五輪エンブレムの原案で気になること」……の続き。

五輪エンブレムのパクリ疑惑に端を発した、一連の佐野デザイン騒動は、私のブログでも度々書いてきた。私は、いちおうデザイン業界に身を置いているひとりなので、この問題の顛末は気になるところ。

エンブレムの原案を公開して、潔白を証明しようとしたら、今度は原案のパクリ疑惑がネットで検証されてしまうという泥沼にはまってしまった。
ミイラ取りがミイラになってしまった図式。

原案を公開する前に、原案の素材を検証しなかったのか?……という疑問が生じる。大会組織委員会内部で検証して、問題点を見つけられなかったとしたら、検証能力のなさを証明したことにもなる。委員会は、ネットでの画像検索方法を知らないのか?……と、いいたくなってしまう、

エンブレム展開例で示されたシーンの作成は、佐野氏本人ではなくスタッフによるものだろう。その手法は、トートバッグと同じだ。ネットで拾ってきた画像を、ちょこっと加工して無断で使う。それが彼らのいつもの手法だったからだ。
そこに、パクリの認識はないし、著作権に対する問題意識もない。「やっちゃいけないこと」という感覚が、そもそもない、あるいは不感症になっているのだと思う。

スタッフ達は、美大やデザイン学校で、デザインを学んできたのだと思うが、そのときに制作した課題や卒制も同じような手法で作品を作ったのだろう。それらの作品は世に出ることはないし、評価する教授がパクリかどうかを判断することは難しい。学生のうちは、それでも許されるかもしれないが、その罪悪感のない制作姿勢が、プロとして仕事をするようになっても継続されたのではと想像する。

佐野氏問題を小保方氏問題と比較する記事もあるが、コピペ手法の背景は同じ臭いがする。
他者の作った(書いた)ものの良いとこ取りをして、あたかも自分が良い作品(論文)を完成させたように錯覚してしまう。
それが上司(教授)に、「いいね」と評価されると、ますますコピペ手法を多用するようになる。
そこに罪悪感はない。認めてくれたから、これでいいんだと自己肯定してしまう。「コピペはだめだよ」と、作品を却下する人がいなかった。そういう環境で仕事をしていると、著作権に対する意識は希薄になる。

じつのところ、そういう環境は、デザイン業界全体に蔓延している。
いわゆる一流デザイナー、一流デザイン事務所とされるのは、デザイン業界の1%くらいしかない。99%は中小のデザイン事務所であり無名のデザイナーだ。私は、99%の中のひとりにすぎない。

私はフリーランスで仕事をしていた時期もあったが、3つのデザイン事務所で働いた経験がある。いずれも小さなデザイン事務所だ。小さなところには、小さな仕事しか来ない。大口の仕事は、大手の広告代理店やデザイン事務所に流れるからだ。
小口の仕事は、制作費は安いし、納期も短い。下請け、孫請けの仕事も少なくない。制約の多い中でも、クライアントの要求は高い。
ある誌面に写真を使う場合、ストックフォトを使うことは多いが、制作費3万円の仕事に、ストックフォト料金が3万円の写真は使えない。利益が出ないからだ。もっと安い写真を使うと、写真のクオリティは低くなる。そこに、ネット上でいい写真を見つけると、タダで使える……という誘惑に駆られることもあるだろう。

そこで「パクリはだめだ」と、ブレーキを踏めるかどうか。
安易に写真やデザインをパクってしてしまうケースは、少なくないのだ。99%のデザイナーの中で、身に覚えのある人は、けっこういるはずだ。私のこれまでのデザイナー経験の中で、先輩や上司がそれをやっているのを見てきた。

佐野氏のスタッフ達は、ブレーキを踏めなかったか、手間と時間と経費をかけないで、数秒でコピペできる楽な方に走った。
エンブレム展開例の空港の写真は、空港まで撮影に行けばいい話だ。参考にした写真があれだとしても、自分で撮りに行けばパクリにはならなかった。都内から成田空港まで行って撮影するとなると、半日仕事になってしまうが、佐野氏レベルの事務所であれば、そのくらいの経費は出せたはずだ。エンブレムの仕事は、些末な仕事ではないのだから。

しかし、それをしなかった。パソコンの前から、一歩も動くことなく仕事を終えられるコピペで済ませた。
問題なのは、仕事に対する姿勢だろう。

制作環境がパソコン上のデジタルになってから、コピペが容易になったことも背景にある。アナログ時代の頃は、印刷物から写真を流用するのは、そもそも無理があった。印刷物は網点で表現されているため、撮影するなどして使うとモアレが出てしまう。
写真はフイルムのレンタルフォトを使うか、撮影するしかなかった。レンタルフォトはフイルムを所蔵しているラボに行って、1枚1枚の写真を手作業で探す。イメージに合う写真を探すのに、複数のラボに行き、1日がかりで探したものだ。

佐野氏がスタッフの使った写真を、盗用かどうかをチェックできなかったのも問題だ。
写真の出所をチェックするのは、基本中の基本だ。ストックフォトを使えば、利用料金が発生するわけで、代金を払わなければオリジナル画像のダウンロードはできない。代金を払ったかどうかは、経理上でもチェックできる。払った記録がなければ、その写真はどこから持ってきたのか?……ということになる。

極めて珍しい写真の場合、ストックフォトには該当するものがなく、アマチュア写真家の公開している写真にそれがある場合もある。その場合は、使用の許諾を取り、謝礼を払うのが通例だ。私の写真仲間が、そういう打診を受けたことがあるそうだが、使用は断ったという。
ネット上にある写真を合法的に使うには手間がかかるから、ストックフォトを使う方が手っ取り早い。トートバッグで問題になったフランスパンなどは、ストックフォトを探せば、似たようなものはたくさんある。個人のブログから取ってくる必然性はなかった。
チェックできなかったというより、そもそもチェックする気がなかった、あるいはコピペを問題にしていなかった仕事の仕方なのだろうと思う。

その他大勢の無名デザイナーの私が発言しても、説得力は乏しいかもしれないが、そのへんを鋭く突いた記事があった。

しくじり佐野研二郎氏に足りない「リスペクト」と「許される力」|社会貢献でメシを食う。NEXT 竹井善昭|ダイヤモンド・オンライン

 それはつまり、ますます世界を巻き込んで広がっている一連のパクリ疑惑そのもの、つまり佐野氏が何をパクったかということよりも、今回のパクリ騒動がなぜここまで大騒動になったか、ということである。

結論を先に述べると、いまだに騒ぎが収まりそうにない今回の騒動の本質は、パクリではなく、佐野研二郎というクリエイターの本質と、日本社会の伝統的な美意識の「対立」なのではないかということである。つまり、多くの人が考える「日本人のクリエイティビティに対する感覚」というものに対して、「佐野氏のクリエイターとしての感覚」が真っ向対立しているところに、今回の騒動の根本的原因があると思われるのだ。こんな人間が日本を代表するクリエイターだと評価させていいのか――。執拗に佐野作品の疑惑を追及する人たちの本当に怒りはそこにあると思う。

佐野作品になき「オリジナリティ」

ちなみに、多くの人が考える「日本人のクリエイティビティに対する感覚」とは、“オリジナリティ”と“リスペクト”だと思うのだが、残念ながら佐野氏の作品からはそれが感じられない。身内の業界人以外からは佐野氏擁護の声がほとんど聞こえてこないのも(ただしその擁護者の多くも、例のサントリーのトートバック事件以降、逃げてしまったようだが)、この二大要素が決定的に欠けているからだと思う。

ほぼ同意。
説得力のある記事だと思う。

以前、私の勤めている会社の社長(アートディレクター)に、「デザインで一番重要なのはなにか?」と問われたことがある。
私は、
「オリジナリティです」と即答。
しかし、社長の答えは違った。
「違う。デザインの質だよ」と。

そのとき、この人とはデザイン感がまったく違うと認識した。彼のいうデザインの質とは、有名デザイナーの作品を真似た、パクリのデザインでしかなかったからだ。トレンドにもなる有名デザイナーのデザインは、質が高いことは事実だ。それを真似ることが「質の高いデザイン」だと、彼は考えていた。そこにオリジナリティはないのだ。
正直なところ、失望したね。

私がデザインの仕事をするとき、写真の使用が必要な場合は、自分が撮った写真を使う。ありふれた雲の写真を使うときでも、自分で撮影したものだ。私はこれまでに撮りためた写真を数万枚持っていて、その中から使っている。上司は無料素材の写真を使っていると思っているのだろうが、じつは私が撮影している(^_^)。私にはオリジナリティのこだわりがあるからだが、私が撮影したものであることは、いちいち申告していない。写真の出所を聞いてくることもないからだ。

クライアントはお得だ(^_^)。私はストックフォトに写真を提供しているが、そこで私の写真を買えば3万円くらいの料金がかかる。それを無料で使っているわけだ。ちなみに、私が週末フォトグラファーをしていることは、会社には内緒。副業だからね。

デザインでオリジナリティを表現することは、けっこう難しい。デザインの構成要素がシンプルになるほど、発想が似てしまうことは避けられないからだ。
しかし、写真くらいは自分で撮ろうよ。その手間を惜しんでいたら、楽な方、楽な方に流れてしまう。コピペで楽をしてしまうと、泥沼にはまってしまって、抜けられなくなる。
そこが「仕事に対する姿勢」であり、竹井氏のいう「仕事へのリスペクト」だろう。

デザイン業界の闇、暗部は、そうそう簡単には晴れないようにも思う。
今回の問題は、デザイン業界全体、有名・無名を問わずデザイナーと呼ばれる人たちみんなに投げかけられた「問い」だ。

「あなたは、オリジナリティを追求していますか?」

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