々の、地球規模の問題の根源は、人類の人口が多すぎることに起因している。地球で生息できる個体数の上限を超えているんだ。

温暖化問題では、産業革命以前ということがよくいわれるが、その当時の人口は現在の10分の1。
逆にいえば、世界人口を10分の1に減らせば、諸問題は解決するということだ。

未来の人口は増え続けるという説と、減少に転ずるとの説がある。
いずれにしても、適正人口へと修正していく必要はある。それができなければ、自滅するしかなくなる。

22世紀の未来には、世界人口が7億人前後で、自然環境と共生し、エネルギー消費量の少ない社会で、つつましく地球で生きる世界か……。
あるいは、ワープ航法を発明して、太陽系外に植民するかだ。

どっちにしろ、これを読んでいる人で、それを確かめられる人はいない……と思う(^_^)b
それとも、平均寿命が150歳まで生きられるようになっているか?

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