昨晩、『スカイ・クロラ』を観てきた。
2週連続の映画館は、私としては最近では珍しい。
2週続けて観に行ったことの動機は、1つには押井監督も好きな監督であること。
もう1つは、「ポニョ」で期待感を満たせなかったことの、欲求不満からだった。

『スカイ・クロラ』の感想を一言でいえば、

面白かった。いい意味で、押井らしさを裏切られたことが新鮮だった。

押井監督の過去の作品は、1つの形があった。
それは「破壊へのカタルシス」だ。

結末に向かって、徐々に緊張感が増していき、これでもかという展開の盛り上がりで、最後は一気に巨大な難関を破壊する。
そのカタルシスが、興奮と満足感、ときには空虚感で観ているものを終幕へと導く。
それが爽快感となっていた。

だが、『スカイ・クロラ』は違っていた。
押井節は影を潜め、期待したカタルシスは肩すかしを食らった。
ここから盛り上がるのか?……と、期待したシーンでも、再び静寂に戻ってしまった。
しかし、それは落胆ではなく、別の満足感をもたらした。
それは……

静かなカタルシスだ。

ドッグファイトは興奮するし出色の出来映えだが、その興奮に長くは浸からせてはくれない。
ラヴシーンもあったりするが、あとは想像してください……程度で切られてしまう。
情感をある程度持ち上げられても、スッとかわされてしまうのだ。
入り込めそうで入り込めない世界と人物たち。
観客は映画の世界に、半分くらいしか受け入れてもらえず、傍観者のままで置いておかれる。
それは、マイナス要素であると同時に、押井のメッセージなのかもしれない。
「君たちの世界と、この世界は同じではないのだよ」という。

そのことが逆に新鮮だった。
ストーリーのアイデア的には、SFファンなら馴染みのテーマだ。
上映が終わって映画館を出るときに、あるカップルがこんな感想をもらしていた。
「よくわかんなかったね。4~5回観ればわかるのかもしれないけど」
なるほど、SFファンではない人たちには、私以上に入り込むことができなかった世界なのだろう。そういう意味では、観客を突き放してしまう作品だともいえる。

見終わったあと、今までの押井作品では感じられなかった満足感があった。
期待を裏切って、まったく別の心地よさを感じさせてくれたこと。
面白い……といっても、面白さはいろいろ。
『スカイ・クロラ』には、空虚感と淡い希望が同居していて、戦闘機で戦う彼らが、今も私の頭の中で終わることのない戦闘を繰り広げている。
そのことを象徴するかのように、スタッフロールが流れたあとにも、もう1つのシーンが用意されていた。最後まで席を立たないように。

以下に、メディアでの記事をビックアップ。

スカイ・クロラ The Sky Crawlers@映画生活作品情報(詳細)

世界中のクリエイターからリスペクトを受ける押井守監督が撮りあげた鮮烈な物語。森博嗣の小説を原作に、「キルドレ」呼ばれる年をとらない若者たちが、戦闘機のパイロットとして戦いながら生きる意識を変化させていく姿を描く。澄み渡る蒼穹の中を時にあがき、時に愛を求めながら飛ぶキルドレの若者たちは、そのまま生きづらい現代社会で彷徨する現代の若者たちと重なっていく。キャラクターの心情は淡々と描かれる一方、空中戦のスピード感は圧巻。プロペラ機がまるで生き物のように縦横無尽にスクリーンを飛び交う。声優には菊地凛子や加瀬亮ら有名俳優たちをキャスティングし、独特の雰囲気を生み出した。

「スカイ・クロラ The Sky Crawlers」 : 映画評 : 映画 : エンタメ : YOMIURI ONLINE(読売新聞)

 本作には、今を生きる若者たちに真実の希望を伝えたいという、押井監督の思いがこめられている。56歳の監督は、自分より30歳若い脚本家の伊藤ちひろを起用して、言葉ではなく映像、とりわけ人物がまとうこまやかな気配の表現に挑み、今の若者が抱える気分に迫ろうとした。

従来の押井作品の膨大にして美しい長ぜりふが封印されているのは、少し寂しい気がするが、かわりに人間の役者でもそうそうできないであろう繊細な演技をアニメーションのキャラクターにやってのけさせた。その表現者としての誠実さ、貪欲(どんよく)さは、すごい。

「スカイ・クロラ」 臨場感あふれる空中戦 押井守監督「戦闘機乗りの日常描く」 (2/2ページ) – MSN産経ニュース

 一方、アクションを得意とする押井演出は空中戦の場面で“本領発揮”。ミサイルのない時代、生身の人間同士による機銃だけを使ったドッグファイトは臨場感にあふれ息をのむ。

「地上の停滞した時間の流れと雲の上での圧縮された時間との差を体感してほしい」

生きる意義とは何か-。パイロットの気持ちで考えてほしいというメッセージだ。

[空を飛んで海を越えるスカイ・クロラ](上)押井監督「記憶」よりも「記録」にこだわる:芸能:スポーツ報知

 前作「イノセンス」ではカンヌ国際映画祭のコンペ部門に選ばれ、今作でベネチア。押井監督は、日本人で初めて両映画祭のコンペに名を連ねたアニメ監督としては、欧州での知名度は宮崎監督以上ともいわれる。が、押井監督は、海外のジャーナリストに言われた言葉を忘れることができない。「記憶には残るけど、記録には残らない」

ヒットを連発する宮崎監督とは対照的に、押井監督は前作「イノセンス」で記録した興収10億円が自己最高。「イノセンス」に関しては「今でも最高のものを作ったと思っている」と自負しているだけに、今作ではその先、ヒットを目指す気持ちも強い。それは製作スタイルの変化にも表れていた。

余談だが、菊地凛子の声優としての演技は、レベルが低かった。誰? このへたくそは?……と思ってしまった。
また、押井作品が宮崎作品のように、大ヒットすることはないと思う。
そもそも映画の個性が違うし、観客のターゲットも違う。
しかし、それでも押井監督は押井監督らしい作品を作って欲しいと思う。
記録ではなく記憶に残る作品でいいではないか。

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